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ネジクギ的なWi-Fi技術が今後のスマートフォン・タブレットに不可欠となる

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無線LANすなわちWi-Fi機能を強化する動きを最近立て続けに見た。一つは、米クアルコム社が米国のファブレス半導体のアセロス・コミュニケーションズ(Atheros Communications)を買収するという話だ。もう一つはイマジネーションテクノロジーズのコネクティビティIPコアである。

アセロスはデータレート54Mbpsの802.11a/gチップを最初に開発し、しばらくそのチップでトップを行っていたメーカーだ。一方のクアルコムは、CDMA方式のデジタル携帯電話用技術とチップでのし上がってきたファブレス半導体の世界1位のトップメーカーである。そのクアルコムがWi-Fi技術を手に入れたということは、Wi-Fiが今後、伸びていく分野だと見ていることになる。

クアルコムはW-CDMAやCDMA2000などCDMA技術をベースにしたIPや特許を持ち、3G携帯電話を作るメーカーあるいは3G用のベースバンドICやSoCを設計するメーカーからライセンス料を受け取っている。クアルコムのチップを使わなくてもW-CDMAを使う限りクアルコムにライセンス料を支払うのが通例となっている。そんなクアルコムもWi-Fi技術ではレイトカマー(後発参入者)である。アセロスを傘下に収めてしまえば、Wi-Fiを自由に使えるという狙いがある。

今やネジクギと同じような部品となったWi-Fiがなぜ必要か。無線LANスポットは現在あちらこちらにあり、いつでも使える状態にある。私もフレッツ・スポットの愛用者だ。東京の地下鉄駅、山手線の駅、コーヒーショップ、ホテル、空港などさまざまなところで無線LANが使える。iPhoneやiPad、さらにはアンドロイドなどスマートフォンやタブレットPCが大量に出てくると3Gネットワークでつなげるのにはトラフィックが満杯で通信回線が足りなくなってしまう。せめて家庭やオフィスではWi-Fiモードで使ってほしい。家庭内では無線LANでインターネットと接続してくれれば通信キャリヤの心配は少し減る。通信キャリヤはどこでもつながらなくなってしまうことを強く警戒する。米国の通信キャリヤAT&Tが定額制を止めたことは記憶に新しいが、これはトラフィックの増加に耐えられなくなりそうだったからだ。

加えて、今後はスマートフォンやタブレットだけではなく、例えばインターネット専用ラジオやインターネットと常時つながるテレビが普及してくる。IPv6で見られるアドレスを付与する問題は実は、インターネットとつながる商品がさまざま登場することから起きている。電気自動車やスマートグリッドにつながるエネルギー源や蓄電池、スマートメーターなどにもIPアドレスが付くようになる。インターネットとつながるデバイスが山のように出てくるのに3Gでアクセスするとなると通信トラフィックがパンクすることは目に見えている。もちろん、LTEはその対策の一つであるが、それだけでは通信トラフィックの増大に対処できない。だから端末はできるだけWi-Fiでインターネットとつなぐことが望ましい。クアルコムがアセロスを買うのはWi-Fiが今後、ネット接続の要になると予想しているからである。

802.11a/g/bのWi-Fi規格は当初アセロスがその市場を支配していたが、半導体の設計・製造技術が進化するにつれ、チップではなくIPコアで十分対応できるようになってきている。米国のIPベンダーであるイマジネーション社は、世界中のデジタルテレビやデジタルラジオを受信できるようなIPコアENSIGMAと、汎用のマルチスレッドプロセッサIPコアMETAを合わせたコネクティビティIPを最近リリースした。

このコネクティビティIPには、デジタル放送の受信回路だけではなく、家庭内のホームネットワークの一つDLNAやイーサーネット、MIMO、VoIPなどのネットワークとWi-Fi機能を持つ。LANとインターネットをつなぐことでスマートフォンやタブレットはインターネット経由でテレビ電話ができるようになる。METAプロセッサは参考資料1で簡単に解説したので、詳しくはその中の記事を見ていただきたい。

イマジネーションはいまさら汎用プロセッサコアのMETAを外販する気はない。これは最大4スレッドを同時に処理する並列処理プロセッサであるが、システム全体を制御するコアはアームやMIPSに任せ、周辺のグラフィックスや計算能力を発揮するような回路に使う。イマジネーションのグラフィックスIPであるPOWERVRも携帯機器利用の低消費電力コアであるが、METAやENSIGMAも機能を高める場合でも消費電力を上げない、という設計思想は同じである。

Wi-FiをコネクティビティIPコアに集積したのは、クアルコムと同じ狙いだと見ている。すなわちインターネットとの接続にはWi-Fiを使うという点だ。このコネクティビティコアをSoCの中に集積すれば、SoCは常にインターネットとつながりそのSoCを搭載する携帯機器はいつでもどこでも常時接続となる。

イマジネーションのIP戦略を見ていると、2〜3年後のスマートフォンを使って1万6000局もある世界中のインターネットラジオ局の放送を楽しめるようになるだろう。

参考資料
1. イマジネーション、2~3年後のスマートフォンの姿を描くIPを続々発表 (2010/12/09)

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