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ドメスティックな通信業者でさえグローバル化を進めている、わが半導体は?

先週、米AT&TのGNOC(Global Network Operations Center:ジーノックと発音)の見学とAT&Tの海外戦略を取材する機会に恵まれ、ニュージャージーに行った。AT&T(American Telephone and Telegraph)と言えば、日本のNTTに匹敵する電気通信オペレータ業者であり、NTTが民営化する前に民営・分割を行った企業である。トランジスタを生み出したベル研究所もかつてはAT&Tにあった。

通信業者というと極めてドメスティック、という印象が強い。日本の通信ならNTT、シンガポールならシンガポールテレコム、ドイツならドイツテレコム、英国ならブリティッシュテレコムなど、通信オペレータ業者は現地の企業が国営であれ民営であれ、運営している。ここにほかの国のオペレータが入り込む余地は少ない、と思っていた。しかし、ドイツテレコムは米国をはじめとする世界市場で活躍している。AT&Tは外国からの競争にさらされている。

AT&Tは、「従来のビジネスモデルだと、もはや成長しない」と認識している。このため、自社が持つアセットを最大限に利用して何か新しい分野を切り開けないかと考えた。VPN(仮想専用回線網)やイーサーネット、クラウドコンピューティング、ホスティング、アプリケーションサービス、など新市場を見据えた。さらに狙うべき大手顧客は多国籍企業と化している。つまり、大手企業は海外にいくつもの拠点を持ち、海外のチームとネットワークを組んでいる。コンピュータ端末はスマートフォンや携帯電話など裾が広がっている。

こういった状況を見て、AT&TはIPベースネットワークへの転換、モバイル利用の促進、アプリケーションの充実といった方針を打ち出した。


What's Driving Business Demand


例えば、海外現地の通信オペレータと組みVPNを構築、VPN回線を通じて多国籍企業のデマンドを実現する場合、IPベースのネットワークだと世界共通にできる。多国籍企業が海外各地でそれぞれのネットワークを組んでいては、海外すべての情報を共有できない。各地の業務を共通ネットワーク上でやりとりできると、業務効率は全く違ってくる。最近、住友化学が持つ28カ国のネットワークをIPベースのネットワークで統合するフェーズ1を完了したとAT&Tジャパンが発表した。

そしてモバイルへのアクセスを世界中のAT&Tのネットワークを使って実現する。スマートフォンのようにさまざまな機能が集積されたデバイスを利用する。「世界には4億人が仕事で携帯電話を使っている。パートナーやサプライヤー、従業員が携帯を使ってアクセスできる」とモバイルを強力にサポートしていく。

アプリケーションを増やしていくことは顧客ごとのサービスを充実させることになる。コンピュータの能力を高めたい顧客にはクラウドコンピューティングを提供、リアルタイムにコラボレーションしたい顧客にはユニファイドコミュニケーション/テレプレゼンスを提供、ネットワークやデータをセキュアにしたい顧客にはセキュリティ/トラフィック監視・警告システムセンター(GNOC)のサービスを提供する。

AT&Tはこれまでの古いビジネスやビジネスモデルにはこだわらない。自分たちの強みを生かし発展させるため、強みと弱み、状況、動向などの企業分析をしっかり行い、グローバルに進出することを決めた。いわばSWOT(strength, weakness, opportunity, threat)分析だ。マーケティング手法で有名なこの分析を使えば、自分たちの立ち位置を客観的に把握できる。

日本の半導体メーカーを見ていると、この立ち位置がしっかりしていないように見えるのはなぜだろうか。SWOT分析をやってもそれを半導体ビジネスに反映させていないのではないだろうか。昔からのお客様だから、というしがらみにがんじがらめにされているのではないだろうか。昔からのお客様は今でも価値が高いのだろうか。その優先度はどうやって決め、判断しているのだろうか。もちろん昔からのお客様は大切だが、それだけで優先度を決めそれに縛られることで会社がつぶれてしまっては何にもならない。だから優先度の基準を決めることがとても大事になる。

SWOT分析によって、自分たちの立ち位置を再定義し、攻めるべき戦略がはっきりと見えてくると、しっかりと宣言する。そして、いったん決まったらブレることなく、まっしぐらに進める。これしか今はないのである。インテルもTIもIBMも、こうやって成功した。

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