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CEATECの異変から見る、ニッポンものづくりの危機

CEATEC Japan2008に異変が起きている。半導体大手のルネサステクノロジ、NECエレクトロニクス、富士通マイクロエレクトロニクスが出展していない。もともと、CEATECの前身のエレクトロニクスショーは、デバイスと家電民生品の展示会だった。すべての電子機器のエンジンともいうべき中核デバイスの半導体を設計製造販売するメーカーの中でも大手の代表ともいうべき企業が出てこなくなったのである。

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主催者によれば、今年の出展社数は804社/団体と昨年の895社/団体の1割減、出展ブース数は3121小間と昨年の3199小間より2.5%減とやや下回った。一方の展示会参加者は、初日が28,842人と昨年初日の33,241人よりも13.2%減、昨日の2日目は34,639人と昨年2日目の41,617人よりも16.8%の減少、と精彩を欠いている。それだけに出展した半導体メーカーの大手STマイクロエレクトロニクスが輝いて見える。

一方で、米国のアナログデバイセズ社は、CEATECには出展せず、会場の幕張メッセに近いホテルニューオータニ幕張でプライベートショーを開催している。こちらは商談の機会を狙ったもので、重要な顧客や顧客になりそうな企業を招待し、最新技術や新製品を見せたり、ロードマップを紹介したりしている。

こういった動きは展示会の性格が変わってきていることと関係するのではないかと推察する。すなわち、技術力を示し将来の潜在顧客に製品を見せる、といったこれまでの考えではなく、顧客との商談や繋ぎ止めるための将来計画をお話しするといった商談の場としての展示会へと、出展社の意識が変わってきたのではないか。米国や欧州の展示会は明らかに性格が変わり新製品のショーではなく、商談会の場となってきている。

このため、ブースデザインも変わってきており、新製品を見せるのではなく、商談するための飲み物やスナックなどを充実させている。スペインでのWorld Mobile Congressではワインやビールを置いて顧客を接待するブースがたくさん見られた。商談の場として展示会が効果的なのは、わずか3日〜4日で大勢の顧客あるいは潜在顧客と直接話ができることである。さまざまな顧客と話をするためのアポを取り現場へ出向くという従来の商談パターンだと、20社と会って話をするのに2~3週間は見なければならないが、展示会でアポを取れば3~4日で20社と商談することは簡単だ。

展示会ビジネスで今、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているリードエグジビションジャパンは、商談スペースを確保し、商談するための場であることを出展社に訴求する。CEATECの主催団体は工業会であり、親睦をはかるという目的からすると商談ビジネスという市場経済の視点で見たビジネスとは意識が違うのかもしれない。

「日本から何をイメージするか」という質問を10年ほど前は外国出張した時に現地の人によく浴びせたが、彼らの答えはいつも決まっていた。「ソニーやトヨタなど代表的なハイテク製品を作る国」であった。つまり日本はハイテク製品のモノづくり大国なのである。民生家電製品はその代表的なもので、CEATECはそれをデモンストレーションする絶好の場である。

にもかかわらず、今回のように出展社、来場者の減少は、日本がハイテク製品をもはや作らなくなる、というメッセージの始まりかもしれない。だとすると非常に大きな危機が来ていると認識すべきだろう。NECエレクトロニクスが研究開発費を削って利益を何とか確保したという新聞記事を見たが、これが真実だとするとNECエレは極めて厳しい。たとえ短期的に利益を出したとしても将来の目がつぶれてしまうからだ。これでは株価が下がるのは当たり前だ。たとえ赤字でも研究開発にきちんと投資し近未来の製品を生み出す能力があることを示せば株価は下がらない。そのような企業はいくらでもある。将来展望を示せるかが企業の価値となるのである。

話は横道にそれたが、今後の展示会で顧客との対話、将来展望となるロードマップ、そのための研究開発技術、などを顧客や潜在顧客に示し理解してもらうように話をすることが、出展社にとっても主催者にとっても成長していくための一歩となると思う。

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