iPad やiPhoneに日本製半導体が入らない理由:システム指向ではないから
システム的な考え方が日本の半導体メーカーには欠けている、というご意見をいただくことがある。半導体メーカーには部品メーカーとしての意識がまだ強く残っており、これでSoCビジネスを行うのには無理がある、との指摘である。
かつて日立製作所におられ今なお「システム屋」としての考えも気構えも失わない人たちからのご意見をいただいた。半導体メーカーに「システムのわかる人を育てなさい」と言ったら、「システムがわからなてくもうまい答えが出るはずだ」との答えが返ってきたそうである。これを認めると自分の立場がなくなるからのようだ。しかし、これではいつまでたってもシステムを理解できないまま、自称システムオンチップ(SoC)を作ることになる。
特に優れた企業ほど、しかも今の業績が良ければ良いほど5年後の未来のシステムに向けて何を開発し何を主力製品とするか、について議論し方向を決め、それを実行している。システムがわかる人たちだからこそ、未来のシステムを議論できる。例えば今、絶好調のクアルコムはポストCDMA技術について議論し、インテルはポストPCについて議論している。ソフトウエアしか手掛けてこなかった企業は今後のシステムに対するハードウエアに関してアンテナを尖らせている。オラクルのサンマイクロシステムズ買収しかり、マイクロソフトの富士通とのクラウド提携しかり、である。
システムメーカー、OEMメーカー、ファブレス設計メーカーを取材すればするほど、彼らは半導体のすごさを知っている。半導体こそが自分たちのシステムを実現してくれるからだ。ところが半導体メーカー側がいつも口にするのは、何か面白いヒット商品がないかな、その商品に使ってもらう半導体を開発しなければならないから、という視点だ。OEM頼みではなく、OEMと一緒に新しい商品開発を考える、ということをしなくてはOEM電子機器メーカーの夢を実現してやれない。つまりOEMメーカーと一緒に半導体メーカーも成長しよう、という気構えが重要なのだ。
そのためには半導体はもはや部品ではない、と認識する必要がある。システムオンチップ(SoC)を得意とするメーカーが日本にはたくさんある。しかし、システムメーカーの夢を実現するためのシステムを開発している、と考えている半導体メーカーはいるだろうか。OEMメーカーの言いなりに部品を作っているだけなら、システムの全貌がわからない。もしかしたら自社が持っている既存の製品も一緒に売れるかもしれないが、システム全体がわからないからそのことに気づかない。部品を作るのではなくシステムをシステムメーカーと一緒に開発するという意識があれば、自らのビジネスは拡がり、あわよくば気が付かなかった製品まで売れることがありうるのである。システムメーカーとの共同開発という意識がなくてはSoCビジネスで成長できないのである。iPadやiPhoneに日本製チップが入っていないのはまさにこの視点だ。
こういったビジネス認識が変わってくるとき、半導体産業の予測はがらりと変わる。今や世界の半導体メーカーからは同情すらされている日本の半導体が目覚めるときは、産業の予測も大きく変わる。ニッポン半導体が目覚めると、世界の半導体産業も変わると思う。さらに急速な成長曲線を描くかもしれない。その兆候が見られる。ルネサスによるノキアの次世代モデムチームの買収がその一つだ。変革の起爆剤となるように成功してくれることを望む。
そのためには、最近上梓した本「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」(日刊工業新聞社刊)で議論したように、経営陣がしっかりとしたリーダーシップを持ち、親会社から一刻も早く独立するための仕組み作りを作ってほしい。親会社から独立しながら親会社の口出しを甘受している半導体メーカーが実は全て100%低落していることが最近の取材でわかった。しかも、国内外を問わない。