オランダでASMLカクテルを飲んだ
オランダのアイントホーフェンはかつての総合電機企業であったフィリップスの街だ。今はかなり分割された。そのフィリップスをスピンオフして設立された代表的な企業として、リソグラフィ製品の王者であるASMLがある。ASMLはこの街に拠点を構える。市内のホテルSofitel Cocagne EindhovenのバーにはASMLパラダイスビキニカクテルという名のカクテルがあった。
味はとりたてておいしいカクテルというわけではないが、企業名の付いたカクテルとはしゃれている。このホテルにはASMLの顧客やサプライヤ、あるいは出張者などの関係者がよく泊まるのだろう。楽しいネーミングは仕事を楽しむという意味で面白い。仕事に遊び心を含めると仕事が楽しくなる。モチベーションが上がる。却って仕事に夢中になる。仕事を楽しむとは決して手を抜くことではない。
海外では日本人ジャーナリストは私一人という取材出張が多いが、今回のIMEC、ASMLの訪問では日本人記者が大勢いた。みんなでこのASMLカクテルを飲んだ。ある意味ではお互いにライバルなのだろうが、記者仲間というネットワークは大切にしたい。おかげで日本や米国だけではなく台湾や韓国、中国、ヨーロッパにも記者仲間は多い。いざという時に消息を探し合い、人脈の広がりや仕事にも通じたり、ある時は仕事をいただいたりすることもある。
日本人ジャーナリストの集まりもいざという時にお互いに助けたり助けられたりすることがある。取材の仕方の情報交換、切り口、何がニュースかを話すこともある。ライバル意識はもちろん重要ではあるが、ライバルという意識だけでは会社という組織に埋没させられてしまう。自分の人脈は自分で形成しなければならない。つまり自分という存在を失ってはいけない。記者仲間のネットワークは取材先ネットワークと同じくらい大切にしたい存在である。
最近ではインターネットでの人脈形成も盛んだ。例えばLinkedInは私は知り合いの海外記者とのネットワークに使っており、記者の消息を知るのに都合がよい。ときどき、あいつは今どうなった、と聞くことがある。
人脈の重要性はメーカーでも同じことだ。ライバルメーカーのエンジニアと知り合いになることは仕事や考え方の幅を広げる意味でとても重要だ。仕事という顧客やサプライヤとのつながりだけを問題にするが、ライバルメーカーの人脈も実は重要で、自分の仕事に別の考え方をプラスにしたり取り込んだりすることで、自分の会社が新しく変わることさえもありうる。もちろん企業秘密には触れないことは言うまでもない。
人脈を作るために協力してくれる人の存在は重要だが、自分でも広げる努力は必要であり、むしろ年齢とともに、自分をどう生かせるかは人脈次第かもしれない。一つの会社にずっといる人は知らず知らずのうちに井の中の蛙になっている可能性がある。自社の文化しか知らなければ、他社で通用することは難しい。かつて優秀なバイリンガルの人材を探していた時、応募してきた中に大企業で部長を務めていた人がいた。PCやワープロで海外とのコレスポンデンスはどのくらいの頻度でやっていますか、と聞いたら、自分ではメールは打てないが「女の子」に打ってもらえばいいので、いくらでもできます、と平然と答えた。大企業の部長は自分でパソコン操作もできないのかと知って愕然とした。その割に女性を「女の子」呼ばわりしていた。
自分の会社以外の人間といかにつながることができるか、いかに多くの人物と仕事仲間を作れるか、こういった人脈作りは特に若いころから自ら働きかけないと形成されない。少なくとも、今回の欧州取材に参加した若い記者たちはネットワークの重要性を感じたのに違いない。