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ここがヘンだよ、ニッポン4〜システム指向へと脱皮した海外の半導体企業

半導体産業が転換期を迎えているということはよく言われるようになった。微細化が難しくなったこと、高集積になりチップが複雑になったこと、少量多品種の製品が増えてきたこと、などが背景にあると一般に言われている。しかし最大の理由は、半導体チップにソフトウエアを焼き込むことができるようになった、ということだ。この認識が実は海外と日本が違う。

これまでのデジタル回路(ASICやASSP)は論理回路だけでロジックを組み、実現したい機能を構築することはできた。しかし共に設計件数は毎年減少している。なぜか。もはやASICやASSPなどのように論理回路をハードウエアだけで構成することができなくなったからだ。機能を実現するのに、ソフトウエアが多用されるようになってきたのである。例えば、マイコン(マイクロコントローラ)やFPGAは典型的なソフトウエアでプログラムするデバイスだ。基本的なハードウエア回路は変わらないが、ソフトウエアを変更するだけで機能をいろいろ変えることができる。

日本の半導体産業が没落した要因の一つが、システムを理解せずにシステムオンシリコン(SoC)に突っ走ったことにある。システム指向の考えとは、ある機能を実現するために、全体を鳥瞰してハードウエアとソフトウエアを駆使しながら、その機能の将来の姿(時間軸の指向)も考慮に入れながら、一つの装置を組み上げていくことである。システム=装置という図式は間違っていないが、装置と装置をつなぎ合わせて大きな組織的なモノを作っていく場合、そのモノが今度はシステムとなり、装置単体は部品という位置付けになる。例えば、デスクトップパソコンをシステムと考えると、ディスプレイやマウス、キーボード、プリンタは部品である。だからコンピュータエンジニアはマウスやディスプレイをデバイスと呼ぶ。会社内の一つの課で独自のネットワークを作り課員のパソコンを結ぶシステムを作る場合、今度はパソコンが部品となり、ネットワークで結ばれた全体がシステムとなる。

SoCビジネスを推進する以上、顧客のシステムを理解していなければ、顧客の言われるままの部品を作るだけの部品半導体メーカーに甘んじてしまうことになる。日本の半導体メーカーは、まさに、部品を作るだけのメーカーのようだ。顧客の考えるシステムを理解したシステムソリューションになっていない。SoCは今やハードウエアとソフトウエアからなる一つのシステムとして扱わなければ、顧客に対して価値のあるものを提供できない。営業部員がその価値を理解できなければ、顧客の言われるままに価格を下げてしまう。エンジニアがその価値を営業部員や顧客に説明できなければ価格を下げられ、値段の叩きあいになってしまう。

海外企業の利益率が高いのは、価値の高いシステムをソリューションとして提供するからだ。アナログに特化することを1996年に決めたテキサス・インスツルメンツ社は、今はDSPやマイコンを核にSoCビジネスを展開しているが、システムを理解しているからスマートグリッド向けソリューション、ソーラーシステム向けソリューション、ヘルスケア向けソリューションという形のチップセットを用意している。この将来向けのチップセットこそ、アナログも含めたTIの製品をまとめて販売できるという強みになっている。

TIだけではない。アナログしか手掛けないリニアテクノロジーやマキシムも自社のチップをいろいろ揃えてチップセットソリューションという形で顧客に提案し売り込んでいる。顧客の作りたいシステムを理解しているからこそ、提案できるのである。セミコンポータルではこれまでも海外企業がいかにしてシステムソリューションを顧客に売り、正当な利益を得ているか報じてきた。

5年ほど前、TIのエンジニアが、SoCとは今やソフトウエアオンチップだ、と述べたことに共感して、海外のTI以外のエンジニアにSoCはソフトウエアオンチップだと私は思う、と言うと5人中4人が賛成してくれた。残念ながら、国内の半導体エンジニアにこのことがわかる人は少なかった。システムを理解していなければソフトウエアオンチップの意味はおそらく理解できないだろう。


図1 半導体産業は1990年代半ばに転換点 出典:WSTSのデータを元に津田が加工

図1 半導体産業は1990年代半ばに転換点 出典:WSTSのデータを元に津田が加工


半導体産業は1994〜5年を境にして成長率が大きく変わっている。それ以前は年率平均20%程度で成長していたが、それ以降は6〜7%成長へと変わった(図1)。この転換点こそ、部品からシステムへと変わり始めた点になっている。半導体に価値を持たせるものはハードだけではない。ソフトの方の比重が高くなっているのである。今や半導体メーカーのエンジニアはソフトウエア開発者の方が多いという話をよく聞く。単なるRTLプログラミングするプログラマではない。新しいアルゴリズムを開発したり、IPを再利用しやすく変換するコードを書いたり、時にはいろいろなOSに対応できるようにコードを自動変換するソフトウエアを開発したり、新しいソフトウエアがいろいろある。

この転換点は、ハードウエアだけでは高集積化するのには設計が追いつかなくなってきたことと関係する。複雑になり過ぎた半導体をハードウエアロジックだけで設計するには時間がかかりすぎ、一つの製品を市場に出して売り上げを計上するのにも時間がかかりこれまでのような高い成長率を維持できなくなった。もし、同じハードウエア回路でソフトウエアを取り替えるだけで別の機能を持たせられるようになると、半導体チップの開発は楽になる。とはいえさらに機能を追加する訳だから、成長のスピードはどうしても鈍ってくる。しかし、半導体産業が没落する訳では決してない。このソフトウエアを理解できないから微細化が行きづまるので半導体産業はもうダメだ、という短絡的な結論に至るのである。ソフトウエアは人間の知恵を結集するものであり、人間の知恵は無限にある。だから半導体産業は無限に成長するといえる。

1990年代半ばの転換点をいち早く捉え、ソフトウエア開発にシフトし価値を創出した企業こそが半導体産業の勝ち組となった。この傾向はこれからも続く。

一方で、プロセスや製造に特化する生き方もある。ファブレスが増えれば増えるほど、ファウンドリの需要が高まる。ファウンドリに徹して注文をこなす製造企業は黒子になり、製品のブランドはないが、サービスのブランド力はある。TSMCやグローバルファウンドリーズ、UMCの名前は響き渡っている。フォックスコンやジャビル、サンミナ、フレクストロニクスなどのEMS(製造請負サービス企業)もサービスブランド力はある。

海外企業の動きと比べると、日本の半導体はいかにも中途半端に見える。例えば、ファブライト戦略とよく言うが、海外企業のファブライト戦略とは大きく違う。TIはアナログ半導体をコアビジネスにしているからこそ、デジタルのDSPやマイコンは製造プロセスよりもソフトウエアにリソースを割きファブライトと宣言したが、アナログはプロセスに大きく依存するためアナログのIDM化はむしろ強化している。インフィニオンもファブライト宣言したが、ワイヤレス半導体部門をインテルに売り、カーエレクトロニクスやカード、LED用IC、パワーデバイスなどに注力しているが、やはりプロセスに大きく依存する分野が多いためにIDMを強化している。驚くことにインフィニオンは2010年にワイヤレス部門を売却したのにも関わらず全社売り上げがほとんど落ちなかった。

これに対して日本のメーカーはデジタルに注力しながら、ファブライトという決断をした。成長のエンジンは一体何か、いまだに明らかになっていない。東芝はNANDフラッシュ、ソニーはイメージセンサーと注力している部門は業績が良い。富士通もファウンドリビジネスは成功しているようだ。中途半端なファブライトをどうするのか、もう決断の時に来たと認識するのはどの企業だろうか。

(2011/09/22)
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