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ここがヘンだよ、ニッポン6〜システムLSIという和製英語

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先週、米国西海岸、先々週はベルギーと2週続けて海外を回ってきた。日本のメーカーには、わが社はシステムLSIメーカーだとか、システムLSIに注力するとか、という表現をとるところが多いが、海外企業は決してシステムLSIメーカーだとは言わない。そもそも「システムLSI」という言葉は海外では通用しない。和製英語である。

ファブレス企業はいうまでもない。クアルコムやブロードコムは通信用チップメーカー、ザイリンクスやアルテラはFPGAメーカーである。IDMでもリニアテクノロジーは高性能アナログメーカー、TIは総合的なアナログメーカー、インテルはプロセッサメーカー、サムスンはメモリーメーカー、という言い方をする。ドイツのインフィニオンテクノロジーズはエネルギー効率とモビリティ、セキュリティに注力する半導体メーカー、STマイクロエレクトロニクスはマルチメディアコンバージェンスとパワーアプリケーション、センサにおけるリーダー企業という。NXPは高性能ミクストシグナルとスタンダード製品の半導体メーカーである。システムLSIという言葉はどこからも出てこない。

そもそもLSIという言葉でさえ、海外では使わない。ICあるいは集積回路(Integrated Circuit)と言ったり、半導体チップ、高集積チップ、VLSI、半導体と言ったりすることが多いが、どれもほぼ同じことを指している。かつて英国人エディターと高集積半導体チップをどう呼ぶか議論したことがある。VLSIだと、very large scale integrationとなりveryという定性的な言葉は使うべきではない。むしろLSIはどうかと言ったら、large scale integrationでさえ同じことだ。何がlargeか、やはり定性的ではないか、と反論された。正しい言葉はIC、integrated circuitではないか、ということに落ち着いた。それ以来、英語で書く記事には必ずICと書くが、海外メディアもchipとかICという言葉を使う。LSIとは言わない。

そこにきて、システムという言葉を追加した。システムとは何か、という定義もされないまま、システムLSIといわれても何を指しているのか、わからないのである。

海外メーカーが最近、強めていることは単なる半導体製品の提供だけではなく、カスタマイズするための使いやすい開発ツールの提供やそのサポートも含まれる。かつては、部品を作り、販売するだけだったが、近年は顧客と一緒に開発するケースが増えてきた。その製品を他社にも売りたければ、カスタマイズしなければならない。顧客は、他社とは違う特長を求めているからだ。となると、半導体メーカーは顧客にどのような価値を与えることができるだろうか、という明確な答えを持っていなければ顧客は納得して買わない。

海外メーカーを取材して、必ず言われることは、「われわれは、得意な自社技術・サービス・製品によって顧客に価値をもたらす」ということだ。さもなければ顧客にとってその半導体を使うメリットがなくなる。顧客に価値を与えてくれるから顧客はICを買ってくれる。顧客から見るとそのICが多少高くてもシステム全体としてコストが安くなるならメリットは大きい。

その価値は結局、システムをより良くするための半導体、ということになる。ということは、半導体メーカーが顧客のシステムを理解し、痒いところに手が届く状態になっていなければ顧客は喜ばない。つまり製品を買わない。システムLSIがどの分野にも当てはまる汎用品を表す言葉なら、半導体メーカーがシステムLSIメーカーを標榜している限り、顧客のシステムを汎用化していることになる。一方の顧客はそのICを使って競合他社ではできない何かを求めている。汎用であっては困るのである。

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