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ここがヘンだよ、ニッポン7〜島国根性を言い訳にする日本、乗り切る海外

英国は欧州大陸から離れている島国である。台湾も同様に大陸から離れている。日本も海に囲まれている。日本が外国と違う点があればこれまで、島国根性だから外国とは同じにはできない、と言い訳してきた。でも待てよ、英国も台湾も同じ島に囲まれ、大陸とは地続きではない、という点で同じではないか。

これまでセミコンポータルでは、2008年から始まった「英国特集」で英国の半導体産業を中心にレポートしてきた。半導体産業の周辺を支える英国の政府や行政の仕組み、企業化への考え方、企業化する仕組みなども伝えてきた。久しぶりに今回もこの1週間、英国企業を回る。日本と同じ島国の英国が何を考え、産業をどうしたいのか、取材しに行く。これを書いているのは英国航空の機内だ。

ある人から「英国かぶれ」「欧州かぶれ」ではないか、と冗談半分に言われたことがある。海外の良いところを伝えているだけであり、良いところを手本にすれば日本の産業は復活するはず、との思いからこのレポートを書いている訳であり、決してかぶれてはいない。むしろ、かぶれているのなら、日本かぶれかもしれない。日本が大好きで日本文化も大好きだ。日本がかつてのようにもっと元気を出して世界をリードしてもらいたいからだ。このためのヒントが英国特集であり、海外取材である。

自信喪失してはならない。必要以上に縮まってはならない。もっとクールに冷静に日本を見つめようではないか。TPP問題にしても、貿易立国である日本がTPPに参加して貿易自由化すること方がはるかにメリットの大きいことは言うまでもない。これまでのように鎖国するなら自動的に日本は滅びてしまう。人口が減り続け、産業の担い手が減っているからだ。何よりも反対派の多い農業は次の担い手がいない。自分の代で廃業してしまうかもしれないのである。人口が減り、働くものが減り、どうして国が栄えるのであろうか。むしろ、自由化によってどう自分たちの産業を伸ばしていくか、というテーマに知恵を絞るべきである。

同じことが半導体産業そのものにもいえる。このままではじり貧になっていく様子をじっと指を加えて待っているだけのように見える。外国との積極的なコラボを行うことで業績を伸ばしている外国企業をなぜ見習わないのだろうか。大事なことは、じっとしているとじり貧になってしまうという危機感である。もはや好き嫌いを言っている場合ではないだろう。海外の良いところを積極的に採り入れ、自社の得意なところをもっと伸ばすための方策を考え、さらに時代の流れを読みどの方向に向かっているのか、その方向の問題点を上げ、それを一つずつ解決していく。まさにビジネス常道だが、90年代に生き返った米国の半導体産業はこの常道をきっちり行ってきた。韓国サムスンも台湾TSMCも同様に自社の強みを生かすことをやってきた。

半導体企業の経営者、エンジニア、営業、人事、総務、マーケティング、財務、みんなが一丸となって今よりも良くするために、ビジネスの常道を進む以外に道はない。例えば、経営者は親会社から独立してどのようにして資金調達がありうるかを考え実行する。エンジニアはユーザーであるエンジニアの元に足げく通って売れる商品のアイデアを考え、設計に採り入れる。営業は1社でも多くの顧客を得るためにすべき方策を考え実行する。人事は有能な社員のモチベーションを上げるための方策やリクルーティングのアイデアを出す。財務はコスト意識を全社員に植え付ける方法を考え、低コスト技術開発をサポートする。全員で、今の状態よりも良い状態へシフトする。

自由に取材できるジャーナリストとしての私の役割は、半導体メーカーにとってヒントとなる情報を提供することにある。私自身は、例えばルネサスなり東芝なりの会社のもっと細かく深い問題や企業文化は知らない。だからこそ、痛い所をズバリ指摘することはできない。しかしヒントを提供することはできる。特に海外企業のすごい技術、すごいビジネスモデル、すごい製品、すごい戦略などを紹介する。それを「海外企業だからできるのであってわが社には適用できない」と最初から考える会社は自動的につぶれていく。現実にこのように言っていた人はこれまで30年以上の取材生活で数10人もいる。しかし、そのような人が新しいことを立案実行した試しはない。何とかして自社のシステムに使えないものかな、と追求する会社は、きっと方策を立て実行し業績を伸ばしていくだろう。

台湾は同じ島に囲まれていながら、米国や中国、日本との貿易によって成り立っている。モノづくり産業でいえば、サプライチェーンから設計、製造、販売に至るまで海外との協力なしでは成り立たない。半導体パッケージのトップメーカーASEのCOOであるTien Wu氏がこう述べている。日本はサプライチェーンからマーケットまでそこそこの規模で閉じて成立できた。海外企業とのコラボは必要なかった。だからグローバル化が遅れたのだろう、と彼は分析した。

英国は日本と同じ島国ながら、灰色の時代を乗り越えサッチャー改革を今まで継続してきた。保守党から労働党へ政権が変わっても続いた。2008年~2009年リーマンショック不況で英国の金融界が傷つき、中小のベンチャー企業が資金不足でつぶれたり買収されたりしてきた。今はどうなっているのだろうか。どうやって克服しようとしてきたか、さらに伸ばそうとしているのか。これが今回の取材のテーマである。帰国後、10月に回った米国の中堅の半導体企業やベルギーのIMECともども、12月に海外取材の報告会を東京赤坂のセミコンポータル会議室で開く予定である。

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