セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

楽しさこそ、キラーアプリを生み出す原動力になる

|

キラーアプリとは何か、についてときどき聞かれることがある。何がキラーアプリなのか、もちろんわかればそれに越したことはない。しかし、みんながキラーアプリを知ってしまえばみんなが参入してしまい、ビジネスとしては旨みがなくなる。何をキラーアプリと考えるか、企業によって違うだろう。

これまでのヒット商品をいろいろ考えてみると、最近の共通項は「楽しさ」ではないか、と思うことがある。任天堂のWiiやDS、アップルのiPhoneやiPod、NTTドコモのiモードや携帯メール、携帯カメラなど最近のヒット商品は、どれもこれも楽しい製品ばかりだ。

逆に、楽しいという要素がない商品はキラーアプリになりえないのではないか。例えば、ブラウザを開発した、マーク・アンドリーセンは学生時代、インターネットをコマンドベースではなく、もっとビジュアルで楽しくつなげられないだろうか、と考え最初のブラウザ「モザイク」を開発した。当時もインターネットは米国国防総省のDARPAnetというネットワークであり、大学同士をつなぎ研究者同士でメールのやり取りなどはできていた。しかし、ビジュアルではなく、そこには楽しさはなかった。マークはそれをビジュアルなブラウザという形で図や写真も載せられるようにした。それを知ったベンチャーキャピタリストのジム・クラーク氏が資金を提供してNetScapeを設立したのは有名な話だ。

Appleのマッキントッシュコンピュータも、やはり楽しさから生まれた。今から40年ほど前、コンピュータは空調のよく効いた部屋に置かれ、ロッカーのような大きなサイズのコンピュータの箱が何台も並び、ディスプレイモニターはなかった。テレタイプと呼ばれる電動タイプライターがユーザーインターフェースだった。テレタイプにコマンドを打ち込むと、コンピュータが反応して数秒〜数十秒のちに回答してくる。こんな時代に、フラットパネルディスプレイ、GUI、プルダウンメニュー、マウスなどを含む小さなコンピュータをイメージできた男がいた。

その男、アラン・ケイは想像したコンピュータを「ダイナブック」と名付けた。今のノートパソコンの原型である。のちに東芝がノートパソコンをこう名付けたが、それはまだ改良途上にあり、名称は東芝が使っても気にしないと彼は記者会見で述べた。彼こそ、スティーブ・ジョブスと一緒にアップルコンピュータを設立したファウンダーの一人でもある。自分はミュージシャンだから、音を入れなきゃ楽しくないとアランは考え、アップルのマッキントッシュには最初から音楽を入れた。

MS-DOSのようなコマンドベースで動かすパソコンの時代に、マウスを使いプルダウンメニューから作業を選ぶ、というようなユーザーインターフェースも、DOSパソコンからみると楽しいインターフェースだ。

数年前、アラン・ケイにインタビューしたとき、今どんなコンピュータをイメージしているのか、と尋ねた。A4程度の大きさのフラットディスプレイを持ったメディアであり、学校の教室で子供たちが教師と授業内容を共有し、ディスプレイ上でコミュニケーションできるツール、だと答えた。そのツールを使って授業を行えば楽しく勉強できる。歌や音楽はもちろんそのボードから出てくる。コンピュータという計算機ではなく、メディアとして情報を共有できる「A4サイズのボード」がこれから目指すべきコンピュータの姿だと言った。彼は楽しいツールでなければダメ、と付け加えた。

iPhoneのタッチスクリーンを初めて見たとき、楽しさと2本指の位置検出アルゴリズムに興味を持った。画面の拡大・縮小は2000年ごろ取材した英国Picsel社のソフトウエアによく似ていると思った。ペンを下から上に動かすと拡大、上から下へ動かすと縮小、という機能を持つソフトウエアだった。ただし応答が遅く、当時はソフトだけではだめだなあと感じた。iPhoneは2本指の動作を取り込み、速度を向上させただけではなく楽しさを倍増させたインターフェースに変わった。

アップルは楽しさを追求しながら新しい製品を開発してきた。この楽しさ重視の姿勢こそ、キラーアプリにつながる要素であり、ビッグなビジネスにつながっていくのではないだろうか。PS-3がWiiやDSと決定的に違ったのは「楽しい」という視点が抜けていたことだ。ただ単に高精細なゲーム機にすぎなかった。あるExソニーの方がこうおっしゃっていた:「PS-3の高精細な画面を見て格闘ゲームで血の流れる鮮明なシーンを見たいと思いますか?」。「楽しい」視点は「僕も私も使ってみよう」につながるのである。

月別アーカイブ