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リアルに近づき生々しくなった3次元CAD

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オートデスクの記者会見に出て驚いた。鬼澤社長は最新の3次元CADやシミュレーション(CAE)技術について紹介したが、その画像たるや、写真ではないかと疑うほどのきれいな試作車や人物が描かれている。光のシミュレーションも組み込み、光の陰影などの表現が実にリアルである。CAD技術はかつての単なる設計図から、ビジュアルな写真まがいの設計像へと発展している。

デザインアクセラレーターによる自動モデリング


3次元CADを使って試作したい商品の設計図を描くという作業から、今は想像の人物をリアルに描くとか、モナリザの複製画を本物以上に作成するとか、いわゆる偽物をコンピュータ上で作りだすことさえできる。

昔、理工系の大学では図学という授業があった。設計図を描くためのいわゆる製図である。正面、上面、側面という3つの図面から3次元の形状を想像するという作業だ。ただし、この図面は素人が見ても何の図なのかはわかっても、具体的なイメージがわかない。単純な点と線だけからしか描いていないからである。色もない。作図した本人はどのようなイメージの立体像なのか分かっていてもそれを見た人間は、製図の専門家ではないとわからない。

CADの時代になっても、表現方法が単なる数値では専門外の人間にはわからない。それが線としての表現になってもまだわかりづらい。カラー化され、さらに3次元の光の陰影や回転図形を表現できるようになって初めてイメージがつかむことができるようになった。この3次元CADの最大の利点は専門外の人間にもイメージをつかむことができる点だ。これまで専門家しかわからない画像ではそれを生産現場に送ってもイメージをつかめない。役員にプレゼンする場合でも理解してもらえない。3次元像を回転したり、陰影を表現したりすることでようやく役員にも見てもらえることができ、開発の意思決定を早めることができる。

今回、オートデスクが見せたCAD出力画像は、写真かと思えるほどのリアルに近いものだ。ここまでリアルに仮想イメージを伝えられるようになると、設計図をもとに自動車やさまざまな機器を生産する意思決定は早くなり、生産工場への移管も早くなる。ものづくりにとって頼もしい存在になりうる。

製造業だけではない。映画産業も変えうる。すでに、「スパイダーマン」や「トランスフォーマ」などの映画では3次元CADやCAEとグラフィックスエンジンが欠かせない。登場する俳優は今のところ、本物ではある。しかし、近未来のアクション映画だけではなく、人情ものや恋愛コメディ映画でさえ、俳優の一人もいない映画ができる時代はもうそこまで来ている。髪の毛一本一本まで実にリアルに描かれていて、実在しない人物でさえ、3次元CADで創造できる。

そうなると、映画の製作や俳優の地位、声優の仕事など映画産業の構造ががらりと変わってしまいそうだ。映画に登場する人物を3次元CADとグラフィックスエンジンを使えば、本物そっくりの俳優を創り出すことが出来てしまう。俳優という職業が失われてしまう可能性がある。声優でさえ、音声合成技術が進化すれば失業する可能性もある。新しい産業構造の改革が迫られることになりそうだ。

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