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ファブレス半導体ビジネスモデルへの安易な移行は極めて危険

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「半導体業界から今、ファブレスという声が聞こえてくるが、10年前のシステムLSIと同じだな」。10月5日にフランスの国立研究所LETIによるフランス大使公邸でのパーティに出席した半導体産業人たちが言っていた言葉である。半導体業界ではファブレスへ移行する動きがある。しかし、このままのやり方では失敗する公算が非常に大きい。なぜか。

大事なことはまず、自社の強みは何か、を常に意識しているかどうかである。日本の大手半導体メーカーがかつてメモリービジネスで失敗した後、安易にシステムLSIへと流れた。なぜメモリービジネスが失敗したかという分析をしなかったからだ。では、今回IDMモデルがなぜ失敗したのかを分析したのだろうか。その失敗を繰り返さないための方策を立てたのだろうか。この分析と方策を行っていないのであれば、安易にファブレスに向かうことは非常に危険である。また、同じ失敗を繰り返す可能性が極めて高い。

メモリービジネスが失敗した理由はたくさんあるが、最も重要なことは世の中の流れをつかんでいなかったことである。当時コンピュータは、メインフレームから、ダウンサイジングの流れに従って、ワークステーションやミニコン、さらにパソコンへと向かっていた。この背景にあるのは、メインフレームコンピュータを使ったことのあるものなら誰でもわかるが、実際のプログラムを流すのに、待ち時間という概念が導入されたように、何日も待つのが常識だった。「処理時間は多少遅くても待ち時間がなくすぐに使えるコンピュータが欲しい」というユーザーの声がダウンサイジングを引き起こした。スーパーコンピュータも同じだった。高性能のスパコンを使える日時を待つよりも、多少処理性能は落ちるが事業部に1台買える値段ですぐに使えるミニスーパーコンが売れたのである。

メモリーの主な市場がメインフレームからパソコンへ移っているのにもかかわらず、日本のDRAMメーカーはマーケットを見ずに相変わらずメインフレーム向けの贅沢仕様のDRAMを生産していた。これでは1985年からパソコン向けの安いDRAMを開発してきたマイクロンや、そこからライセンスを買ったサムスンが販売してきた低価格のDRAMに全く勝てない。コスト競争力がないのである。

今ファブレスを目指すのなら、どのようなチップを設計し、他社と比べてどのような価値を持つのか、を検討しているのだろうか。例えば、米クアルコムのアプリケーションプロセッサSnapdragonに比べてチップ面積が小さく(すなわち低コスト)、しかも性能・機能の高いチップを45nmプロセスで作れるだろうか。世界一の性能や機能を持ち低コストで作れるチップのデザイン技術を今持っているのならファブレスでも世界と勝負できるだろう。

これらに加え、短期間で設計する方法も必要だ。ソフトウエアとハードウエアの切り分けと最適化をシステム仕様から実行できる能力もいる。システムをユーザーに提案し、自社の他のチップも一緒にチップセットとして売るビジネスモデルの確立、ユーザーが使いやすいようにソフトウエア開発キット、ハードウエア開発キットをチップと共にいつでも提供できる能力も必要である。複数ユーザーの仕様を読みほどき、最大公約数となる仕様を見いだす手法も必要だ。特にこれからの半導体にはソフトウエア開発力(プログラミング能力ではない)はマストである。これらの能力がなければ、ファブレス半導体ビジネスはできないと考えるべきだ。すなわちシステムLSIビジネス以上にシステムデザイン能力が求められるからである。

日本の半導体メーカーが得意なのはやはりプロセスである。ファウンドリビジネスが自分たちの強みのはずだ。加えて、VHDLやVerilogなどのVLSI設計言語で与えられた仕様のLSIのプログラミングをする能力もある。つまりデザインハウスとしての能力はある。しかし、自分でシステム仕様を作り出すことは強みといえるか。残念ながら、デザインハウスはできてもファブレスで売れるシステムを提案できる能力はあるとはいえない。

むしろ今、ファブレス半導体ビジネスを始めようとしているのは、日立製作所であり、NECであり、富士通やパナソニックなどである。彼らにはシステム構築力はある。だからファブレスビジネスはできる。しかし自分でVHDLを使ってプログラムする能力もその気もない。だから今の半導体IDMは、ファブレスやICユーザーからデザインを請け負う、デザインハウスとして生きていけばよいのである。論理設計手法としてVHDLではなくC言語系を使うESL(electronic system level)へ移行し高集積VLSIの設計・検証ができるようなデザイン手法が使われ始めている。こういった方向にも日本の半導体メーカーは対応できる。IPの再利用も含めて使いこなせる能力もある。デザインハウス能力と、ファウンドリ能力を持ち合わせた半導体メーカーとして生きていける。もちろんそのためには、ファブレスメーカーの要求仕様を理解できる能力は身につけなければならない。

結論をいえば、半導体デザインハウス能力とファウンドリ能力を併せ持つ、半導体設計・製造請負サービス企業を目指すべきであろう。どちらも兼ね備えているのは日本の半導体だけであり、デザインのテープアウトからファーストシリコンまで一貫してビジネスできるという強みを世界へ訴えるべきだろう。もちろん、デザイン請負だけ、製造請負だけでも受け入れられる。どこにもないような独自の「設計・製造サービス」ビジネスこそ、日本の強みではないだろうか。そしてグローバルのユーザーと一緒にパートナーを組み、エコシステムを活用しながらデザインインする。これこそが日本が世界で勝てる手である。

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