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半導体の設計・実装・社会実験施設を揃え、動き出した福岡の技術センター

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最近、海外の半導体メーカーの経営層に会うたびにしている質問がある。それは、なぜ微細化するのか、である。昔は高集積(=ムーアの法則)が常に求められていたから、経済的に見合うようにするため、微細化・大口径化が低コストに不可欠だった。いわば微細化は当たり前だった。質問自体がばかばかしかった。今はどうだろうか。

微細化する目的は何か。この質問をして、きちんとまともに答えをいただけるだろうか。CESではクアルコムの記者会見でこの質問をした。先日、来日したスパンションのCEOには個別で聞いてみた。答えは半導体チップによって異なるのである。クアルコムは性能がまだ不十分なので上げたいからだと答え、スパンションはNORフラッシュを低コストにしたいから、と答えている。

45nmの次は28nmだというプレゼンを聞いても、なぜ微細化が必要なのか、と尋ねることは恥ずかしいことではない。ザイリンクスやアルテラのようなFPGAチップは、ロジックゲート規模の割にチップが大きすぎるため微細化はいまだに当然のロードマップだが、それ以外のチップは機能によって違う。

となると、微細化の目的は狙うべき市場とも絡んでくる。メモリーとロジック、プログラマブルロジックと専用ロジック、組み込みシステム、それぞれ微細化の目的が違うのである。何を微細化し、何をしないのか、という切り分けも出てくる。すなわち、半導体ビジネスはもはや微細化は前提ではなくなったのである。

その一方で、半導体産業はさまざまな産業に広がっており、半導体ビジネスの成長は止まらないことも確かだ。

では、これからの半導体は何を持って成長させればよいのか。その一つの試みが九州福岡県産業・科学技術振興財団が運営管理する福岡システムLSI総合開発センターであり、昨年さらに追加・設立された、三次元半導体研究センターと社会システム実証センターである。先週、福岡市で第10回シリコンシーベルトサミットが開かれ、2日目には糸島市に設立された三次元半導体研究センターと社会システム実証センターを見学した。

福岡県では製造を除く、設計とパッケージングと応用実証試験を行うことのできる施設が出揃った。製造はファウンドリに頼めばよいので、それ以外の半導体工程はすべて完結できることになる。半導体製造は1000億円単位というとてつもない投資額を必要とするビジネスになったため無理して持つことではない。

半導体ビジネスの成否は、コストである。いかに経済的に設計し製造し販売するか、である。ここに知恵を入れ、どこよりも安く作り、どこよりも高く売る。これが世界の半導体メーカーの勝ちパターンとなっている。平均単価が40ドルと最も高いインテルは低コスト技術を追求してきた。サムスンは、マイクロンから技術導入した低コスト技術を追求してきた。TIは工場設計の段階から低コストで作るための生産ラインを追求してきた。いずれも3~4割の営業利益率を確保したいがために低コスト技術を開発してきたのである。

三次元ICも同じこと。台湾ASEのCTOである、Ho-Ming Tong氏も三次元ICの実用化で最大の難関は低コスト技術だとインタビューで答えている。福岡の三次元半導体センターには、シリコンの貫通孔を掘り、その穴をメタルで埋め、重ねるシリコン間の接着剤や再配線用のインターポーザの開発などの工程ができるようになっている。後工程とはいえ、ウェーハを削りエッチングするなど前工程の設備が必要となる(図1)。


図1 エッチングやリソの装置まである三次元半導体センター

図1 エッチングやリソの装置まである三次元半導体センター


三次元ICのメリットは、微細化を追求しなくても、高機能、高性能、低消費電力を得ることができることだ。メモリーコントローラの性能は上がる。プロセッサとのやり取りを行う配線は短くて済み、インダクタンス成分は低減されるため高速になる。配線の距離が短くなると寄生容量も減る。その分消費電力も下がる。メリットは大きい半面、できあがったチップ同士を重ねるための手間が倍増する。歩留まりは確実に落ちる。その結果、コストが上がる。これらをどう克服するか。ここに三次元IC開発者の腕が試される。

微細化しなくてもよい半面、微細化並みの効果は期待しながらコストを抑えることが求められる。研究センターの良い所は、開発に携わる者同士の交流の場があることだ。技術のディスカッションこそがイノベーションを生み出す。一人で何かを生み出すことは極めて難しいが、何人かで議論すれば必ず解決の糸口が見つかる。3人寄れば文殊の知恵である。設計上、製造上、テスト工程上、とにかく低コストで仕上げることに集中して解を見つければ世界のリーダーになれる。

実証センターは、試作したチップやデバイスを社会で使ってもらい、その良否をフィードバックしてもらうことで改良し、本当に使えるモノに仕上げていく。こういった実験の実証を行う。ユーザーの声を聞き取り、売れそうな製品に仕上げることが重要になってくる。

問題を真摯に追求し解決すると、おのずから結果が付いてくるはずだ。それでも心の支えを必要とするせいか、両センターには神様を祭っているところがある。シリコン神社と呼び、8インチウェーハを神棚の奥に飾っている。人事を尽くして天命を待つ。最後は神様に心の拠り所を求めるのかもしれない。


図2 シリコン神社

図2 シリコン神社

(2012/02/24)

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