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世界半導体販売高、6月は過去最高、前半を最高ペース折り返し

米国Semiconductor Industry Association(SIA)から定例の月次世界半導体販売高の発表が行われ、今回はこの6月、そして今年前半のデータが表わされている。今年に入ってから史上最高を塗り替えるデータが相次いでいるが、6月販売高は業界月次販売高の最高となっており、1月から6月まで、すなわち今年前半の販売高累計も、年間販売高の最高を記録している昨年、2013年の同期に比べて11.1%増と大きく上回っている。全地域、ほとんどすべての製品カテゴリーが前年比で増加する内訳となっている。

≪2014年6月そして前半の世界半導体販売高≫

米国SIAからの発表内容は、次の通りである。

☆☆☆↓↓↓↓↓
○2014年前半、販売高最高ペースで折り返すグローバル半導体業界−すべての地域、ほとんどすべての製品カテゴリーにわたって前年比販売高増加;最も力強い伸びを示すAmericas地域 …8月4日付け SIAプレスリリース

半導体製造&設計の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、2014年第二四半期の世界半導体販売高が$82.7 billionに達して、前四半期比5.4%増、前年同期比10.8%増の飛躍、と発表した。2014年6月のグローバル販売高は$27.57 billionに達し、業界月次販売高の最高を示している。この6月販売高は、前年同月の$24.88 billionより10.8%増、前月の$26.86 billionより2.6%増である。
2014年の前半、1-6月の累計販売高は、半導体売上げの最高を記録した2013年の同期に比べて11.1%上回っている。月次販売高の数値はすべてWSTSのまとめであり、3ヶ月移動平均で表わされている。

「2014年の前半を通して、グローバル半導体市場は一貫して全面的な伸びを示しており、Americas地域が引き続き特に力強さを見せている。」とSemiconductor Industry Association(SIA)のpresident & CEO、Brian Toohey氏は言う。「該業界は史上最高の第二四半期販売高を示し、最新のWorld Semiconductor Trade Statistics(WSTS)販売高予測を上回っている。先を見ると、先週発表された堅調な米国GDP伸長などマクロ経済指標が、2014年後半以降の引き続く伸びの前兆となっている。」

地域別では、前月比でAmericasが4.9%, Asia Pacificが2.1%, Japanが2.1%,およびEuropeが1.9%と、それぞれ増加している。前年同月比は、Americasが12.1%, Europeが12.1%, Asia Pacificが10.5%, およびJapanが8.5%のすべて増加になっている。4つの地域市場がすべて、2014年前半1-6月累計販売高が前年同時点のそれを上回っている。

                                 【3ヶ月移動平均ベース】

市場地域
Jun 2013
May 2014
Jun 2014
前年同月比
前月比
========
Americas
4.76
5.09
5.34
12.1
4.9
Europe
2.84
3.13
3.19
12.1
1.9
Japan
2.72
2.89
2.95
8.5
2.1
Asia Pacific
14.56
15.76
16.09
10.5
2.1
$24.88 B
$26.86 B
$27.57 B
10.8 %
2.6 %

--------------------------------------
市場地域
1- 3月平均
4- 6月平均
change
Americas
5.08
5.34
5.1
Europe
3.08
3.19
3.5
Japan
2.81
2.95
4.9
Asia Pacific
15.18
16.09
6.0
$26.15 B
$27.57 B
5.4 %

--------------------------------------

※6月の世界半導体販売高 地域別内訳および前年比伸び率推移の図、以下参照。
http://www.semiconductors.org/clientuploads/GSR/June%202014%20GSR%20table%20and%20graph%20for%20press%20release.pdf
★★★↑↑↑↑↑

この発表を受けての各紙の反応が、以下の通りである。

◇Chip Sales Tracking Toward Another Record in 2014-Semiconductor Trade Group Says Sales Rose 11% in First Half of Year-SIA: Global chip sales are on a record-year pace (8月4日付け The Wall Street Journal)

