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機械からエレクトロニクスへ(第2回)−シリコンの強みを生かすカーエレ

カーエレクトロニクスへの半導体メーカーやエレクトロニクスメーカー、ITメーカーの傾斜はすさまじい。自動車に使われてきたさまざまな機械的な機能をエレクトロニクスで実現しようとするものだ。カーエレの市場は今後5年間で平均年率成長率10%の伸びていくと言われている。自動車産業そのものは完全に成熟産業で、先進国での平均年間の伸び率は2~3%にも満たない。

自動車技術者がカーエレクトロニクスに注目するのは、信頼性の低い機械部品を半導体などのエレクトロニクス部品に置き換え、信頼性だけではなく軽量化、それに伴う低燃費化を実現しようとするためだ。当初は、燃費改善や排ガス抑制などの点で点火タイミングの最適化などのエンジン制御ユニットに入っていった。サスペンション制御やエアバッグ、アンチブレーキ制御などへと続き、最近では安全性の制御にシフトしている。ミリ波を使った衝突防止や、アンチスキッド(横ブレ防止)、レーンの白線検出などに半導体チップを使う。

今後は、ステアリング-バイ-ワイヤーやブレーキ-バイ-ワイヤーなど、従来は機械や機械軸で行っていた動作をエレクトロニクス、すなわちセンサーと細い配線、アクチュエータ、電子回路、モーターなどで実現しようとしている。これにより軽量化と信頼性向上を図る。

自動車内では、各ECU(電子制御ユニット)にマイコンやいろいろな半導体が使われているが、ECU同士をCANやLINなどのネットワークで結ぶ動きも盛んになっている。自動車という絶対安全というスペックを実現するには、ミッションクリティカルなECUは2重の冗長構成をとっている。しかし、これではコストがダブルにかかる。カーナビのように安全性と直接関係の少ないところには最先端の32ビットRISCマイコンを搭載しているが、2重構成ではない。ただ、FlexRayなどのネットワークでECU同士のやり取りが進むと、一つのECUが壊れると別のECUのマイコンが、役目の一部を代行するという考えも出てきている。少なくとも最も近いガソリンスタンドまでは動作できるようにはしておく。

自動車エレクトロニクスには厳しい信頼性の要求が課せられているとこれまでは思っていた。しかし、自動車用半導体やプリント基板のスペックをよく見ると、それほど厳しくはない。高温動作のスペックでは、せいぜい85℃程度だったりする。半導体デバイスはこれまでもっと厳しい条件で信頼性試験を経験してきた。125℃〜-40℃での温度サイクル試験や、高圧も加わるプレッシャークッカー試験など、自動車では経験のないほどのきつい条件で試験していた。動作スペックが最大85℃なら、85℃での試験は加速試験にならない。加速試験は85℃が最大動作温度なら125℃や150℃で試験しなければ加速係数を求められない。

少なくとも、機械金属の信頼性とシリコン半導体の信頼性を比べると、シリコン半導体の方が信頼性は高い。自動車の機械がエレクトロニクスへとシフトしている理由は実はここにある。だから半導体メーカーにとってカーエレ市場は成長市場なのである。

内燃エンジンを利用するカーエレクトロニクスの先には、燃料電池やリチウムイオン電池などモーターを動力とする電気自動車が待っている。もちろん、10年先の技術ではあるが、電気自動車だと半導体の消費量はグンと上がる。現在でさえ、ハイブリッドカーには半導体をクラウンクラスの高級車の2倍も使う。

電気自動車のメリットは、CO2や排気ガスを出さないこともさることながら、実は自動車設計者によると、設計の自由度がきわめて大きく広がることだという。内燃エンジンだと、エンジンの設置場所が決まり、それを固定した状態で車体やボディの外形が決まっていく。しかし、モーターを利用する電気自動車なら、モーターを各車輪に埋め込むことができる。ボディの形は、エンジンの設置場所という制限から全く解放されるため、四角でも球体でも、あるいは三角錐や五角柱でもよい。自動車設計者の自由度が桁違いに高まるのである。

成熟・飽和した自動車産業をエレクトロニクスが打開していく。その肝心要なデバイスがシリコン半導体である。エネルギーバンドギャップの広いSiCは高温動作に向くが、所詮、化合物半導体の弱点を持つため、カーエレクトロニクスの主役にはなりえない。やはりシリコンがカーエレでも主役になる。

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