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半導体は株価の先行指標

最近、半導体分野とはほど遠い人たちから、半導体産業はもうだめなビジネスなんですか、と聞かれた。それも一人や二人ではない。新聞を見ていて、半導体の産業再編ニュースや半導体製造装置産業の赤字決算などの記事を見ていると、そのように感じるらしい。新聞では決して将来性のある産業だとは書いていない。電機業界すなわちエレクトロニクス産業はもう未来がないらしい。なぜこのように暗く見られるのだろうか。

6月6日土曜日の日本経済新聞の「市況の法則」というコラムは、「半導体価格や関連会社の株価が株全体の値動きを先取りしている」という書き出しで始まっている。パソコンや家電、自動車など半導体のユーザーが景気の流れを敏感に察知し、在庫管理を徹底。それが需給関係や企業業績に迅速に表れるケースが多いためだと新聞ではコメントしている。

実際、半導体ICが商品化されると、これから最終機器に組み込まれ、使えるかどうかの検討がなされ、使える場合には機器に組み込まれる。ユーザーの検討が終わると、機器の量産設計、量産開始へとつながり最終機器が消費者の手元に届くまでに1〜2年かかる。だからたいていの場合、組み込まれた機器に使われている半導体製品は古い設計のものが多い。もちろん、インテルのAtomのようにパソコンの設計段階からユーザーと一緒に評価している場合はその期間がもっと短いが、特定の顧客以外の半導体製品は最終の機器製品が発表される頃には半導体のニュース価値として陳腐化していることが多い。

かつては半導体のユーザーは電子機器メーカー、すなわちエレクトロニクスメーカーであった。しかし、今や半導体は輸送機器メーカーである自動車、航空機に入り、精密機械である複写機やロボットにも入る。花札の専業メーカーであった任天堂が半導体の塊であるゲーム機を作り、楽器メーカーのヤマハが半導体の塊である電子ピアノや電子楽器を作る。また、RFIDやセンサーネットワーク、IP電話機などはそれらの使い方やサービスとして農業や流通業といった分野にまで入り込み、その電子機器の心臓部が半導体チップとなっている。

半導体はかつて、産業のコメといわれたことがある。しかし、この表現は的確ではない。今や米がなくてもパンがある。麺がある。ジャガイモがある。代わりはいくらでもある。半導体は米ではなく、心臓になってきている。半導体のない機械を作ってみればよい。からくり人形は巧妙に半導体を使わないロボットだが、半導体を使わずによくいろいろな動作ができるものだと感心する。しかし、半導体を使うともっと新しい動作が限りなく増える。そして半導体を使えば、これまでにない道具が作れる。しかし、半導体を使わないでその道具を実現することはもはや困難になっている。半導体は米ではなく心臓、キモなのである。

米国のニューヨーク証券取引所での米国の株価を反映させる指標が半導体企業の株価である。2007年の景気が上向いていた時では半導体の株価は7月にピークを迎え、他の株価は3ヵ月遅れて10月に株価のピークを迎えたという。逆にいえば、それだけ半導体が製造業だけではなく他の産業にも大きなインパクトを与え、先行指標になっているということだ。企業全体の株価は半導体の3ヵ月後を追いかけている。

日経新聞によれば、半導体企業の株価指数は2008年12月ごろを底に緩やかではあるが上昇傾向にある。他の企業の株価もこれに後追いしている。面白いことに、NY取引所のダウ平均は2009年の2月ごろに下落しているのに対して、半導体企業の株価は急激な下落はしていない。投資家(米国では一般消費者)は半導体企業をダメな産業とは見ていない、といえそうだ。ダメな産業なら先行指標にはなりえないからだ。

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