◇Global semiconductor industry on pace for record sales through first half of 2014 (8月5日付け ELECTROIQ)

◇Global Chip Sales Hit Record in June (8月6日付け EE Times)

IC Insightsから今年前半の半導体サプライヤランキングが、SIA発表のすぐ後に発表されているが、同様に前年を大きく上回る内容であり、トップ20が次の通り表わされている。

◇MediaTek, AMD, and SK Hynix's 1H14 Sales Surge by ≧20%! -In total, the Top 20 semiconductor suppliers’ 1H14 sales jumped by 10%. (8月6日付け IC Insights)
→今月末に出されるIC InsightsのAugust Update to The 2014 McClean Reportから、2014年第一および第二四半期、すなわち前半の半導体サプライヤランキング・トップ20、下記参照。
http://www.icinsights.com/files/images/bulletin20140806Fig01.png
トップ20の国別(本社立地):米国 9社、日本 3社、欧州 3社、韓国 2社、台湾 2社、シンガポール 1社

米国SIAの発表を毎月本欄で示してきているが、今年前半の"最高"が続く基調をタイトルでふり返ってみると、以下のようになる。

「1月として史上最高の世界半導体販売高、目立つ米国の主導性」

「1月、2月と出だし好調、米国の伸びが目立つ世界半導体販売高」

「史上最高が続く世界半導体販売高、こんどは第一四半期販売高」

「4月も増加基調の世界半導体販売高、2015年へと続く伸びの予測」

「全地域で増加の5月世界半導体販売高、一方、各地域各様の激動」

「世界半導体販売高、6月は過去最高、前半を最高ペース折り返し」


≪市場実態PickUp≫

【中国政府関係】

iPadおよびMacBookなどアップル社の10製品を対象に、中国政府の購買リストから除外する動きが次の通りである。米国情報収集拡大によるセキュリティ懸念の高まりがある。

◇Chinese Government Rejects Apple's iPad -Ten Apple products can no longer be purchased with government funds (8月7日付け EE Times)
→iPadおよびMacBookラインなどAppleの10製品が、中国政府の購買から除外されており、拡大する米国情報収集のリークに引き続いて外国当局の間にアメリカの技術についての不信が深まっていることを反映している旨。

◇China stops purchase of Apple products (8月8日付け EE Times India)
→Bloomberg発。中国が、セキュリティの懸念から7月にリリースした最終政府購買リストから10のApple製品を除いた旨。

一方、中国国内の半導体業界の強化の動きが、中国政府が入って本格的になってきている。

◇中国半導体、脱・輸入頼み、最大手SMIC、スマホ用に先端LSI、開発専業2社統合 (8月8日付け 日経)
→中国の官民が半導体産業の強化に動き始めた旨。最大メーカーの中芯国際集成電路製造(SMIC)はスマートフォン用の先端LSIに参入、国内2、3位のLSI開発専業会社は経営統合する旨。「世界の工場」と呼ばれる中国だが、多様な工業製品の性能を決める半導体は輸入頼み、「半導体途上国」からの脱却に向けて政府は基金設立などで企業を支援する旨。

【サムスンを巡る特許関係】

マイクロソフトがサムスン電子を提訴する動きが見られている。

◇マイクロソフト、サムスン電子に特許訴訟 (8月4日付け 韓国・中央日報)
→マイクロソフトが1日、サムスン電子を相手取り米国の裁判所にアンドロイド関連ロイヤルティ契約違反で提訴、マイクロソフト側は、「2012年にマイクロソフトがノキアを買収することにした後、サムスン電子がマイクロソフトと結んだ特許使用契約は無効だとしてロイヤルティを支払わなかった」と主張した旨。

