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大学は社会に役立つ研究ができるか、ソリューション研究に期待したい

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光ファイバの実用化に貢献した元英ITT(International Telephone and Telegraph)のCharles K. Kao氏と、CCD(電荷結合素子)を発明した元米ベル研究所のG. Smith氏、W. Boyle氏の両名にノーベル物理学賞2009が決まったことは、極めて興味深い。ノーベル賞というアカデミアの最高峰のテーマが実用研究だったからだ。

光ファイバは現代の通信には欠かせない。今やこれなしではインターネットの膨大なトラフィック量を処理できない。CCDはメモリーへの応用はアルファ線の問題によって途切れてしまったが、カメラへの応用によって花開いた。共に現代には欠かせないエレクトロニクス製品となった。企業の研究所で社会の役に立った研究がノーベル賞を授賞したというわけだ。

素粒子物理学のように元素、物質の解明を目指す純粋な学問(英語ではBlue sky researchと呼ぶ)がこれまでのノーベル賞では多かったが、実用な研究で授賞する人たちが出てきたことは産業界でも学界でも喜ばしい。というのは、大学の先生からおしかりを受けるかもしれないが、学問とは何か、趣味と学問との境界は何か、社会に貢献することと学問との違いは何か、を突き詰めて考えると、大学におけるblue sky研究はもしかしたら個人の趣味から出ていないのではないか、と懐疑的になることがあるからだ。アカデミック、学問的と称しながら、社会を無視して研究するということと個人の趣味(個人的な興味)との境がわからなくなるような気がする。

しかし、何らかの社会の要請に基づいて研究していることなら、社会の役に立つことがはっきりしているだろう。トランジスタの発明は、真空管ではない固体の増幅器を開発してくれという海軍からの要請だった。潜水艦で使う真空管はしょっちゅう取り換えなければならず信頼性が悪く常に予備を用意しており、固体なら振動に強く信頼性は増すだろうという思いからだった。島津製作所の田中耕一氏は、タンパク質の質量分析技術でノーベル化学賞を受賞したが、これとて従来のイオン化分析ではタンパク質のような温度を上げられない物質をイオン化分析できなかった。これを実現してほしいという産業界からの依頼だった。

大学が社会の要請を忘れて、研究のための研究、論文を書くための研究をするのなら、もはや個人的な趣味となってしまうのではないだろうか。大学とはいえ社会へ還元するという意識は必要であろう。昨年から始めた英国特集では、ケンブリッジ大学、ブリストル大学、大学そのものの仕組みを発明したといわれるスコットランドのエジンバラ大学、いずれも今や産業界からの要請を重要視して研究している様子を伝えてきた。


英ブリストル大学
英ブリストル大学


社会の発展、経済の発展に大学の果たすべき役割は大きい。米国の大学も産学共同の仕組みが出来上がっている。企業ではできない大学ならではの研究こそ、社会が要請しているものであろう。そのためには産業界からのニーズをくみ取る仕組み、産業界と積極的に働き掛ける仕組みはマストだろう。ブリストル大学では、産業界との共同研究をしていない工学部の教授は給料をカットするという強行手段まで採っている。英国政府では大学の研究費は日本でいう経産省、教育費は文科省と予算を担当する区分けもしている。

日本でも産学連携の動きが出てきた。東京工業大学の益一哉研究室が「ソリューション研究」と名付けたニーズ先導型の研究活動を始めている。ニーズを意識した研究として位置付けている。これまで大学での研究といえばシーズ指向が大半で、社会の役に立つか、立たないかは二の次だった。大学は本当に変わったのか?この11月30日-12月1日に東工大で開かれるTechnical Workshop for Open Innovationにおいて何がどのくらい変わったのか見ることができると思う。

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