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新規事業やベンチャー企業を興す人たちへ贈る「熱い」本

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最近懐かしい人に出会った。新規事業開発やベンチャーを支援するコンサルティング会社アセット・ウィッツを経営している南部修太郎さんだ。彼はかつて松下電子工業(現在パナソニックのセミコンダクター社)でGaAs半導体を開発していたエンジニアだ。南部さんが2年前に「ベンチャー経営心得帳」という本を出版したことを最近知った。

南部修太郎氏著 「ベンチャー経営心得帳」


私は1970年代末から日経マグロウヒル社(現在の日経BP社)で、GaAs(ガリウムヒ素)半導体の研究開発を追いかけていたとき南部修太郎さんに出会った。電子通信学会や応用物理学会の全国大会、毎月の研究会、IEDMやISSCC、信頼性物理シンポジウム、Electrochemical Society Meetingなどを常にウォッチしており、どの企業の誰がGaAsの何を研究しているか常に頭に入れていた。

当時、GaAs半導体デバイスはマイクロ波通信用の増幅器として進行波管と呼ばれる真空管を置き換えるために開発されていた。このため通信に強い企業であるNECや富士通、NTTなどが開発競争の表に立っていた。ある日、松下電子工業という名を学会のプログラムで見つけ、早速取材を申し込んだ。なぜ松下電子がGaAsを開発するのかわからなかったからだ。その時、上司と共に取材に対応してくれた若手の技術者が南部修太郎さんだった。

私が外資系出版社を退社し独立した2007年の秋、電子通信学会のパネルディスカッションのモデレータを依頼され、パネルディスカッションのパネラーの一人だった南部さんに再会した。株式会社アセット・ウィッツというベンチャー企業を支援するコンサルティング会社だという。GaAs半導体デバイスの開発を懸命にやっておられた南部さんがなぜベンチャー支援の仕事をしているのか、その時はあまり深くお尋ねする時間がなかった。

その南部さんと最近また出会った。そのときに「ベンチャー経営心得帳」を発行されたことを知った。南部さんは松下電子という大企業にいてなぜベンチャーの気持ちがわかるのか、失礼ながらこの点もわからなかった。しかし、この本を読ませていただいて初めて彼の気持ちがわかった。

当時の松下電器産業は、創業者の松下幸之助さんが事業部制という独立採算の仕組みを導入し、各事業部・各部門はそれぞれまるで小さな会社のように運営されていた。南部さんはGaAs半導体を開発し100億円事業にもっていこうという強い意志があった。社内の反対勢力にもめげず、強い意志と強い情熱を持って達成成就するための道筋を付け、研究者であったのにもかかわらず量産にまでコミットした。その時の気持ちがこの本に込められている。

ここに描かれている事実は全てと言ってもいいくらい実に共感した。この本は決して成功物語ではない。挫けて落ち込んだ時の状況も描かれている。しかし、なぜ復活できたか。きちんと分析、反省し、まずかった点を整理し、それらを教訓として次の勝利に持っていくために活用した。失敗からは成功するためのアイデアが出てくる。成功体験しか持たない者には未来は開けない。失敗を冷静に分析し、それを改善し、失敗しないための道筋を描く、という作業はよほど意思が強くなければ難しい。その強い想い、情熱こそが、ビジネスを成功させるために必要な要素である。

実は昨日、オートデスク主催のセミナーがあり、建築家の安藤忠雄さんが基調講演された。安藤さんは、もっと考えることを続けよ、自分で考え自分で状況を切り開くことを考えよ、と強く言われた。冒頭では「最近日本は元気がない。不況だ、2番底だと暗い話ばかりしている。しかし、自分で元気を出さなければ前には進めない」と始まった。

南部さんの言われる強い意志と情熱と同様なことを安藤さんも言っていた。「夢を持つことが大事であり、年齢ではない」。そして「勇気、真剣勝負、注意力」という要素も重要であることを安藤さんは述べられた。南部さんにしろ、安藤さんにしろ、日本の若者が強い好奇心と強い情熱を持てば、日本はもっと発展し変わっていくだろうと思っているに違いない。

私も最近出版した拙書「知らなきゃヤバイ 半導体、この成長産業を手放すな」(日刊工業新聞社刊)を書き終えた後、感じたことは、「日本はもはや大企業に期待することは難しいのではないか。大企業からスピンオフして独立しベンチャーを興し世界に打って出る若者が日本を変える力になるのではないか。ホリエモンのように道を誤る人が出てくれば大人が正しい道案内をすればよい。勇気を持ってたくさん出てきてほしい」ということだ。若いエンジニアやビジネスマンが起業するなら成功させるための知恵を持っている大人たちをたくさん紹介できる。日本だけではなく海外ならどこに誰がいるのかも教えられる。若い人の役に立ちたいと思っているオジサンたちは案外多いことを知ってほしい。

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