もう一つ、懸案のサムスンとアップルの長期にわたる特許係争については、米国地域以外は取り下げに向かう動きとなっている。

◇サムスン−アップル、米国除いた地域での特許訴訟取り下げに合意 (8月6日付け 韓国・中央日報)
→サムスン電子発。サムスン電子とアップルは米国を除いた地域で進行中の特許関連訴訟を撤回することで合意した旨。しかし今回の合意は両社間の特許ライセンス協議に関連するものではなく、米国での特許訴訟は進行される予定の旨。両社は米国以外にも韓国、て日本、ドイツ、オランダ、イタリア、フランス、英国、豪州、スペインの9カ国で訴訟が進行中だった旨。

◇サムスンとアップル、米以外で特許訴訟取り下げへ (8月6日付け 日経 電子版)
→韓国サムスン電子が6日、米アップルとの特許訴訟を米国以外の地域では取り下げることでアップルと合意したと発表、取り下げの条件は明らかにしていない旨。2011年以来、スマートフォン関連特許を巡り日米韓など10カ国で50件以上にのぼる訴訟を繰り広げてきたが、一連の主要な訴訟で取り下げるのは初めての旨。

【Flash Memory Summit】

Flash Memory Summit(8月5-7日:SANTA CLARA, Calif.)が開催され、新技術とともに今回は、アップル社創設メンバーの1人、Steve Wozniak氏の登場が注目を浴びるなど、以下勝手ながらの目についた抽出である。

◇Superfast solid state drive unveiled-HGST demos a speedy SSD with phase-change memories (8月4日付け ZDNet)
→Western Digitalの子会社、HGSTが、phase-changeメモリデバイスを取り入れたsolid-state drive(SSD)を披露、queued環境で512バイトごと3 million random read IOs/秒およびnon-queued環境で1.5μ秒のrandom read access latencyが得られる旨。同社は、University of California, San Diegoと協力、該superfast SSD向けの通信プロトコルを開発の旨。

◇Samsung Tips 3-Bit Vertical NAND-Korean giant starts smart storage initiative(8月5日付け EE Times)
→Samsungのmemory lab(San Jose)、head、Bob Brennan氏基調講演。
Samsungは、1ヶ月以内に32層および 3ビット/セルの新しい128-Gbit V-NAND半導体を用いるsolid-state drives(SSDs)の出荷を始める可能性、planar NANDのSSDsより2倍のcapacity、40%少ない電力が得られる旨。

◇Why Wozniak Is Now the Front Man for Solid-State Storage -The Woz explains why flash-based SSDs are winning (8月6日付け eWeek)
→Apple co-founderでSanDiskの子会社、Fusion-ioのchief scientistを務めるSteve Wozniak氏。NANDフラッシュが現在首位のメモリ製品であり、phase-change memory, magnetoresistanceなどたくさんの競合の話はあるが、まだ及ぶものはない旨。

◇Woz Riffs on Watches, Engineering -Why nixie tubes trump Galaxy Gear (8月7日付け EE Times)
→Flash Memory Summitでのon-stageインタビューに駆けつけたApple当初パソコンの設計者、Steve Wozniak氏。自分のnixie tube watchを披露、Samsung Galaxy Gear smartwatchは認めない旨。

全体的なハイライトをまとめたものである。

◇9 Peaks From the Flash Summit (8月8日付け EE Times)
→今回のハイライト9項目:
 Solid state drives become compute nodes
 Invisible V-NAND is everywhere
 Looking beyond NAND, Part 1 …HGST
 Looking beyond NAND, Part 2 …Everspin
 DRAM battle shifts into fourth gear, Part 1 …Diablo Technologies
 DRAM battle shifts into fourth gear, Part 2 …Agiga Tech
 The need for speed and density …Novachips Co.(韓国)
 Interfaces and anomalies
 The Woz on memories 

