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ここがヘンだよ、ニッポン5〜技術を極める日本、売れる製品を追求する海外

2007年7月、iPhoneを最初に目にした時まだ日本では発売されていなかった。英国Imagination Technologies社の社長(CEO)ホセイン・ヤッシー氏からそれを見せてもらった時、そのユーザーインターフェースの魅力に圧倒された。それが発売された時、日本のメディアやメーカーの中には「目新しい技術はなにもない。やればできる」と切り捨てたところがあった。極めて日本的だ。

iPhoneのすごさは今さら言うまでもないが、タッチパネルを使った楽しさを単なる1本指ではなく2本指でジェスチャー表現できるユーザーインターフェースの革新技術が含まれており、App StoreやiTunesストアというコンテンツ販売のオンラインストアを設置し、これまでにないビジネスモデルを打ち立て、しかもコスト的に手が届くという携帯ツールだった。技術的には極めたものではなく、寄せ集めたものではあるが、その進化はiPhone2、3、4と進むにつれ残念ながら日本半導体メーカーの出番は失われていった。今やiPhoneをはじめとする「スマートフォン」は大ヒット商品になった。

このiPhoneはなぜ日本から生まれなかったのだろうか。ここにも日本的か外国的かという議論をすると、日本はいつまでたっても技術ばかり追求し、売れる製品を追求しない、という結論になる。この結論で言われることだが、日本は技術を極めることが得意で、ある方向が決まったらとても強い。しかし、ゼロから何かを生み出すことは弱い。

かつてのメモリーがそうだった。DRAMの新製品は4倍の容量を開発すればよい、という暗黙の指針があった。これは容量がわずか4Kビット、16Kビット、64Kビットと少なすぎるために、容量が増えれば増えるほどよかった。このため4倍の記憶容量を実現することだけを極めてきた。客が望むものは容量しかなかったからだ。こうなると日本は極めて強い。だから世界のトップをとることができた。しかし、DRAMの容量がある程度増加すると、今度はほどよい容量が求められるようになる。もちろん、ハイエンドコンピュータはDRAM容量を今でさえも追求するが、パソコンよりも能力が低くてもよい携帯電話などではそれほどの容量は要らない。安い方がいい。

こうなると顧客が何を望んでいるのかを知ることが「売れる」製品への近道になった。となると大事なことは、技術開発よりも客の望みを聞くこと、すなわちマーケティングが最優先になるはずだ。それも2年後くらいに顧客の欲しい半導体を一緒にブレーンストーミング的に議論してニーズを先取りする。このためにはデジタル、アナログ、センサー、高周波回路、ソフトウエアなどあらゆるエレクトロニクスの知識を総動員しなければならない。

外国企業は、例えば韓国サムスン電子は、博士号をとった人間を研究所ではなくマーケティング部門に送り込む。マーケティング部門に博士はごろごろいる。ユーザーの要求を的確に捉えるためだ。エレクトロニクスの知識のない営業部員だと「小僧の使い」に終わる恐れがある。知り合いの韓国の記者は、サムスンはマーケティング力があるが、技術力がないのでこれから先が心配だと語っている。米リニアテクノロジーはマーケティング部門を置かない。その代わり、エレクトロニクス技術の全てがわかる50歳前後のシニアエンジニアが客の元へ御用聞きに伺う。日本にも年に1〜2回来てヒアリングして回る。ある程度想像力も働かせて客が2年後くらいに欲しがる半導体をイメージする。

そして2年後、そのコンセプトに基づいた新製品を客に提示する。顧客(製品開発の責任者)は欲しかった製品だと知って喜び、購入する。顧客の競争相手もすぐ欲しいと要求する。まさに売れる半導体デバイスとなる。エレクトロニクス技術の奥は深い。デジタル、アナログ、電磁波回路、ソフトウエアを全て理解し、新しいどのような応用においても、エンジニアである顧客と話ができる能力を持っていなければならない。マーケティングエンジニアとはこのような人を言う。工場のエンジニアよりも広い技術知識が要求されるポジションだ。サムスン、リニアいずれのケースも顧客の要望を汲み取る努力をすることで、儲かる製品を生み出している。

ところが日本の半導体メーカーは相変わらず技術を極めることに精を出している。日本企業にもマーケティング部門はあることはあるが、その実態は営業のバックオフィス的なお手伝いだ。エレクトロニクスの全てがわかるエンジニアがお客の元に行かない。日本企業の極める技術が市場の要求と合っていなければ全く売れないことを知らないようだ。

「日本には技術力はあるが、儲かっていない」と言われる一因は、市場の求めるニーズに合っていない技術を一所懸命開発していることにあるのではないだろうか。これはある意味では、仕事をしていないことと等しい。趣味で技術を弄んでいることでもある。市場の求めるニーズをつかむことに経営方針を変えていけば儲かる企業へと変身できる。そのために企業の組織を変え、社長自らその責任を果たすようにその最前線で采配し、社員がついて行くようになるまで指揮をとる必要がある。これまでのように、ただ組織を変えてあとは自分たちで考えろでは、社員は誰もその意図を理解しない上に、ついていかない。社長自らの意思を行動と共に示すことがその企業の変革となる。

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