VLSI Symposiumの採択論文から見えてくる日本半導体の進むべき道
2012 Symposium on VLSI Technology および Circuitsが6月12〜15日、米国ハワイ州ホノルルで開催される。先日、この通称「VLSI Symposium」に関する記者会見が開かれた。学術発表会への記者会見が最近は珍しくなくなってきた。
今回のVLSI Symposiumでは、デバイス・プロセスの発表の場である「Technology」と回路設計技術の発表の場である「Circuits」を一緒にしたジョイントセッションを7つ企画している。このうち、メモリ関係が4セッション、他の3セッションは3Dシステムインテグレーション、極微細デバイス技術と回路設計、最先端CMOSと回路の協調設計、となっている。
これまでデバイス・プロセスと回路のシンポジウムはそれぞれ別に行われていた。しかし、メモリのデバイス・プロセスは回路と密接に関する。メモリはセル1個だけでは動作しないからだ。セル以外にセンスアンプやアドレスデコーダ、出力バッファなどのアナログ回路で構成されている。ロジックでも10〜20nmの微細な配線やトランジスタではプロセスバラつきが大きく影響してきたり、配線抵抗や容量によるレーシングやスキューなどによって誤動作したりする問題もある。プロセス的には、光の波長(193nm)よりも小さな寸法を加工する訳であるから、縦波と横波で構成される光の一方だけをきちんと通すような同一方向を向いたパターンレイアウトが強く求められるようになる。プロセス、デバイス、回路、どの技術においてもVLSIを理解していなければ、それを正常に動作させることがこれまで以上に難しくなる。それぞれがバラバラではVLSIは動作しない。全ての知識が必要になってくる。
しかも今は全ての応用分野において低消費電力化が求められる。動作時だけではなく待機時においてもリーク電流やサブスレッショルド電流を下げることがトランジスタにも求められる。トランジスタそのものを従来のMOSFETからトンネルFETに変えてサブスレッショルド電流の傾きを急峻にしようという研究が盛んになっている。回路的にはクロック周波数や電源電圧を回路の動作状態に応じて変えるクロックゲーティングやパワーゲーティング技術は欠かせない。そのための温度センサのようなセンサも必要となる。LSIというロジックとメモリが混じり合った半導体チップをプロセスやデバイスだけで考えることはもはやできない。プロセスと回路の両方の知識が求められる時代に入っている。
もともとVLSI Symposiumは1980年代の日米半導体摩擦を解消するためにワークショップ形式で両国の半導体研究者が集まって議論をする場であった。日本と米国大陸、中間のハワイ、の3カ所を持ち回りで運営された。今はハワイと京都の交互開催となっている。しかも日米だけではなく、アジアと欧州も参加し国際的な交流の場となっている。さらに当初は摩擦解消が目的だったために企業の発表が多かったが、今は大学からの発表が主流になった。
このSymposiumにおける日本のプレゼンスは今でも高い。採択された発表論文の件数は米国に次いで2位である。大学の発表が多いものの日米ではその意味が違う。米国では企業が関係している研究が圧倒的に多い。日本ではどうか。大学と企業との共同研究あるいは大学への依頼研究がどの程度進められているだろうか。大学の研究に資金を出して、企業は大学を研究所として使うという姿勢があってよい。少なくとも米国ではそのようになっている。ある意味で企業と大学が重複しない効率的な研究開発の手法はもはや待ったなしであろう。
図1 Symposium on VLSI Circuitsの採択論文の分野 出典:VLSIシンポジア事務局
図1の発表論文の分野を見ると、日本の弱点が浮かび上がってくる。Circuits全体では日本の採択論文は2割であるから、これを一つの平均値として見ると、日本が得意な分野はメモリと無線技術であり、アナログは極めて不得意であることがわかる。データコンバータ、フィルタ・アンプとセンサ・ディスプレイを合計したアナログでは全発表件数が26件で日本はわずか1件のみ。デジタル回路は34件中7件であるからほぼ平均で、メモリは16件中6件だから強い。無線通信技術は14件中4件と多い。
こういった傾向は日本が得意なものをもっと伸ばすという観点から重要視すべきであろう。すなわちメモリと無線技術はもっと強化すべきだろう。メモリは単体だけではなく、ロジックのレジスタやキャッシュなどにも多用されるため、プロセッサ技術の重要な部分を占める。また無線技術は、3GやLTEなどの通信ネットワークだけではなく、Wi-Fi、Bluetooth、医療・ヘルスケア、スマートシティ(ホーム、ビルなども含む)、カーエレクトロニクスなど極めて広い分野にまたがる。日本がもっともっと伸ばすべき分野である。全てのモノがつながる様子を最近では、Internet of Thingsと表現する。これからはますます無線(コネクティビティ)が欠かせない時代になる。これを強くすることこそ、日本が大きく成長できる道ではないだろうか。