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半導体の製造拠点はアジア太平洋にシフト、だから日本とアジアに注力

Scott Kramer氏、SEMATECHインターナショナルオペレーションズ担当VP

昨年まで450mmウェーハの製造装置・プロセスなど立ち上げに注力してきた米半導体コンソーシアムSEMATECHのISMI責任者のScott Kramer氏が今度は、アジア太平洋地区の責任者に就任した。SEMATECHがアジア太平洋に力を入れる狙いは何か。同氏に聞いた。

図 SEMATECH International Operations担当VP Scott Kramer氏

図 SEMATECH International Operations担当VP Scott Kramer氏


Q1(セミコンポータル): これまでISMI(International SEMATECH Manufacturing Initiative) SEMATECHのリーダーとして、450mmウェーハの立ち上げの先頭を立ってこられましたが、このほどSEMATECHのアジア太平洋地域の責任者に就任されました。その経緯について教えてください。
A1(SEMATECHインターナショナルオペレーションズ担当VP Scott Kramer氏): SEMATECH全体に関してビジネスニーズを内部で議論し、そのニーズのプライオリティ(優先順序)を付けました。その結果、最優先課題はアジア太平洋だろうということになりました。そして、International Operations部門を立ち上げました。SEMATECHはアジアでは、日本のセミコンポータルにオフィスがあり、台湾の新竹にもオフィスがあります。韓国はレップオフィスです。
SEMATECHは半導体の製造をメインテーマとする半導体コンソーシアムです。最近の製造拠点の多くはアジア太平洋にあります。だからISMIの成長とアジア太平洋地区の発展と同期しています。7年前に設立したISMIには日本のパナソニックが最初に参加し、続いてルネサステクノロジ、NECエレクトロニクスが加わりました。アジアではTSMCやサムスンも参加しました。

Q2: 450mmウェーハ普及のための仕事はもうやめてしまうのですか?
A2: いえ、アドバイザとして続けます。ISMIを設立したのも自分ですから、ISMIのコンサルタントとして450mmウェーハ普及のサポートもいたします。

Q3: 今はどこを活動拠点とされていますか?
A3: テキサス州オースチン近郊にある自宅をホームオフィスとして使い、週の50%をここで仕事をし、ニューヨーク州アルバニーで25%、アジア太平洋への出張が25%、という仕事の割合です。

Q4: 東日本大震災によって米国産業界はどのような影響を受けていますか?
A4: 震災はとても悲しい出来事でした。米国大統領は日本とアメリカは対等な立場の同盟国であることを日本の菅総理と話し、すぐさま兵を送り協力しました。しかし、米国のメディアは決して正確に伝えていませんでした。この震災が産業界に及ぼす影響を理解するにはもっと時間がかかると思います。
半導体業界にとって当面の課題はサプライチェーンです。震災後の3月17日に韓国を訪問していましたが、韓国企業はシリコンの供給能力について私に聞いてきました。世界のサプライチェーンの中で日本製品はとても重要な役割を果たしています。複雑な世界のサプライチェーンの中で日本製の部品も材料も重要です。
ウォールストリートジャーナル(WSJ)紙によると、トヨタやフォード、GMなど米国の自動車産業と部品サプライヤとの関係について解説していましたが、その中でサプライヤとしてのルネサスエレクトロニクスの名前が出てきました。一般的な米国人はルネサスの名前を知りませんので、知名度向上にはなったと思います。米国人の間では日本のメーカーとして東芝のブランドは有名ですが、民生機器で知られているだけで、半導体企業の名前などは知りません。インテルだけはパソコンの宣伝を通して知られていますが、TIやフリースケールさえ知られていません。

Q5: 震災後には日本の部品供給が難しくなってきたため、米国は日本をパスしてアジアや中国に直接行くのではないかという心配している経営者もいます。
A5: 米国から見ると日本は、韓国や台湾、中国に近い位置にいます。米国のデバイスメーカーは日本の回復力を高く評価しており、顧客との信頼関係を尊敬しています。日本バイパス論はあまりにも悲観的な見方です。現実には日本の産業ではクルマは強いし、部品も強いです。日本は、顧客との長期的な関係を構築していますので、簡単に別の供給ルートを見つけるのは難しいでしょう。今回の震災からの復興には魔法はありません。地道に顧客との関係に注力するだけです。
私たちは日本の回復力を称賛しています。例えば、日本にはボランティア100万人のネットワークがあり、日ごろから地震や災害にあった時のための訓練を日本では行っているとWSJ紙は報じています。そのおかげで非常に整った仕組みになっています。米国では考えられません。みんなで一緒にこういった訓練はありませんし、呼びかける人もいません。

