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スマートグリッドとは何か、平滑回路のアナロジーで考える半導体の宝庫

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日本でも次世代送電網の実験が始まった。全国から4カ所(横浜市、愛知県豊田市、北九州市、関西文化学術研究都市)を選び、今後5年間にわたり次世代送電網の実験を始めることが日本経済新聞で報じられた。

米国では、次世代の送電網(パワーグリッド)をスマート(賢い)グリッドと称して、オバマ大統領の肝いりで、賢い送電網を築くことを宣言した。これに対して当初、日本では停電がめったにないから、米国とは違う、そのような送電網は必要ない、という意見が多数見られた。しかし、最近になって次世代送電網の実態が少しずつ分かってきた。


次世代グリッドは低コストの電力技術、平滑回路で考える

次世代グリッドは低コストの電力技術、平滑回路で考える


これまでの送電網は11万ボルトあるいは22万ボルトの発電所から電力を供給し、一度6000V程度まで落とした後、家庭やオフィスで使う100V あるいは200Vの電圧まで落としている。発電所からユーザーまで一方向で供給してきた。次世代の送電網では、一方向ではなく、まるでイーサーネットのような双方向のネットワークとなる。超高圧の発電所からの送電は変わらないが、その先の電力網においてソーラー発電や風力発電などが行われるため、その電力をネットワーク内のどこかへ送り出すことで、発電電力を減らすと同時に平準化して必要以上に発電しなくても済む、低コスト技術になる。

電力は昼間、夜間、季節などに応じて変動する。日本の電力は電力がピークになる値以上を発電できるように発電所を建設してきた。普段使う電力量よりもずっと大きな電力量を発電できる過剰な能力を持たせてきた。これに対して米国では、ピーク値よりも少ない発電所を作ってきた。無駄なコストを発生させないためだ。しかし、ピークがたまたま重なったりすると停電を起こした。だからといって、日本の方が進んでいる、という言い方は正しくない。金をつぎ込み、ピーク値に合わせるために過剰に発電能力を付けてきただけにすぎない。

次世代グリッドは、発電能力をもっと下げ、ピークは畜電池からの電力で補強し、少ししか電力を使わない期間は蓄電する、といった低コストの電力技術である。われわれ消費者の電気代を下げてくれる切り札となるだろう。電気教科書にある交流から直流に替える整流回路の後段の「平滑回路」がそのモデルと考えればよいと思う。コイルは局所発電機、コンデンサは電荷を出し入れする蓄電池、と考えれば、次世代グリッドを理解できる。

この局所発電機がソーラー発電であり、風力発電、燃料電池によるコジェネレーションなどとなる。コンデンサがリチウムイオン電池と考えるとわかりやすい。つまり次世代のパワーグリッドでは、ソーラーや風力など再生可能なエネルギーばかり注目されているが、リチウムイオン蓄電池も極めて重要な部品となる。

加えて、まるでイーサーネットのようにネットワーク状になる次世代の局所電力網では、今どこで発電が過剰になり、どこが電力を使っているか、を検出するためのセンサーとその情報を伝えるITが欠かせない。しかもネットワークを管理して、決められたプロトコルに従って情報を送受信する仕組みのソフトウエアも欠かせない。このスマートグリッドはイーサーネットと同じようなネットワークの中に、電力を発生する所と消費する所、貯める所が共存し、発生した電力を使うべき優先度を決めたり、指示したりするような機能も必要になる。そのためにはネットワークにぶら下がる発電機や蓄電池、電気製品などの『部品』にIPアドレスを振り分け、管理する必要がある。

スマートグリッドこそ、電力網をシステムとして考える絶好の良い教科書となる。このネットワークに使われる半導体は山のように存在する。パワーデバイスだけではない。IT系のコンピュータシステムをベースとする半導体、センサー、情報を伝える無線・有線の技術向けの半導体、メモリー、アナログ、ありとあらゆる半導体が登場する。スマートメーターは単なる「部品」の一つにすぎない。半導体メーカーにとってはまるでゴールドラッシュになるだろう。ゴールドラッシュに参加できる企業こそ、成長できる企業といえる。というのは、この次世代グリッドは先進国だけではなく発展途上国にも共通して使える低コスト技術であるからだ。

私の提案する、次世代パワーグリッドと平滑回路とのアナロジーについて、パワーエレクトロニクスの専門家、半導体技術の専門家、回路エレクトロニクスの専門家の方たちはどのように考えるだろうか。意見を待ちたい。

さらに、この局所電力網は大きな電力ネットワークに多数ぶら下がるネットワークでもある。この多数の局所電力網同士をつなぐ技術も重要となる。これが東京大学の阿部力也特任教授の提案するデジタルグリッドである。次世代グリッドはいずれ、スマートグリッドからデジタルグリッドへの展開を迫られることになろう。

5月28日に開催するセミコンポータル主催の「SPIフォーラム 次世代パワーグリッド構想 スマートグリッドの真実を探る」では、次世代パワーグリッドの正しい姿を議論する。

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