【中国勢の台頭】

まずは、ICサプライヤの中国勢であるが、10社以上がTSMCに28-nm半導体を発注する状況が見られている。

◇China-based IC design houses ramping 28nm chip orders at TSMC-Sources: Chinese IC design firms place more TSMC 28nm orders (8月4日付け DIGITIMES)
→業界筋発。中国のIC design housesおよびIC設計サービスメーカー10社以上が、TSMCに28-nm半導体を発注、中国のICサプライヤの競争力の強まりを示している旨。HiSilicon Technologies, Spreadtrum Communications, Rockchip Electronics, Allwinner Technology、RDA MicroelectronicsおよびDatangなどの顔ぶれの旨。

中国のスマホ市場においても、この第二四半期台数ランキングで、サムスンが首位の座を中国のXiaomiに明け渡すとともに、3位から5位も中国勢でサムスンにすぐ迫る勢いを示している。

◇サムスン、中国のスマホ市場で1位の座明け渡す (8月6日付け 韓国・中央日報)
→市場調査会社のキャナリス、5日発。サムスン電子は第2四半期に中国で1322万台のスマートフォンを売り、1499万台を売った中国企業の小米(Xiaomi)に逆転された旨。サムスン電子の中国市場でのシェアも第1四半期の18.3%から第2四半期には12.2%に落ち込んだ旨。これに対し小米のシェアは10.7%から13.8%に上昇、3〜5位を占めた中国企業のレノボ(12.0%)、宇竜(Yulong)(11.7%)、華為(Huawei)(10.9%)もサムスン電子のすぐ下まで迫っている旨。

【「iPhone 6」】

アップル社の次期スマートフォン「iPhone 6」の発表が来る9月9日に行われるという見方が、米紙などで報じられている。さらに大きな画面とのこと、9月19日発売の見通しとなっている。

◇Apple iPhone 6 Expected Sept. 9 (8月6日付け EE Times)

◇新型iPhone、9月9日発表の見方、米報道相次ぐ(8月6日付け 日経 電子版)
→米アップルが開発中のスマートフォン「iPhone」の次期モデルが9月に発売になるとの見方が強まっている旨。米著名ネットメディアや米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版などが報じた旨。次期モデルは従来より画面が大きくなるといい、9月9日発表、19日発売の見通しの旨。


≪グローバル雑学王−318≫

2001年のアメリカ同時多発テロ事件を受けて、ブッシュ政権、そして続くオバマ政権が行った対テロ逆襲を、

 『国際メディア情報戦』
  (高木  徹 著:講談社現代新書 2247) …2014年1月20日 第1刷発行

より、つぶさに生々しく見ていく。ブッシュ政権では特に成果がなかったのに対して、オバマ政権は厳しく冷徹に対応、他国のパキスタンに特殊部隊SEALsが乗り込んで2011年5月にビンラディンを殺害している。この間のPR戦略、作戦の推移は、日々目にするオバマ大統領や広報官の記者会見でも納得するところがある。ビンラディンを追いつめて作戦を決行するまでを迫真的に描いた映画「ゼロ・ダーク・サーティ」は、一部で「アメリカ版忠臣蔵」と評されているとのこと。真っ暗な屋敷に侵入し、ビンラディンを探し出して問答無用で射殺する様は、確かに赤穂浪士の討入りを想起させると表わされている。


第4章 アメリカの逆襲 −対テロ戦争

1 ブッシュ政権に呼ばれた「広告界の女王」

□思い切った人材抜擢
・9・11が起きてから7年以上にわたったブッシュ政権の対アルカイダ情報戦
 →一言で言えば、失敗の連続
・2001年10月、「広告界の女王」、大手広告代理店オグリビー社の元CEO、シャーロット・ピアーズ氏を国務次官に招へい
 →まず取り組んだのが、アメリカの美点をイスラム社会に売り込む「CM」作り
 →アメリカ社会で成功したアラブ系のイスラム教徒、アルジェリア生まれの国立衛生研究所の所長に取材
 →アメリカは「キリスト教徒だけの国ではない」というアピール
・しかし、わずか1年半後、批判を受けての辞任という形で無残な結末に
・そのほかにもこの時期のブッシュ政権、下記などいずれも目立った成果なし
 …アラブ社会に向けて放送を開始
 …国務省に特別チームを編成

