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ビートルズはなぜI wanna hold your handとしたか

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イギリス英語で、「・・・・・したい」は「want to ・・・・」である。「wanna」とは言わない。「wanna」はアメリカ英語である。イギリスのリバプール育ちの彼らはもともと使わない言葉なのに、なぜ「I want to hold your hand」ではなく「I wanna hold your hand」にしたのか。

当時のビートルズはイギリスで「Love me do」などのヒット曲をようやく飛ばしたばかりにすぎず、アメリカではまだ知られていなかった。「I wanna hold your hand」こそが、アメリカ上陸に向けた最初の製品だったのである。だから敢えてアメリカ英語を使った。この結果、ビルボード誌で7週連続トップの座を獲得した。ビートルズはドイツにも進出するため、ドイツ語版も唄った。同じような例は、アバ(ABBA)にも見られた。スカンジナビア地方スウェーデン出身のアバが欧州ポップス界の中心地イギリスのロンドンでデビューするため、母国語のスウェーデン語を捨て、あえて英語で「Dancing Queen」や「Mamma Mia」などを唄った。

国外で成功するためにはデビュー間もないビートルズやアバといった大物アーティストでさえ、相手の国に合わせるという戦略をとって成功した。今、日本の半導体業界はどうか。海外のユーザーの要求に合わせたり、さらに良いアプリケーションや仕様を提案したりしているだろうか。日本の“優秀な”技術を相手に押し付けていないだろうか。いくら優秀な技術だとしても相手の要求とマッチしなければ絶対にモノは売れない。

SoCビジネスにこだわる半導体メーカーが海外売り上げ比率を上げようとすれば、海外の仕様に合わせる努力を当然しているはずだと信じる。第三世代携帯電話のFOMAの海外進出大失敗は記憶に新しい。W-CDMAの大枠は合っていても詰めが甘くては結局使えないものになってしまう。海外でSoCビジネスを本気でやるなら、細部の細部までとことん顧客と議論し仕様を詰めていく覚悟がなければ無理だ。国内SoCメーカーに相手と細かいところを詰めてゆく覚悟はあるだろうか。

海外売り上げの多い産業をよく見ると、部品やかつてのメモリーなど比較的売りっぱなしが許される製品が多い。海外の顧客と細部の細部にわたってとことん議論しながら設計する製品ではない。細部の細かい仕様を相手と議論に議論をし尽くす製品は、言葉の問題があって日本企業には難しいかもしれない。売りっぱなしの製品や日本の押し付けが通る製品を作ることが海外進出のセオリーではないだろうか。「I want to hold your hand」としか言わない国の人が「I wanna hold your hand」と言わなければ売れない国へモノを売ることと同じことが日本人にできるだろうか。できるのならSoCビジネスにも将来も成長できる活路は開けるが。


津田建二

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