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そろそろ5月病にかかるかもしれない新入社員へのエール

4月に学校を出たばかりの新人が入社してひと月たった。伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長が若手社員育成法について語っている記事が5月10日の日本経済新聞に掲載されている。人材が会社の繁栄のカギを握るとよく語っている同氏は、最近の若手は「伝書鳩世代」と呼び言われたことを伝えるだけ、指示が来るまでじっとしている姿勢も多いと嘆く。少子化やゆとり教育のせいか競争意識が乏しく、逆境にさらされたこともないのに自分はよくやっていると思い込んでいるともいう。

同氏は、社員を厳しくかつ戦略的に育てると語り、どん底に突き落とすこともいとわない。苦しい時こそ、はい上がる気力や周囲を思いやる気持ちを育てることができると考えている。だから、社員を評価する項目は、未知の世界に挑戦する情熱、逆境での競争力があるか、さらに相手の立場や社会的な視点から物事を考えられる良識や常識を持っているか、だという。社会人になって30数年、私も丹羽会長の考えに共鳴するところが多いにある。

本当の逆境は、身近のところからも経験できる。社会を動かす人たちを取材してみると、逆境を必ず経験している。ユーザーからのクレームに追われたとき、客から叱られたとき、間違った製品や情報を伝えてしまったとき、などの対処の仕方で、大きなトラブルに発展したり、客から信頼を失ってしまったり、会社としての大きな損失につながることはよくある。最近のいろいろな偽装問題は、こういった小さなトラブルへの対処を見誤ったために犯罪にまで発展していった。しかし、このような失敗を恐れず、誠実に懸命に対処していけば会社としての信用をかえって上げることもあるし、何よりも自分が最も大きく成長する。大事なことは誠実さである。

逆に、クレームが来ないように、客に叱られないように、という常に「逃げの姿勢」でいれば、必ず大きな失敗に出くわす。ミスは確率的なものであるから、どのような人でもミスをしてしまう。だからといって、ミスは当り前だと居直ってしまっては何の成長もしない。同じミスを何度も繰り返すのはプロではない。仕事をしてお金をいただいているプロである以上、ミスから逃げてはいけない。こういう私もずいぶんミスをしてきたし、客から叱られたりもしてきた。

どうやって解決してきたか。一度やってしまったミスを二度と起こさないようにするにはどうしたらよいか、これを知恵を絞って考え抜くのである。同じミスを2度繰り返すのはプロではない。この思いはいまでも心の中にある。ミスを繰り返さないための解決策が見つかったら、すかさず実行する。そして、そのミスを絶対に忘れない。徳川家康は、三方が原の合戦で自分のミスで武田信玄に敗れた時の姿を絵師に描かせて一生、そのときの敗戦を忘れないようにしたと伝えられている。

それだけではない。自分が失敗した時こそ、成長する大きなチャンスになる。この失敗を逆手に取り、一歩前に踏み出す提案をするのである。かつて特集の取材をやっていてその特集が発行されたあとで、「なぜうちの会社を取材してくれなかったのか。うちだってそのテーマをやっている」というクレームをいただいたことがある。しかし、その会社はそれまでどこにも発表しておらず、全く眼中になかった。全業界をカバーしていなかったのはこちらのミスだ。こちらの力不足によってそのようなクレームをいただいたことを謝った後で、「じゃあ、御社がやっている仕事の詳細を教えてください。他との違いが鮮明に出るのなら寄稿してください」と逆提案した。そして相手のテーマを徹底的に取材し、記事として掲載し、まだどのメディアにも載ったことのない特ダネとなった。こちらの雑誌も価値が上がり、相手の企業も宣伝効果になり、Win-Winの関係をそれ以来築くことができた。

ミスから逃げてはいけない。また顧客に対してしてしまったミスにあとから気づいたら、顧客が気づく前に先に電話で謝っておき、すかさず相手のところへ行き謝る。しかも自分ひとりで行く。先手必勝だ。そうなったら相手は怒れない。ただし、メールで謝るのは時には逆効果になる。誠意が全く感じられないからだ。こちらが間違ったなら、誠意をもって謝りにゆき二度と繰り返さないようにいくつかの対策を考え実行することを伝える。

こちらが悪ければひたすら謝るが、悪くなければ謝らないという姿勢も時には必要だ。この考えは誤解を呼びやすく、悪いシナリオに運ぶこともありうるので、新入社員の方にこれについて語るのはやめときましょう。

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