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DRAMビジネスから見えてきた、グローバルな考えで進めるべき産業再編

NECが東芝と統合交渉を始めている、というショッキングなニュースが流れた。NECエレクトロニクスと東芝のNANDフラッシュメモリー以外の部門との統合についての話はこれまでも何度もあった。浮上しては消え、浮上しては消えていった。先週、電機各社の決算発表会があり、そこでは半導体メーカー同士の統合という話は全く出ていなかった。翌日、NECと東芝の統合交渉の話が新聞に出た。今回は事実なのか。

メモリーという汎用の半導体デバイスだと、まともに競合するメーカーは多い。DRAMの産業再編はもちろん現実的だ。台湾のパワーチップセミコンダクターやプロモステクノロジーズ、日本のエルピーダメモリ、米国のマイクロンテクノロジー、そしてドイツのキモンダがどのような形で産業再編を形成するのか、世界中が注目している。その矢先に、キモンダがミュンヘンの裁判所に破産手続きを申請したというニュースが流れた。ただし、キマンダがDRAMを生産し続けるかどうかは管財人の判断による。

今回のDRAMの産業再編は、これまでになく国家間競争の意識が少ない。これまで日本の半導体企業の産業再編となると、決まって日本企業同士で提携や合弁などの関係を結んでいた。しかし、DRAMビジネスとなると供給プレーヤーは日本1社、ドイツ1社、米国1社だが、韓国2社、台湾数社とプレーヤーはそれほど多くはない。しかもDRAMビジネスでは断トツチャンピオンのサムスン以外はどれもいつつぶれてもおかしくない。サムスンがあまりにも巨大でひとり勝ちを続けてきたため、キマンダは耐えきれなくて破産申請した。他のメーカーもサムスンに対して何とか一矢報いたい思いで再編に臨んでいる。産業再編がまさにグローバル化しているのである。

同様な産業再編構造が実は他の国でも起きている。例えば、CDMA技術の基本特許を持つ巨大なファブレスの米国クワルコム社に、同じ米国のテキサスインスツルメンツは対抗措置として欧州のSTマイクロエレクトロニクスと組んだことがある。国と国との対抗ではなく、企業対企業の対抗がグローバル化している。韓国のハイニックスでさえ、対サムスン連合で外国企業と提携あるいは統合するかもしれない。対抗意識がとても強いためだ。

このようなグローバルな考え方はシステムLSIにも適用できるだろう。何も日本企業同士が統合する必要はない。日本企業と海外企業がお互いのメリットを持てるようなWin-Winの関係を持つために買収する・されるということがありうる。海外ではむしろこれが常識で、先進国では1国の政府が指導して自国内の企業同士をくっつけようとはしない。企業間でどのようなWin-Winの関係がありうるのか、具体的な製品でどうか、営業ネットワークでどうか、設計力・製造力・流通力・顧客の種類・分野などさまざまな観点から検討する必要がある。最もわかりやすく効果的なものは製品の種類と顧客との関係である。Win-Winの視点がない限り、無理な国内企業同士の統合は結局、世界的に見て競争力を持てなければ負けてしまう。

マイコンビジネスで例えばNECエレクトロニクスと東芝を比較してみよう。NECは4,8,16,32ビットのマイコンをすべてフラッシュマイコンにしており、マイコンの開発環境はサードパーティも巻き込んだ形で技術を一部公開し、サポートする仲間の企業を増やしている。片や東芝のマイコンはTLCSファミリーだけで開発環境は自社で作っている。仲間は外部にはいない。プロセッサについてはNECがVRシリーズをサポートしているのに対して、東芝はMIPSの32ビットRISCに加え、Cell、MePも持っている。それぞれの開発環境は自社だけで閉じている。

ディスクリートデバイスについてみると、NECと東芝のディスクリートはパワーMOSFETや小信号トランジスタ・ダイオードなどダブっている製品が多い。つまりまともに競合している。ここで市場が広がっていればともに収益が出ているはず。しかし安定な市場であれば、収益は出ず整理していくしかない。つまりディスクリートデバイスは統合すべきだろうが、マイコンやプロセッサは整理するのではなく、それぞれで市場を広げていくほうが、Win-Win関係になる。

新時代の2社企業の統合について言わせていただけば、製品別に考えるべきだ。競争関係になる製品は強い方が弱い方の製品ビジネスを買い取り、競争しないものは従来通りそれぞれが市場を広げていく、というやり方が自然ではなかろうか。競合関係にあって強い企業がその製品部隊を買い取ればますます強くなるし、売る企業は弱い分野の製品を切り捨て、もっと得意な分野に集中する。すなわちどちらも強くなるのである。

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