□PR戦略の限界
・ピアーズ女史が国務次官を辞任した翌年の2004年、(著者が、)メイン州の別荘を訪ねてインタビュー
 →女史「ビンラディンの周囲には、とても有能でメディアに詳しいスタッフ。歪曲されたメッセージを中東全体に広めているのに、打倒する力が私たちには足りなかった。…とても残念。」
・大量破壊兵器疑惑を口実にイラクに攻め込むなど、ブッシュ政権の政策そのものが、
 →「アメリカはイスラム教徒を殺し続けている」というビンラディンのメッセージをアメリカ自ら実証するようなもの
・国家が情報戦を戦うなら、まずその政策や行動が問われるのは当然のこと

□PRのエキスパートを登用する
・ブッシュ政権はイラク戦争のとき、トリー・クラークという女性を報道官兼広報担当国防次官補という国防総省の重要ポストに起用
 →大手PR会社、ヒル&ノールトンのワシントン支社長だった人物
 →記者会見の仕切り方などを知り尽くすエキスパート中のエキスパート
・例えば以下の手法:
 →会見場の背景にスクリーンを設える
 →戦況を伝える制服組のスポークスマンに、ブルックス准将というハンサムな黒人の軍人を起用

□日本での試み
・情報発信に民間の経験が深いPR専門家を招き入れるのは、極めて合理的
 →アメリカの政権での人事のダイナミズムは、日本が到底真似できないところ
・日本の土壌には本来の「PR」がまだ根付いていないように思われる

2 ビンラディンのカリスマを破壊する

□対アルカイダの両面作戦
・2008年、バラク・オバマがアメリカ初の黒人大統領に
 →前任者、ブッシュ大統領とはまったく違う戦略を実行
・国際メディア情報戦において厳しい戦略も冷徹に実行
 →無人機の攻撃によって殺害された例。わずか16才の息子までも。
  …『ターゲット・キリング』(アメリカ国外で、テロリストなどある特定の個人を狙ってその殺害を行うこと)
・ソフトなPR戦略を展開する一方、冷酷非情の極限とも言えるような手を打つ両面作戦

□ビンラディン殺害時のPR作戦
・2011年5月1日、SEALs(SEA[海]AIR[空]LAND[陸]より命名)によるビンラディン殺害
 →パキスタンという他国、首都イスラマバードから50kmの「市街地」にて
 →ビンラディンはもはや行動の自由をなくしており、隠れ家から何年も一歩も出ることができず
・情報の発信を元から断とうと作戦を実行

□シチュエーションルームの写真を公開
・作戦の直後、ホワイトハウスの「シチュエーションルーム」で、作戦の現場から送られる生中継映像を見守る閣僚たちの写真を公開
 →かたずをのむように口に手をあてているクリントン国務長官
 →作戦決行中の極限の緊張感を国民と共有し、共感を得ようという作戦
 →ホワイトハウスのメディア対策担当者が、「緊張の瞬間」を演出するために選んだと考えるのが当然
・オバマ政権は歴代の政権と比べてこうした写真の効果を格段に重要視
 →ジャーナリズムの側からは決して歓迎できないこと
  →2013年11月、数多くのメディアが共同で政権に抗議、各メディアのカメラマンもホワイトハウスに入れるよう要求する事態に

□証拠資料を選んで発表
・2011年5月のビンラディンの殺害作戦
 →隠れ家から押収した証拠資料の発表の仕方と選び方も極めて戦略的
 →代表的なのは、PCの中からアメリカの鉄道を狙う大規模テロの計画を示す証拠
・他国に乗り込んで裁判もせず即座に殺してしまうというやり方を正当化
 →「次の9・11を防ぐには、こうするしかなかった」
・オバマ政権が実行した情報戦
 →オサマ・ビンラディンという名前が持っていた巨大なカリスマを完膚なきまでに破壊しようという狙い