Q6: 中国にはインテルやSTマイクロエレクトロニクス、ハイニックスなどが進出していますが、SEMATECHとして中国の半導体業界をどのように見ていますか?
A6: 中国は経済がこれからますます発展していく国ですね。中国は技術的な意味では製造するための国という位置付けです。ただし、技術という点では中国の技術が重要かとなると疑問があります。中国へ製造技術を移転するのにはアメリカ国家として制限(編集部注:かつてのココムに代わるワッセナール条約によって先端技術を中国には出荷できない)があります。この制約条件は東欧にもありました。
昨年、中国を訪問して実際に見ましたが、上海の工業団地はとてつもなく広いです。半導体を製造する上でメリットになりますが、工業団地で半導体ビジネスをしている中国人の中には米国で留学して、そこで就職し産業界を経験した経営者がたくさんいました。

Q7: ところで、450mmウェーハのこの1年間の進捗状況について教えてください。
A7: この1年間、ISMIは多くのサプライヤに勇気づけられてきました。1年前はもっとネガティブな考えが強かったと思います。6年前からこの仕事にタッチしてきましたが、450mmへの動きは加速していると思います。2011年に1000枚の単結晶シリコンを購入します。日本からのシリコンです。
このテストウェーハ(編集室注:SEMIで定義しているテストウェーハとは違い、装置評価用のウェーハとISMIでは定義している)を最初のアルファ機としての450mm対応CVD装置やメトロロジー検査装置で評価するために使います。今や450mmのサプライヤとして材料メーカーに加え、装置メーカーも参加したことになります。

Q8: 誰が450mmの研究開発コストを持つのですか?
A8: それが問題の一つです。業界の共通認識となっている研究開発を作り出すための問題点なのです。ただし、研究開発を組織化するためにプロジェクトに関心のある企業と一緒に十分なリソースを使って研究開発組織を作ることになります。
とはいってもコストが膨大にかかるため、バランスが大切でしょう。つまり、デバイスメーカーと装置メーカー、行政府が一体となって研究開発を進めるべきでしょうね。

Q9: これまで450mmウェーハを推進してきたメーカーは、インテル、サムスン、TSMCの3社です。メンバーは増えますか?
A9: このプログラムにこの1年間で3社以上のデバイスメーカーに加わるように薦める計画です。メーカーにとっては財務状況が厳しくなっていますから6ヵ月以上かけて結論を出すのだと思います。
300mmウェーハの最初の製品は1994年でしたが、当時は非常に高価でした。ラーニングカーブによって価格は指数関数的に下がってきました。450mmウェーハはまだ高価ですが、技術的なバリヤーはありません。300mmと同様に時間と共にコストは下がってくるでしょう。450mmウェーハの技術は300mmの技術をベースにします。

Q10: 450mmの量産はいつ頃になりそうですか?
A10: 最初に導入する企業は、ISMIのメンバーでしょう。おそらく2015年ごろに量産されると思います。その目標に向けて着実に進歩しています。
今は世界各地にパイロットラインを持っています。例えば、ニューヨーク州アルバニーでは、ナノスケールエンジニアリング施設に最初の評価用の装置を設置しました。SEMATECHはプロセスのインテグレーションを行いません。また、プラズマCVDの装置は日本にあります。装置メーカーの研究開発施設に置いています。ウェーハ洗浄装置は米国に置いています。
こういった連携では、ISMIがウェーハを購入しバンクに管理しておき、そのウェーハをプラズマCVD処理したい場合は日本で行い、そのチェックも日本でし、洗浄は米国に持ってくる、という訳です。グローバルなパイロットラインが今、構築されているのです。その狙いは、ビル管理コストなどの固定費の削減です。

Q11: 参加メンバーは、製造プロセス関係以外の企業らも募っていますね。昨年はファブレス半導体のクアルコム社がメンバーになりました。他のメンバーはいかがでしょうか?
A11: 台湾のASE社は3次元ICを開発しており、メンバーになるように努力してきましたが、今のところはまだ興味を持っているだけにとどまっています。他のプログラムでは例えばEUVレジスト関係は参加企業がもっと多いです。SEMATECHとしては、もっと広くメンバーを募っていきたいと思っています。

(2011/04/18)
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