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「エルピーダメモリ、台湾3社と統合へ」のニュースの裏を読む

「エルピーダメモリ 台湾3社と統合へ DRAM世界2位へ」という見出しの記事が2月11日の日本経済新聞に掲載された。この記事は、1面トップのいわゆる特ダネといわれる日経独占のビッグニュースである。11日は建国記念日という国民の休日である。そのような日に1面トップを飾る記事として、エルピーダの資金調達(詳細はこちら)に関するオプションの一つが決まった、と日経新聞は伝えた。

ところが休日にも関わらず、午前11時51分にエルピーダの広報室から、これを否定するニュースリリースが流れてきた。そのリリースは「日本経済新聞による報道について」と題して以下のように書かれている。
「本日、日本経済新聞より「台湾の半導体メーカー三社と経営統合することで大筋合意した」との報道がなされておりますが、そのような事実はなく、現時点では何も決定していませんのでお知らせいたします。」

最初は、もしかして日経の勇み足かな、と思った。しかし、日経の記事をよく読むと、「統合のスキームは今後詰めるが、持ち株会社の傘下にエルピーダと瑞晶をぶら下げる案が有力。瑞晶の下に力晶と茂徳が並ぶ仕組み。詳細をまとめて月内にも正式発表、早ければ2009年度中の経営統合を目指す」と非常に具体的な仕組みにまで言及している。事実である可能性は高い。しかも、エルピーダの広報室が流したニュースリリースは上記の記述がすべて。

これだけの材料で、どこが事実でどこが事実ではないかを見極めることが難しい。ただ、これまで長年のジャーナリストとしての経験から言えることは、こういった特ダネは事実に基づくことがやや多いことだ。事実が広報室を飛び越して、企業のトップや役員クラスが意図的に新聞記者にリークしてセンセーショナルに世の中に訴えることは常識化している。一方の記者やメディア側は取材源を明らかにしないことはジャーナリストとしての基本中の基本。さもなければ個人に多大な迷惑が及び、時には自殺に追い込むことさえあるからだ。ジャーナリストの責任は非常に重い。

これまでも、トップクラスのリークによる1面報道と、懸命に否定する広報室からのニュースリリースはよくあった。広報室としては、何も知らされていないままに新聞やウェブに勝手に自社の話題が載ることを快しとはしないからだ。どこかに事実ではない表現を見つけて否定してきた。

では、今回のエルピーダの場合はどうか。坂本幸雄社長が日経の記者に勝手にリークしたとはとても考えにくい。坂本社長にとって、リークしたことによるメリットは何もないからだ。となると、残されたソースは、台湾側だろう。統合のスキームがほぼ固まったような書き方は台湾側から取材して得た情報である可能性は高い。日経はもちろん台湾に編集オフィスを持っている。台湾の誰かに取材して得た情報ならば、広報室が知らないまま記事になるケースは十分考えられる。

では、広報室の否定した事実は何か。「台湾の半導体メーカー三社と経営統合することで大筋合意した」という記事の、「大筋合意した」ことはまだ事実ではないのであろう。これから詰めていくのであって、まだ合意に達してはいないのに違いない。しかも、新聞記事では、「坂本幸雄社長が11日に台湾で、台湾当局や提携交渉中の半導体メーカーなどと大筋合意する見通しだ」とある。つまり、大筋合意は間もなく、と読むのが正しいのかもしれない。明後日中にも事実関係がはっきりするだろう。

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