リモコンの1チップソリューションにもハイテクが満載、シリコンラボの新IC

図1　従来なら数10個の部品が必要だったが、Si4010は外付け部品コンデンサ1個で済む

高周波回路とデジタル回路を1チップに集積することが得意なシリコンラボ社は、高周波（RF）のトランシーバ（送受信）回路とマイコンを1チップにすることで、車庫扉の開閉だけではなく、キーレスエントリ、ビルのセキュリティキー、ビルオートメーション、民生リモコンなど新しい市場を形成できると見ている。しかも安い。1万個購入時に1.40〜1.45ドルだ。さらに開発キットまで揃えているため自分でカスタマイズも簡単にできる。用途はかなり広い(図2)。

図2　広い用途　出典：Silicon Labs

チップには外付けの水晶振動子が必要ないというメリットも大きい。小型になるだけではなくコストも安くできる。発振周波数の温度依存性は、-40℃〜+85℃の温度範囲（工業用）で±250ppm以内、0〜70℃（民生用）だと±150ppmである。内部の発振器はLとCの共振回路で構成、さらに温度補償回路とキャリブレーション回路を集積している。出荷前テストによってキャリブレーションし、周波数の精度（確度）を温度範囲内およびプロセスのバラつき内に収めている、とセミコンポータルの質問に答えている。

外付け部品を徹底的に削減したが、バイパスコンデンサ1個だけは集積していない。コンデンサ容量が10nF程度も必要だったため、シリコンに集積するためには大きくなってしまうのを嫌ったためである。

図3　Si4010の回路ブロック　出典：Silicon Labs

Si4010の回路ブロックは図3に示す。このチップは、コアのライセンス料不要な8051コアをベースにしたマイコンに周辺回路とインタフェースを載せた部分（左側）とRFトランシーバ部分(右)からなる。トランシーバ部分において、XTAL OSCおよびLCOSCとある発振器部分のうち、XTAL OSCはこのチップの発振周波数の安定度最大±250ppm以下よりももっと安定にしたいという用途に対して水晶発振器をオプションで外付けすることも可能だという意味である。局部発振器のLCOSCも同様に同じ周波数安定度を保っている。

マイコン部分には128ビットのAES暗号化処理回路を組み込んでおり、キーレスエントリや車庫扉開閉リモコンが盗難被害にあった場合に備えてセキュリティの暗号化を実装することができる。その暗号化処理のためのAESアクセラレータも集積しており、その処理時間は1ms以内で行える。

RF回路部分には自動チューニング機能が付いている。これは、最適な送信効率と一定の出力パワーを得るためにアンテナの微調整を自動的に行う機能である。ハンドイフェクト（hand effect）と呼ばれる送信出力のブレに対応する。ハンドイフェクトは、人間が手でリモコンを持つ場合に、アンテナのあるリモコン上部を持つとアンテナのインピーダンスが変わり、出力電圧とパワーが変わってしまうという現象だという。自動チューニング機能では、アンテナインピーダンスが変わるとアンテナのチューニングフィードバックループ回路が働き、出力電圧を一定に保とうとする。

このチップはリモコンを応用の対象とするため、消費電力が少ない。電源電圧は1.8〜3.6V、待機電流は10nA（0.01μA）未満と小さく、動作時でもピーク電流は20mA未満しかない。

送信器の変調方式は二つあり、電流の小さいOOK（オンオフキーイング）モードとFSK（周波数シフトキーイング）モードである。ピーク消費電流は+10dBmの送信パワー時で、それぞれ14.2mA、19.8mAである。1日に50回のボタンを押すとして5年間使っても標準ボタン電池CR2032の使用量はOOKモードで52%、FSKモードでも71%という計算になり、実用的としている。