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垂直磁気記録のHDDで製造装置にビジネスチャンス

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8月21日付けの日本経済新聞によると、日立製作所と富士通が垂直磁気記録方式のハードディスク装置(HDD)を製造するという。この方式は、磁性体平面に対して3次元的に垂直方向に磁化させるというもの。通常は、磁性体ディスク平面に水平方向に磁化を向かせていた。

この垂直磁気記録方式のルーツは、1970年代後半にさかのぼる。当時、東北大学の岩崎教授が磁気テープの時代に考案、実験してみせた。1977年には日経エレクトロニクスに同氏の論文が掲載された。磁気テープはオープンリールからカセット方式(フィリップス社の発明)へ移りつつあり、オーディオテープ以外にも家庭用ビデオテープが普及しつつある頃だった。ベータ方式、VHS方式と二つの規格が走るなど、磁気テープがメジャーになろうとしていた。磁気テープの記録密度を上げるための技術だった。

あれから30年以上経ち、特許はとっくに切れたのだろう。この垂直磁気記録を採用したHDDを搭載した携帯用音楽プレイヤーが昨年、東芝から出てきた。

半導体側から見ると、HDDの容量に追い付けそうでなかなか追いつけない時代が長かった。HDDは磁気ヘッドの改良が進み、薄膜磁気ヘッド、MRヘッド、GMRヘッドへと次から次へと新しい技術が登場し、大容量化への道をまっしぐらに進んだ。HDDに対抗する書き換え可能な不揮発性半導体メモリーとして、フラッシュが携帯電話に使われるようになり、さらに音楽プレイヤーなどの出現によりGビットを超える容量になってからフラッシュメモリーがようやく本格的に使われる時代になった。

次の携帯機器はiPhoneで代表されるPDAらしい携帯通信機器のビデオ応用だろう。フラッシュやDRAMの容量はいくらあっても足りないくらいほしい。問題はビット単価である。HDDと比べるとまだ数倍以上も高い。

そこへ今度は、HDDが垂直磁気でさらに大容量化を目指すというわけだ。垂直磁気記録は水平よりも5~6倍高密度になるといわれている。

半導体メーカーやマスメディアはフラッシュ対HDDという対立の図式で議論するが、半導体製造装置メーカーにとってはどちらもビジネスチャンスと写る。半導体ウェーハ上にさまざまな薄膜を形成する技術は、磁気ヘッドや磁気ディスクの薄膜形成にも使える。薄膜磁気ヘッドはシリコンのような基板材料の上に磁性体膜をスパッタリングなどで形成する。磁気ディスクはポリカーボネートなどのディスク基板の上にスパッタリングなどで磁性体膜を付ける。

薄膜パターンの形成にはリソグラフィ装置を利用する。米国のGCA社などはこの分野に強い。つまり、HDDに使われるディスクやヘッドの生産には半導体製造装置が欠かせないのである。HDDに垂直磁化を形成するための薄膜製造分野にビジネスチャンスがある。


津田建二

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