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独断と偏見で切る、各社の製品表から見えてくる半導体産業のベストな再編

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最近の富士通エレクトロニクスの選択と集中の発表は、これまでのNECエレクトロニクスとルネサステクノロジの統合などの発表とは違い、選択と集中を進めていることが見えてきた。半導体各社の製品一覧表を各社のウェッブサイトの製品をベースに作ってみた。その中から見えてきたものは、業界再編するなら製品ごとに行うべきということだ。

半導体各社製品一覧表

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出典:各社のウェッブサイトを基に筆者が作成


この表で特にNECエレ、ルネサス、いずれもマイコンの開発において入出力仕様を公開し、外部のサードパーティにプログラム開発を依頼したりサードパーティがソフトウエアや開発ツールを開発したりしている。オープンにしてサードパーティがマイコンのソフトを組むからこそ、NECエレやルネサスはマイコンの品種を拡大し、ビジネスを大きくすることができた。いわば、外部のサードパーティがソフト開発してくれたからこそ、マイコンビジネスを伸ばすことができた。

サードパーティの立場からすると、開発するプログラムやソフトウエアは数カ月先に商品となる訳だから、将来の製品に向けても今から開発を手伝おうということになる。しかも新製品が出てきてもソフト開発のスキルを生かすことができる。しかし、開発した製品がもし消滅するとなると、彼らは安心してソフト開発を続けられなくなる。ここがサードパーティにとって死活問題となる。しかし、もし途中で開発が打ち切られるなら、開発するために何日もトレーニングを積んだり理解したりしてきたことが無駄になるからだ。今開発しているマイコンが将来も続くならソフト開発の仕事は続けられる。

NECエレとルネサスの合併の最大の問題点は、外部のサードパーティのモチベーションだと思うが、誰もこの問題を議論しない。NECのサードパーティがNECエレのマイコンがなくなりルネサスばかりになると今までの訓練が無駄になる。ルネサスのサードパーティも同じ思いでSHマイコンがなくなるとしたら、ソフト開発を安心して継続できる半導体企業を探すだろう。どちらのサードパーティにも疑心暗鬼が生まれる。これではどちらのサードパーティも継続して開発しようという意欲が削がれてしまう。

NECエレもルネサスもこれらのサードパーティが逃げてしまうと、これまでのような売り上げは得られない。東芝や富士通、エプソン、沖電気などのマイコン事業を見るがいい。入出力をオープンにせず自社で開発するものだから、開発のリソースが少なくいつまでたっても品種が広がらない。だからビジネスは決して大きくならない。

かなり大胆な無責任な議論になるかもしれないが、この表を見る限り、東芝や富士通、エプソン、沖電気のマイコンやSoC事業こそ、NECエレクトロニクスやルネサスに売れば、NECもルネサスもマイコン、SoC事業はそれぞれさらに強くなる。逆にその分、東芝や富士通は身軽になり、強い他の製品をより強くできる。しかもマイコン設計のエンジニアは路頭に迷うことなく、しっかりとNECエレあるいはルネサスに移籍しマイコン開発を続けられる。

逆に、ディスクリートに強い東芝がそれをますます強くしたいと思うなら、NECエレからディスクリート部門を買えばよい。この表を使い、製品ごとに市場シェアを考えると、常にナンバーワンの企業がそれ以下の企業を買いより強くする、下のランクの企業にとっては「お荷物事業」を中止するのではなく、上のランクの企業に売却することで、エンジニアのモチベーションも保たれる。

1995年ごろDRAMをやめたテキサス・インスツルメンツ社は、DRAM事業を止めるときエンジニアの幸せを考えたという。TIはDRAMだけではなく防衛エレクトロニクス事業も止めたが、どちらも共通するのは、エンジニアの自己実現の幸せのために事業の売却が望ましいと考えたことだ。DRAMはやはりDRAMメーカーのマイクロンに売却、防衛エレクトロニクスは同じ業界のレイセオンに売却した。どちらのエンジニアも磨いてきたスキルを生かしてDRAMあるいは防衛エレクトロニクスの開発を続けられた。2年半前にTIのトム・エンジボス会長(当時)にインタビューした時、同氏は以上のように答えた。

事業を止める場合は捨てるのではなく売却という道を選ぶことは働くエンジニアにとっての幸せにつながる。事業を捨ててしまえば、それまで開発してきたエンジニアの努力は何になろうか。同じ企業の別の仕事に就くとしてもエンジニアはそれで満足できるだろうか。多くのエンジニアは退社という道を選ぶかもしれない。路頭に迷う危険性もある。だから、人によっていろいろな選択肢を用意する方がいいかもしれない。日本では会社側は従業員に対して、オプションとして1)会社に残る、ただし別の部署での仕事、2)買収先企業へ移る、3)早期退社、という3つの選択肢を用意してはどうだろうか。

製品ごとに、強い企業が弱い企業から買収してより強くし、弱い企業はお荷物を預ける。このことはどちらもウィンウィンの関係を築くことができる。企業の買収、リストラを考える場合はそこに働く人の幸せを考えることが、残された従業員にとってもモチベーションを維持できる方法となりうる。ただ単に切り捨てることからは、残されたものでさえ、ポジティブな考えは生まれない。

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