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エレクトロニクスはもっと易しく教えることで学生の人気を取り戻せるかもしれない

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ある大学の経営学部の学生に特別講義という形で講演させていただいた。講演の最初に学生たちに、エレクトロニクスやITという言葉から何を思い浮かべるか、エレクトロニクス製品はどういうものか、について質問してみた。答えは?

エレクトロニクスに対するイメージは、「難しいもの」、「わからないもの」、「どう答えていいのかわからない」というような答えが返ってきた。エレクトロニクス製品は「家庭電化製品」、ITは「パソコン」などの答えが返ってきた。エレクトロニクスや電子工学といえば、とっつきにくい、難しいものであり、具体的なイメージがわきにくいようだ。だから電子工学に優秀な人が集まりにくくなっている。もっとわかりやすいエレクトロニクス、わかりやすい半導体、わかりやすいITを少なくとも高校生までに教えなければ大学での進路の中にエレクトロニクス学科は選択肢に入ってこない。

大学でさえも電子工学、半導体工学をわかりやすく、素人のビジネスマンに教えるつもりの授業が求められるだろう。私が学生たちに話をした内容は、エレクトロニクス製品や技術はもっともっと世の中に広がっていっている、それを支える半導体の技術も製品も産業も広がっている、ということだ。かつては精密機械メーカーの代表であった精工舎(現セイコー)、キヤノン、ニコン、富士写真フィルムなども今やエレクトロニクス製品を作っている。カメラはもはやエレクトロニクス製品となった。携帯電話はエレクトロニクス製品になった。スマートフォン、パソコンも。かつては花札しか作っていなかった任天堂のゲーム機Wiiもエレクトロニクス機器である。機械の塊であった自動車にもパワーウィンドウやパワステ、あるいはエンジン制御、サスペンション制御、安全制御などありとあらゆる機械を半導体で置き替えてきている。エレクトロニクス製品とは無縁だった分野にエレクトロニクスが拡大して行っている。もちろん、ロボット技術の8割はエレクトロニクスだ。

AiT代表取締役の加藤凡典さんが主宰して開催しているTPSSセミナーにおいて、スマートフォンやパソコン、携帯電話などを分解して見せているが、この時に撮影した写真を見せた。エレクトロニクス製品の典型であるスマートフォンや携帯電話の心臓部のプリント基板に半導体ICがぎっしり詰まっている様子は圧巻だ。どれもこれも半導体だ。電子回路基板をみると大半が半導体チップで占められている。エレクトロニクス製品の心臓部が半導体であることを伝えた。

もっと身近な所にもエレクトロニクスはある。講演の冒頭にクリスマスイルミネーションを飾っている家の写真を見せた。「実はこれは私の家です。2階部分のLEDイルミネーションは自分で作ったものです」というと、学生側からホオーという驚きの声が上がった。点滅回路を自作し、LEDでイメージを飾りつけている。これも立派なエレクトロニクス技術であることを知ってほしかった。しかも楽しいものなのだということをわかってもらうために、敢えてこの写真を見せた。

クリスマスイルミネーションも立派なエレクトロニクス技術


学生・院生の方たちは実に熱心に聞いてくれた。近頃の若者はなかなか真面目である。礼儀正しい。オーガナイズしてくれた教師を廊下で待っていると、通りすがりの学生たちはこんにちはとあいさつをする。実に気持ちがいい。しかも彼らの知的好奇心は高い。これに応える義務が教える側にあると思う。昔の大学ではわざと難しい言葉を使い、上から目線でモノをいう教授がいた。理解できるような平易な言葉で教えると権威が失われるとマジで言っていた。今の教授、准教授はこんな昔のような態度ではないだろうが、難しいことをわかりやすく伝えることは本当は、極めて難しい作業である。わかりやすい言葉とは何かを追求し、それらの日本語のうち最もピッタリとする言葉を選ぶという地道な作業を伴うからだ。

エレクトロニクス製品の心臓部が半導体だから、エレクトロニクス製品が広がっていくとともに半導体も成長していく。1990年代中ごろから半導体の成長率は従来の年率平均16%から年率5〜8%にやや減速している。しかし、年率平均5〜8%で10〜20年も成長し続ける産業は他にあるだろうか。ないからこそ、半導体産業がリーディング産業となる。しかし、新聞報道やその他のメディアで半導体は落ち目の産業というようなトーンで伝えられている。そのギャップは何か。実は世界の半導体は平均5〜8%で成長し続けているが、日本の半導体だけが成長が止まっているからである。だから、日本のシェアが落ちている。


世界の半導体の市場シェア


何が悪いのか。なぜ日本だけが一人負けなのか。セミコンポータルの読者はその理由をもうわかっているから、ここではあえて言わない。しかし、学生には本当のことを言うべきだと考えお話しした。産業の真実の姿をしっかり知ってもらうことが今回の目的だからである。学生が半導体産業を理解し、一人でも多くこの産業に参加してくれたら本望だ。

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