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LSI製品にインドの設計力を活用し、コスト競争で勝てる体力・製品を作ろう

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1月30日にインド大使館で、半導体関係のビジネスセミナーが開かれ、講師として大勢のインドの方や日本の方をお相手に私の拙い英語で昨今のLSI設計分野の動向についてプレゼンさせていただいた。そのダイジェストは誰でも読める。インドは設計を得意とするお国柄で、古くからLSI設計では定評がある。日本にもオフィスを構えるインドの企業が増えている。

今は、LSI設計は一から十まで電子回路を書いていくわけではない。昔のCADで見られた回路入力という作業はSoCのような複雑なLSIではもはやない。その代り、LSI設計言語であるVHDLやVerilogなどを使ってIF、THEN、ELSEなどの「文章」を書いていく。プログラマと同じだ。書いたプログラムは入力ミスや、回路上の競合関係などのバグがないか、をチェックする検証という作業が伴う。検証はプログラムをこまめに追いかけるわけではない。書き終えた論理図に対していろいろな入力のパターンを作成し、予測されるデータとマッチしているかどうかをチェックする。テストベクターと呼ばれるこの入力パターンを作成することは時間のかかる作業だ。最近では自動的に推論などで検証できるツールも出てきている。

検証・修正が終わると、今度は論理図を実際の回路におろすためのネットリスト(回路の接続情報)を構成しなければならない。それも自動的に作成する論理合成という作業を経る。その後、その回路接続情報を元にフォトマスクに焼き付けるわけだが、実際に焼き付ける前に、ソフトウエアの状態でシミュレーションしてタイミングに問題がないかどうかをチェックする。タイミングそのものの設計仕様が間違っていることもあり、クロックのずれやレーシング、ジッターなどは許容範囲かどうかなどをチェックする。修正した後に最終的なデータ(マスクに焼き付けるだけのGDS IIフォーマットデータ)を得る。

LSI設計といってももはやプログラミングやシミュレーションといったソフトウエア的な作業がかなりの部分を占める。かつて、私の職場にLSI設計を手掛けていたという新人が入ってきたが、電気回路は全く読めないが、ソフトウエアでプログラムを書くことには長けていた。こういったLSI設計をいつまで日本人だけでやるのだろうか。長年、LSI設計に手練れてきたインドの設計会社を使うという手が選択肢に上がってきてもいいはずだ。こう思っていた矢先に、NECエレクトロニクスが開催した1月末の決算発表の席上で、同社の中島俊雄社長は、「開発コストを減らすため、インドなどの海外のリソースを使う」、と宣言した。

インドにLSI設計を最初に持ち込んだのは、米テキサスインスツルメンツ社だ。インターネットがまだ普及していないころからTIは衛星回線を利用して設計データのやり取りをインドとテキサス州ダラスとの間で行っていた。TIのバイスプレジデントクラスにインド人は何人もいた。TIはインドとのなじみがよかった。このあと、STマイクロエレクトロニクスもインドにデザインセンターを構えた。LSI設計を安い労働力のインドで行い、コスト競争してきたのである。ようやく日本企業も重い腰を上げた。

ただし、インドへ行くばかりが能ではない。日本企業がインドへ行くのではなく、最近はインドから日本にオフィスを構える企業も出てきている。例えばWipro社は日本国内に百数十人の社員を抱える設計会社として日本法人がある。タタエレクシー社、KPIT Cummins Infosystems、Aricent、Ansinsoft Globalなども日本法人がある。当日のセミナーではこういった方々とも名刺交換した。日本語も流ちょうに話す。日本企業がインドの設計請負企業を活用し、LSI設計検証以外のアーキテクチャ設計や追加機能などに集中すると、安くてより良い製品ができる。

この世界不況がやってきて日本企業はようやくインドの設計力を活用することに重い腰を上げた。もっと早くからやっていればコスト競争で海外に勝てる機会があっただろうに、と思うが、今からでも遅くはない。むしろインドを活用するなら一刻も早く急いだ方がいい。スズキ自動車のインド市場席巻はインド人も高く評価している。インド市場が日本企業に独占されたとは決して思っていない。高く評価するインド人は多い。同じことを半導体でもさっさとやるといい。

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