□「しょぼくれた老人」姿を公開
・急襲からわずか6日後、隠れ家の中にいたビンラディンの「動画」を発表
 →しょぼくれた老人としか
 →オサマ・ビンラディンの特徴の1つは、テレビに出るのが大好きだということ
 →「偶像崇拝の禁止」の徹底を主張するイスラム過激派として、考え方によっては危険なこと
 →唯一絶対の存在であるアラーの神以外のものを崇拝することにつながる
・ビンラディンのかつての盟友、タリバンの首領、オマル師との比較
 →オマル師は自らの写真さえ撮影させることを許さない
・あまりに対照的なビンラディンのみすぼらしい姿を選んで公開
 →オバマ政権がその映像的カリスマ性を破壊しようと狙ったものと見て間違いない

□「殉教者化」を防ぐ
・さらにショッキングな情報
 →ビンラディンの隠れ家から、大量のポルノビデオ、つまりAVが発見された
 →イスラム世界には、その落差はあまりに決定的
・オバマ政権は、ビンラディンのカリスマ崩壊という目的に
 →情報戦を展開、それに成功

□終わらない情報戦
・オバマ政権は、ビンラディンの「後継者」が現れることを絶対許さないという姿勢
 →ビンラディンの次のカリスマ、イエメン系のアメリカ人、アンワル・アウラキとその16才の息子の殺害の例
・オバマ政権は、アルカイダのメッセージを世界に広げようとする国際情報戦の能力の高い人物は殺害することで物理的に除去、しかもその「殉教者化」を防ぐ情報戦も実施するという政策

3 物語としてのビンラディン殺害

□アメリカ人にとってのビンラディン
・アメリカ人の大半にとっては、ビンラディンとは絶対悪であり、敵
 →オバマ大統領の再選を決定づけた大偉業という受け取り
・アフガニスタンへのアメリカ軍派遣も責める人は少ない
 →アルカイダを追いつめ、10年を経てついにビンラディン殺害に至ったことが何にも代えがたい成果

□「ゼロ・ダーク・サーティ」のリアリティ
・映画「ゼロ・ダーク・サーティ」
 →ビンラディンの所在をCIAが突き止めていった過程と、最後の攻撃という「史実」を描いた
 →最初の2時間は、「冒険」がビンラディンの居場所探しであるというだけ、いつもの定番ハリウッド映画
 →一人の若い女性分析官が「主人公」
 →ところが、最後の30分は、特殊部隊SEALsの隊員たちによる作戦遂行そのものを真に迫って描写、すごいリアリティ

□アメリカの信じたいストーリー
・「ゼロ・ダーク・サーティ」の中、ビンラディンは最後までテロの実質的な首謀者であり続けたというイメージ
 →アメリカのハリウッド映画が描く以上、ビンラディンが最後まで真の脅威だったというメッセージ
 →アメリカ人の大半、アメリカ社会そのものが今も信じていること
・ハリウッド映画を通して伝えられ、アカデミー賞にノミネート、全世界で観られることに

□「情報と世論の潮流」という怪物
・この映画で、主人公の女性CIA分析官を現地に送り込んだ彼女の上司は、敬虔なイスラム教徒という設定
 →CIA幹部の特異なキャラクター設定は、アメリカが対ビンラディンの情報戦とぴたりと符合
 →アメリカのビンラディンとの戦いは宗教対立ではない。単なるテロリスト撲滅の戦いとして、「テロとの戦い」を正当化
・メガメディアと、それを消費する人々との絡み合いの中から、ビンラディンに対するひとつの世論が巨大な潮流にように生まれてくる
 →情報化が極限まで進んだ現代における民主主義の実態
・制作陣は、「ビンラディン殺害は、イスラム教徒も参加して行われたのだ」と示す必要に駆られたもの、と(著者は)推測

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