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産総研が最先端トランジスタ技術を開発する意味について考える

つくばの産業技術総合研究所で開かれているINC8に出席した。初日はTIA(つくばイノベーションアリーナ)の紹介や、産総研の研究開発状況などを聞いた。東芝を除く日本の半導体企業が45nmプロセス以降の開発を止めている状況の下で、産総研による化合物半導体オンシリコンやトンネリングFET、3次元メモリなどの発表を見ていて考えてしまった。

図 INC8のパネルディスカッション風景

図 INC8のパネルディスカッション風景


多くの日本の半導体産業が微細なプロセス開発をやめた状況で、産総研が微細プロセスに必要なトランジスタ構造や材料開発を行う意味は何だろうか。こう書くと、税金の無駄使い、と言われそうだが、必ずしもそうではない。産総研の役割は、国の研究開発を通して民間企業を活性化することにある。今の時代、日本だけで閉じて考えることは、もはや不可能になっている。グローバルなアイデア、技術、サプライチェーン、市場などに渡って、パートナーシップが欠かせなくなってきている。

こういった状況下で、産総研は民間企業を活性化するためのソリューションを考え出さなければならないのである。ではどうやってソリューションを探るべきなのか。この答えはその問題を明らかにすることから始まる。問題を洗い出し、それぞれの問題に一つ以上の解決策を提案する。解決策の集積がソリューションとなる。それが企業を元気にすることにつながっているかを検証しなければならない。

ベルギーの研究開発機関IMECのCEOであるリュック・バンデンホッフ氏は、ベルギーのフランダース地方には半導体産業がないために中立性を保つことができたことが成功要因の一つだと述べている(参考資料1)。つまり周りに半導体産業がなくても半導体研究開発機関を設立・運営できるのである。同氏は、自国の半導体産業や国家からの圧力がないから、世界中の企業とのコラボレーションを図ることができたとしている。米国の半導体コンソーシアムであるSEMATECHは、連邦政府からの資金ではなく自主運営に切り替えて独立性を強めた後に事業が継続できるようになった。海外からの資金を呼び込んで成功したといえる。

IMECの例から考察すると、たとえ日本半導体産業の競争力が失われるようになっても、外資を呼び込む、外国企業に資金を出させてコラボさせ、つくばの近くに新たに半導体会社を起業させる、というストーリーが描ける。外資をもっともっと呼び込み、利益を生み出し税金を払ってもらえばよい。つくばや周辺地区には新たな雇用が生まれる。産総研がそのためのエンジンとして働ければ決して税金の無駄ではない。それどころか、税金を稼ぐエンジンともなりうる。

そのためには起業しやすい環境を作ることが重要になる。いま、日本のVC(ベンチャーキャピタル)は、「羹(あつもの)に懲りてなますを吹く」状態である。つまり、リーマンショックに懲りて有望なベンチャー企業にさえも資金を提供しない。起業しにくい状況にあることは確かだ。私の所に話を聞きに来るVCを見ていると技術的な目利きがいないということがよくわかる。VC1社で目利きの人間を抱えることができないからだろう。だったら、VCのコンソーシアムを作り、目利きをみんなで共有すればよい。コストが下がり、有望な投資先の情報をもらえる。もちろん、VCごとに秘密厳守のNDA(Non-disclosure agreement)を結べばよい。

ベンチャー企業の経営にもアドバイスして事業が早く立ち上がるように支援すれば、資金回収は早まる。ベンチャー企業が成功するためには市場に則した適切なアドバイスが欠かせない。市場を見極める力は業界のベテランが強い。経営のノウハウを持つ元経営者のネットワークを利用する。産総研はライセンス供与して技術指導を行い、「出世払い」方式のロイヤルティを受け取るビジネスモデルを立てる。

もちろんエンジニアとなる人材開発も急務である。つくば大学に加え、つくばエクスプレス沿線付近には東大キャンパスもあり、北千住には電機大もできた。若い人材が豊富にそろっている。

こういったビジネスを動かす場合には、優秀なコーディネータやマーケティング担当者が欠かせない。研究者とビジネスコーディネータ、経営者、VC、マーケティング担当者、営業担当者などがコラボすることで起業は成功に近づく。ベンチャー企業は技術者=経営者ではない方がうまく行くケースが多い。ヤフーやアップルなどが良い例だ。

参考資料
1. [IMEC考]第3回「Seleteとも補完できる研究ならコラボしたい」新CEO語る、マイナビニュース (2010/01/14)

(2012/05/09)
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