セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

見えてきた大学と企業とのコラボ方法、ショッピングモール方式の試み

|

大学がこれからの未来を想定し、その実現に貢献する研究を推進し、その活動を社会に示す、ワークショップを東京工業大学統合研究院が11月30日-12月1日にかけ主催した。大きなテーマとして、グリーンICE(information, communications, energy)を掲げた。グリーンは環境にやさしい技術であり、IはIT、IとCでICT、さらにエネルギーを加えた。

グリーンICEプロジェクトのワークショップ

グリーンICEプロジェクトのワークショップ


ITは経済産業省がよく使う言葉、ICTは総務省がよく使う言葉、だがどちらの肩を持つわけではない。昨今のスマートグリッド、電気自動車、ソーラーパワーなどのエネルギーブームを反映してエネルギーを加え、ICEとしアイスと呼ぶことにした。

11月30日には、東工大がソリューション研究の報告会と銘打って、統合研究院で行っている研究を紹介し、外部からNTTファシリティーズ、デンソー、日本IBMからの講演があった。東工大側からは、強誘電体ゲートを使う1トランジスタのメモリーセルや急峻なサブスレッショルド電流をもつFETの設計方法、スケーリングを追求するシリコンナノワイヤー構造、スピンを利用する新しいデバイス、C言語設計に密結合のスレッドを重ねるマルチコアの設計手法、ミリ波のRF CMOS設計と超低消費電力設計、面発光レーザー、光配線技術、アナログ回路の小型化、などのテーマについて現状報告があった。

これまで、大学の研究発表は電子情報通信学会や応用物理学会、IEEEなどで個別に発表するものばかりであったが、今回はエレクトロニクス分野で東工大の半導体研究を一堂に揃えた品評会となった。実はこのような大学の総合技術研究を企業の方々や他の大学人に披露したのはこれまでにあまり例がない。主催者の一人である益一哉教授は、個別の専門店ではなく、総合的なショッピングモールを目指すことを考えたという。半導体の研究をこのようにしてトランジスタレベルから、回路、LSI設計、フォトニクス、RF、ミクストシグナルまで網羅した総合的な半導体ショッピングモールは、企業からみるとどれが自分の企業に不足していて、それが満ちているかをしっかりと把握できる。しかも、研究に対して企業側から注文を出すこともできる。


東工大 益一哉教授
東工大 益一哉教授


こういったオープンな考えは、ようやく企業にとって大学に対して注文を出せるメニューがそろったことに相当する。

かつて、大学の研究のうち技術を外へ移転できるものは外で使ってもらおう、という趣旨の技術移転について検討されたことはあった。技術移転組織ができた所もあった。東工大にも出来ていた。しかし、誰も使わない技術のように見え、結局失敗した。社会のニーズを知らずに研究していて、企業側には必要のないテーマをやっていたというケースもあった。社会のニーズをくみ取る努力を大学はやってきただろうか。象牙の塔で、お高くとまっていただけだったかもしれない。

今回、益教授の提案する、半導体研究のショッピングモール方式は、大学の研究を産業界に訴える重要な機会となった。ある外資系大手半導体メーカーの方は、「素晴らしい研究で、自社ではとてもここまでいかない」と感嘆されていた。次は企業側が大学の研究を選び、テーマをモディファイし、企業が本当に欲しい、それも1年以内で実現してほしいテーマを提示する番だ。企業と大学がテーマと手順、成果などについて突き詰めながらやり取りすれば社会に役立つ成果は必ず出てくるはずだ。企業が欲しがっているからだ。

企業は製品開発に必要な研究テーマを大学に注文を出し、大学が応じることができるかどうかを問うことも可能だ。このワークショップではIBMの方がコラボレーションについて講演されたが、IBMという巨大ながら活性な企業でさえ、自社で全てをまかなうことはできないと言っているのである。日本の企業がなんでも自社で開発してきた姿勢を改めなくてはもはやグローバル競争の土俵にさえ上れないだろう。日本企業は大学をうまく利用して、欲しい技術を開発してもらえばよい。自社は得意な分野に集中し、不得意あるいは手掛けていなかった分野は外とコラボして開発してもらえばよいのである。大学をうまく利用できるかどうかが企業の生き残りのカギとなる。

大学は今回の半導体研究のショッピングモールのように、一堂に集めて成否を企業に問うのである。この姿勢がなくては大学研究が社会の役に立たないと言われても仕方ないかもしれない。益教授は来年もこのワークショップを開催したいと述べていた。続ける意味は大きいだろう。

ただし、問題はライセンスをはじめとするIPR(知的財産権)の問題だ。すべて大学に帰属するとか、一律に決めずにケースバイケースで対応することが望ましい。企業側に金銭で譲渡する場合、ライセンスフリーにする場合、エクスクルーシブなライセンスにする場合、研究する中身によってそれぞれの企業と柔軟に対応することができなければこの問題は解決せず、しかもコラボそのものの失敗にもなりかねない。英国や米国は常に柔軟な対応をして産学協同を成功させている。

月別アーカイブ