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ソリューションビジネスに変わってきた半導体産業を成長させる電力網市場

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東日本大震災は、一般国民の生活を脅かしただけではなく、モノづくり産業の供給をもストップさせるという異常な事態を招いた。供給の幹となるべきサプライチェーンが崩壊しただけではなく、計画停電というもう一方の電力のサプライも不安いっぱいだ。震災後の電力網の構築に関して、改めてみんなで考え直してみる必要がある。

モノづくり産業は、電力・水・通信といった基本的なインフラがあって初めて成り立つ。このうちの電力が今やズタズタだ。スマートグリッドという言葉が最初に出てきた時、「わが国の電力網はきめ細かく制御しているからスマートグリッドは必要ない。しょっちゅう停電の起こる米国とはわけが違う」と電力会社の関係者は言い切っていた。この言葉は事実を正しく認識していない。スマートグリッドは将来、電力の不安定な太陽光発電や風力発電などが多数使われるようになってきた時に対処すべきテクノロジーである。今のことを言っているのではない。

今回の震災では、今でも賢く制御しているはずなのに、計画停電によって病院や半導体プロセス工場までも止めなければならないような「それほど賢くない制御」しかやっていないことが明らかになった。わずか7つのグループ分けしかできない東京電力の計画停電では、病院や半導体工場まで細かく制御できない。

今よりもっと細かい地域ごとに電力を制御できるのなら、病院や半導体プロセス工場を計画停電から容易に切り離すことができる。このように賢いグリッドの構築が必要になっているのだ。

半導体工場を停電させないためには、半導体企業自らその方策も勉強しなければならない。この7月13日(水)にSPIフォーラム「災害に強い電力網を目指して〜次世代グリッドの早期実現へ」を開催する目的の一つはここにある。

半導体エンジニアはこれまで「僕の専門はプロセス」、「僕の専門はデバイス」、「僕の専門は設計」と分かれたままで、将来市場を探すマーケティング活動をやってこなかったところが多い。これでは半導体の全体像をつかむことはおろか、将来の成長に向けて何をどうすればよいのか、理解できない。企業は将来の成長を考え、共有し、実行しなければつぶれてしまう。ルネサスの将来は?東芝の将来は?富士通セミコンダクターの将来は?何が将来の成長産業となるのか、それを半導体メーカーがどう取り込むか、にかかっている。

スマートグリッドは国全体、世界全体で20年、30年かけて進めていく一大事業である。ここをどのように進めていくべきか、半導体メーカーがソリューションを見つけ、半導体ユーザーに提案していかなければ、自らの成長もない。半導体ビジネスは今やソリューションビジネスへと変わってきたからだ。スマートグリッド分野でどのような半導体デバイスが求められているか、どのような半導体を開発すべきか、これをしっかり把握することがその第一歩であろう。セミコンポータルが半導体とは一見関係ないと思われるスマートグリッド、デジタルグリッドにも力を入れるのは、ここに大きな半導体の市場が存在することを広く皆様に知っていただきたいからだ。


図1 TIの提案する太陽光発電のパワーコンディショナー 出典:Texas Instruments

図1 TIの提案する太陽光発電のパワーコンディショナー 出典:Texas Instruments

http://focus.tij.co.jp/jp/lit/sg/jajb036/jajb036.pdf


例えば、米テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments:TI)社は、ソーラー発電に欠かせないパワーコンディショナーに使う電源回路をデジタル制御電源として提案している(図1)。電位の大小をフィードバック制御するのに使うPWM(パルス幅変調)のパルスの幅をより細かいパルスの数でデジタル的に制御するのである。ここに彼らの得意なDSPを使う。もちろん、その周辺にはパワートランジスタのIGBT、ドライバ、A-D/D-Aコンバータ、温度センサ、電流センサなどさまざまなアナログICも必要になる。ここに自社のいろいろな半導体チップをソリューションとして提案できる。

これをスマートグリッドの世界で見ると、IPアドレスを付けた蓄電池やソーラーシステム、風力システム、スマートメーターなどの「部品」には、TCP/IPチップ、スマートメーターの中だけでもネットワーク制御LSI、RFやモデム回路、電流センサなどさまざまな半導体が必要となる。これらのシステムの中から、自社の得意な製品はどれであり、足りない製品は何か、ユーザーメリットは何か、などをユーザーとのディスカッションやマーケティングによって探ると、おのずからその半導体メーカーが設計しユーザーに提案すべき半導体チップが見えてくる。

SPIフォーラムのテーマを「災害に強い電力網を目指して」と題したのは、半導体工場の自力生産に必要な電力ネットワークの知識だけではなく、ここに控えている巨大な半導体市場について知っていただきたいからでもある。

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