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最初の商品SiC JFETを使ったEasy1Bパワーモジュール−後編

ドイツのインフィニオン社は、SiCトランジスタの一種であるJFETを2012年はじめには商品化する予定だ。MOSFETとは違い、JFETはSiCのバルクを電流が流れるデバイスであるため表面欠陥の影響を受けない。しかしノーマリオン動作になる。このためpチャンネルMOSFETをソースにつなぐカスコードライト接続により実質的にノーマリオフ動作ができる。後編は電気特性や99%を超すインバータについて述べている。(セミコンポータル)

著者:ドイツ インフィニオンテクノロジーズ(Infineon Technologies)社 Marc Buschkuhle、Daniel Domes

抵抗の低い特性
1200V/30AのSiC JFETモジュールの出力特性を図3に示す。モジュールが順方向であれ、逆方向であれ、ゲート-ソース電圧 VGS = 0V近辺ではJFETは完全にオーミックな特性を示している。JFETを逆導通モードで遮断すると(例えばVGS = -19V)、固有のボディーダイオードに負荷電流が流れる。これは重要な事実である。フリーホィール用のダイオードを使用しなくても済むからだ。この結果、モジュールの面積とコストを増やさなくて済む。


図3 1200V/30AのSiC JFETモジュールの直流抵抗は低い

図3 1200V/30AのSiC JFETモジュールの直流抵抗は低い


もう一つのメリットは、たとえ負荷電流が逆方向に流れても、JFETのチャンネルを使うことである。従来の標準的なダイオードと比べると、オーミック特性が低いことがわかる。

スイッチング損失はもっとも低い
JFETモジュールのスイッチング波形を図4に示す。nチャンネルMOSFETを接続した直接駆動のJFET回路構成と比べ、pチャンネルMOSFETを使った回路構成ではJFETのゲート駆動回路による寄生インダクタンスがなく、その結果ターンオン、ターンオフ応答特性は極めて速い。


図4 直接駆動JFETモジュールのスイッチング波形 測定条件は、Tj = 125℃、VDC = 600V、ID = 30A、RGext = 0である。

図4 直接駆動JFETモジュールのスイッチング波形 測定条件は、Tj = 125℃、VDC = 600V、ID = 30A、RGext = 0である。


このスイッチング波形の図から、ローサイドのJFETとハイサイドのJFETボディーダイオードとの間で転流電流が流れていることがわかる。ターンオン波形のリカバリ電流に関しては、ドレイン-ソース電圧が低下している間、電流だけが変化している。このため、逆リバース電流の主成分はキャパシティブである。JFETのボディーダイオードの転流は、低損失のショットキダイオードと同様な特性を示していると見なせる。


図5 ハーフブリッジJFETモジュールのダイナミックな損失 Tj = 125℃、RGext = 0の条件で測定

図5 ハーフブリッジJFETモジュールのダイナミックな損失 Tj = 125℃、RGext = 0の条件で測定


図5では、直接駆動JFETモジュールのスイッチング損失が低いことを示している。ダイオードのテール電流が見られないことからリカバリ損失も見られない。

効率は99%を超えた
SiC JFETモジュールの持つ損失を減らせる可能性を示すため、22kVAの3相2レベルインバータの全損失を計算してみた。JFETモジュールの比較対象として、1200V/7.5AのSiCショットキバリヤダイオード2個と1200V/25Aの高速HS3-IGBTを選択した。高速HS3-IGBT3を600V、30A、Tj = 125℃の条件でスイッチングさせた時のターンオンおよびターンオフのエネルギーは、916μJ(マイクロジュール)と1480μJだった。これに対してJFETはそれぞれ、490μJと117μJだった。


図6 インバータの全損失(実線)と効率(破線) システムは22kVA、VDC = 600V、Uph = 230V、Iph=31.8A、cosθ = 0.9、Tj = 125℃とした。

図6 インバータの全損失(実線)と効率(破線) システムは22kVA、VDC = 600V、Uph = 230V、Iph=31.8A、cosθ = 0.9、Tj = 125℃とした。


図6に示したように、JFETは優れた特性を持つため、損失はIGBT+SiCショットキの組み合わせと比べ、その35%に減少した。しかも、およそ35kHzのスイッチング周波数までJFETインバータの効率は99%を超えている。

効率の問題とは別に、JFETモジュールはスイッチング周波数を高めたパワーエレクトロニクスの設計に理想的である。コイルやコンデンサなどの受動部品の体積を減らせるため、大電力密度の達成とシステム全体のコストの削減をできるようになる。

まとめ
新しいノーマリオン型SiC JFETベースのEasy1Bブリッジモジュールを提案した。この直接駆動JFET回路構成では、pチャンネルMOSFETを直列接続して利用する。適切なゲート駆動回路を取り付け、直接駆動JFET手法は実用的にはノーマリオフ型デバイスとして取り扱える。JFETモジュールのスイッチング損失が極めて低いため、超低損失のパワーエレクトロニクス設計ができる。高速のIGBT+ショットキダイオードを組み合わせたこれまでの高速のデバイスと比べてもSiCJFETモジュールはインバータ全体の損失を35%に減らすことができる。スイッチング周波数を35kHzまで上げても効率は99%をキープした。

(2011/08/19)

編集室注)
The article is permitted to translate from "1st SiC JFET Easy1B Module" in Bodo's Power Systems published by A Media, along with a permission of Infineon.

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