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規模を追求するという20年前の成功体験に今も酔っている国内IDM半導体メーカー

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NECエレクトロニクスが決算発表を行い、同時に社長交替の人事も発表した。6月25日付けで新社長には、山口純史取締役執行役員常務が就任する。今回の人事では、取締役の人数も従来の8名から4名に減らしている。これは来年度の損益を何とかトントンに持っていくためのさまざまな内部再編の一つであるといえよう。

NECエレは2009年度に900億円のコストカットを予定しており、売上見込みは2008年度の4800億円から4600億円を想定する。この売り上げ減少に対しても赤字を出さないために900億円の固定費をカットする。いわばリストラで、赤字を出さないという方向だ。売上を増やし成長するためのシナリオはまだ描けていない。

しかも7月をめどにルネサスと合併することになる。NECエレとしては単なるリストラにより赤字解消という後ろ向きの対策だけに終始する。ルネサスも同じかもしれない。共に黒字の出せる強い会社にしてから合併すると言っていたことがこの後ろ向きの対策だった訳だ。

山口次期社長は、設計を標準化して低コストでさまざまなアプリケーションに対応できるようにすると発言していたが、これとてコストカット対策にすぎない。いったいNECエレはどこへ行くのか、この先成長するためのシナリオはいつになったら出来てくるのか。

もう一つ気になったことがある。「半導体産業はある程度の規模を確保しなければ成り立たない。ルネサスとの合併は1兆円を超す売り上げを確保し、その1割を利益として出す」と述べていた。しかし、規模を追求しなければ半導体ビジネスは成り立たないという幻想をいまだに抱いていることに正直言って落胆した。20〜25年前のDRAMの成功体験を今もしっかりと幻想として抱いているのだ。

急成長しているファブレスのBroadcomやQualcomm。特に後者はIDMであるNECエレを抜いてしまった。メモリー以外の半導体ビジネスではファブレスが成長を持続できる時代に変わってしまっている。売上が小さいからファブレスは成長率が高い、という言い訳はもはや通用しない。売上の大きなファブレスがこれからは半導体の世界を支配するようになる。


売上の20%を研究開発投資に使うQualcomm
売上の20%を研究開発投資に使うQualcomm


ファブライトで規模を追求するという言い方はおそらくTI(テキサスインスツルメンツ)やSTマイクロエレクトロニクスを意識した発言だろうが、そのTIもSTもファブライトであろうとメガファブであろうとファブであることに今は相当苦しんでいる。ノキアに大きく依存し過ぎていたTIは、ノキアの注文の一部をSTマイクロに奪われたという苦い経験を持つ。DSPビジネスの大規模な数量をノキアに依存していたために、規模を追求することが非メモリービジネスではいかに危険なことなのか、TIは高い授業料を支払った。ノキアの受注を増やしたSTでさえも、消費者が使うべき携帯電話の数量が5〜10%減るという見通しをノキアが述べただけで、2009年第1四半期は4億ドルの赤字を計上した。つまりSTマイクロも規模を追求した結果、不況と共に赤字に転落した。NECエレはそれでも規模を追求することが半導体ビジネスの王道だと思っているのだろうか。

STやTIがファブライトからファブレスへ移行するのはもはや時間の問題といえるところまで来ているだろう。微細化投資の全く不要なアナログやミクストシグナル半導体ではファブを残すとしても、微細化が必要な品種である高集積のSoCや大きなチップのDSPなどの一部ではTIもSTも完全なファブレス化することは間違いない。

もはや垂直統合の強みは全くなくなっているのである。物理設計やDFM(design for manufacturing)あるいはDFY(design for yield)はプロセスと深い関係を持つが、それをつなぐ市販のソフトウエアが誰にでも入手可能になり、ファウンドリでも物理設計を取り入れられるようになったからだ。DFMやDFYのソフトやシミュレータを駆使し、プロセスパラメータを把握できる現在、プロセスには差別化要素は少なくなってきたともいえる。だからTSMCに頼めば誰でも40nmのSoCを望めば手に入る。何のためにIDMは存在するのか。投資効率(ROI)の悪いIDMがなぜこれからも生き残れるのか。なぜ自前で40nmプロセスを開発しなければならないのか。これらの疑問にきちんとした答えを今のIDMは出せない。本当に大丈夫か?NECエレ!ルネサス! 世界の半導体ビジネスの流れに乗ろうという、その意識が日本の半導体企業には欠如しているとしか思えない。

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