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日本からのISSCC2013発表論文は30件で2位に復活

半導体回路のオリンピックと言われるISSCC。2月に米国で開かれるIEEE主催International Solid-State Circuits Conference 2013では、日本から発表される論文数は米国の73件に対して30件と第2位に返り咲いた(図1)。ISSCC 2012では韓国からの論文件数が2位だったため、今回は巻き返したことになる。

図1 ISSCC2013の発表件数は日本が2位に返り咲き 出典:IEEE ISSCC

図1 ISSCC2013の発表件数は日本が2位に返り咲き 出典:IEEE ISSCC


ISSCCは 2013年に60周年を迎える。当時の米国の電子電気学会はIEEEではなく、IREであった。最初のISSCCは、「Conference on Transistor Circuits」と呼んでいたという。開催地は東海岸のフィラデルフィアで、1980年代までフィラデルフィアで開催していた。シリコンバレーが発展すると共に、開催の場所はサンフランシスコへ移った。

60年間ずっと成長し続けた産業は、半導体以外にはないだろう。特に半導体トランジスタの誕生から1990年代中ごろまでは年率平均20%という驚異的な高い伸び率を示した。それ以降でも現在までに年率平均6%で成長している。従来ほどの極度に高い成長率ではないものの、着実な成長分野といえそうだ。

ISSCCはどんどん変わっているが、変わらないものもある。今年変わったものとして、日本の論文が2位に復活したことの他に、韓国・台湾からの発表論文がメモリ一辺倒ではなく、アナログやロジックなどへ広がっていること、ISSCCの参加者が2001年のITバブル期をピークに減少傾向にあること、が挙げられる。

変わらないことは、常にイノベーションやエボリューション(進化)が発表されていることである。高性能、高機能、低消費電力の方向は全く変わらない。そのためのテクノロジーは変わってきているが大きな方向は変わらない。例えばアナログ回路では、かつてはアンプやフィルタ、オシレータ、A-D/D-Aコンバータなどが多かったが、最近は、パワーマネジメントやエネルギーハーベスティング、ワイヤレス給電などパワー分野の発表が増えてきている。無線RFアンプのパワー回路に、包絡線(エンベロープ)を利用するパワーアンプの発表が東芝からあるが、これも消費電力を下げようという動きの一環だ。

ISSCC 2013全体では昨年と比べ、通信技術が伸びている。RF部門は昨年の10%から12%へ、ワイヤレス通信部門は9%から10%へ、ワイヤライン通信は10%から12%へと、いずれも伸びている(図2)。無線技術では低消費電力化とミリ波技術が活発だ。有線では携帯電話の基地局向けの数十Gbps〜100Gbpsという超高速のトランシーバ技術が注目されている。シリコンフォトニクスの出番が来たといえる。


図2 通信分野の論文増える 出典:IEEE ISSCC

図2 通信分野の論文増える 出典:IEEE ISSCC


こういった変化の中で、特に注目されるのは、台湾・韓国の脱メモリートレンドだろう。サムスンは、今やDRAMにもフラッシュにもさほど投資をしなくなったが、アプリケーションプロセッサ向けのファウンドリビジネスにはアグレッシブに投資している。台湾のTSMCはロジックのファウンドリで大きく利益を上げている。一方、ファブレスのメディアテックやリアルテック、ノバテック、Mスターなどトップ20社に入るロジック半導体メーカーは多い。台湾には200社以上のファブレス半導体メーカーがあると言われている。


図3 アジア勢は非メモリに力を入れる 出典:IEEE ISSCC

図3 アジア勢は非メモリに力を入れる 出典:IEEE ISSCC


ISSCC 2013の発表論文の分野(図3)では、日本が伸びているのはメモリで、特に新しい不揮発性メモリの発表が多い。しかし、高性能デジタル、アナログ、RF、無線通信などは圧倒的に台湾、韓国、その他のアジア勢が強い。日本はこういった分野をしっかり抑えておかなければ、これからの無線技術、IOT(Internet of Things)をリードできなくなる。これらの技術を使う市場は、スマートホーム、スマートグリッド、ヘルスケア、自動車エレクトロニクスなど、あらゆる成長分野にあるからだ。この分野で成長することが今後の成長につながるだろう。

(2012/11/30)
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