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アナログ一筋26年、差別化商品で高収益を謳歌するリニアテクノロジー

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Lothar Maier、米Linear Technology社 CEO

昨年、米ビジネスウィーク誌が高収益のハイテク企業のトップテンを発表したが、売り上げに対する利益(経常利益)の割合、利益率が40%を超え、トップ5社にランキングされたリニアテクノロジー。その下にマイクロソフトやヤフーなどがランクされていた。リニアテクノロジーは2007年度売り上げがほぼ横ばいと伸びなかったのにもかかわらず、利益率はきっちり守っている。常に40%前後の純利益率であり40-50%の経常利益率を保持する。その秘密は何か。他社との違いは何か。ほかの半導体ビジネスモデルとは何が違うのか。ローサー・マイヤーCEOに聞いた。

Lothar Maier、米Linear Technology社 CEO


Q(セミコンポータル編集長 津田建二): 2007年6月に終了した御社の2007年度の売り上げ、利益などの業績を挙げてください。
A(リニアテクノロジー社CEOローサー・マイヤー氏):2007年度は10億8000万ドル、2006年度は10億9000万ドルでしたから、ほぼ横ばいということになります。利益率は毎年40~50%を維持していますので、計算してみて下さい。利益率という点では、当社は極めて健全な企業でして、ビジネスウィーク誌でも取り上げられましたし、市場調査会社のスタンダード&プアーズ(S&P)のランキングで高収益企業トップ500ランキングの中のトップ50社中47位にランクインされていることが発表されました。トップ50に入っている半導体企業はわが社だけです。
 2007年の売り上げがフラットだったのは、わが社の得意な産業用の分野がフラットだったからで、コンペティタと比べても差はありません。ここ数年、民生の成長率と比べると産業用はやや低い様子が見られました。

Q:08年の目標はいくつですか。
A:商法上は将来の予定について述べることは許されませんが、毎年の目標は15~20%成長することです。かつては30%を超える成長を遂げた年もありました。成長するために必要なエンジニアを増やしたり、セールスをサポートするためのインフラストラクチャを整えたりしていきます。さらに、製品の見直しも必要です。
 製品開発への投資は市場に左右されることなく、常に行います。今は売り上げの16~17%を投資しています。この結果、デザインセンターをこの2年間で世界に3カ所設けました。ドイツのミュンヘンとアリゾナ州フェニックス、テキサス州ダラスです。これにより世界中で全12カ所にデザインセンターを設けたことになります。

Q:なぜ、それらの地にデザインセンターを設けたのですか。
A:アナログ市場のある場所に優秀なエンジニアはいます。ですからそこにデザインセンターを開き、エンジニアを雇います。
 もう一つ、大学とタイアップしてエンジニアをリクルートします。インターン制度を設け、将来のアナログエンジニアを望む学生を3ヵ月間リニアテクノロジー社で研修させ、その後大学へ戻します。例えば、アリゾナ州フェニックスのデザインセンターとアリゾナ大学とはインターン制度を設けています。
 一般に、大学の電子工学を卒業してからアナログエンジニアになるまで5年はかかります。さらに毎日アナログの経験を積み、25年あるいは30年のベテランエンジニアと議論を通して教えてもらうことも大事です。
 日本ではデジタルに集中していた傾向があります。日本の大手企業は社内でアナログのエンジニアを養成しますが、彼らは大企業の中にいて表には出てきませんので見つけることは困難です。
 
Q:よく聞かれる質問かもしれませんが、他のアナログ半導体メーカーと比べて、純利益率はほぼ40%前後を保っています。いったいその秘密は何ですか。
A(マイヤー氏):ただ単にいろいろな良いことをやっているだけなのですが。ただ、わが社には(他の米国半導体企業とは違って)マーケティング担当者はいません。数100人のエンジニアが直接、世界中の顧客のもとを訪ね、顧客が何を要求しているのかを聞きだします。その情報をもとに新製品を設計します。エンジニアは製品の品質や信頼性レベルもよく知っています。顧客からの問い合わせにエンジニアは何でも答えられます。その結果、企業の評判が良くなります。品質や信頼性は企業文化の一部です。製品の信頼性や品質が財務に反映されるのです。その後、セールスマンが製品を売りに行ってもすでに品質レベルを知っているので売りやすくなります。
 品質が高いのは、設計から製造、組み立てまでほとんど自社で賄っているからです。ファウンドリや外部利用はほとんどありません。サプライチェーンも含めてすべて自社でコントロールしています。
 さらに、リードタイムが他社よりもずっと短く4~6週間しかありません。どのような市場の状況になろうともこのリードタイムを守ります。すなわち、品質が優れ、デリバリーも優れているのが特徴です。
 しかもリニアは高性能製品にフォーカスしています。大量生産のコモディティ製品は作りません。例えば、わずか1.5cm角のパッケージに12Aもの電流を扱えるDC-DCコンバータを搭載したマイクロモジュールを出荷していますが、この製品は顧客満足度が高いのです。アナログの専門性が要らない、完全な電源ソリューションとなっている、電源の最適化がなされている、というようなユーザーメリットがあります。

Q:日本は地震大国で、中越地震が起きた時に自動車メーカーに納めていた機械部品の生産が止まり、ジャストインタイムのデリバリーを求めてきた自動車メーカーのラインが止まりました。機会損失は莫大です。リニアテクノロジーはリスクマネジメントをどのようにしていますか。
A:わが社は6週間の納期をセールスポイントの一つとしてきたことはこれまで述べてきたとおりですが、それを実現しているカギが、リスクマネジメントです。二つの工場で製品の95%は自社で作っています。カリフォルニア州ミルピタスとワシントン州カマスです。ウェーハ製造という点からは2工場での製造はリダンダンシー(冗長)です。一つの工場で作った製品をもう一つの工場でも作り、リダンダンシーを保ちます。
 ウェーハプロセスが終了するとチップはダイバンクへ行きます。電気的テストに合格した裸のチップ(ダイ)を在庫として持っておきます。全部で数億個にも上るこのチップを世界各地に分散して持っているダイバンクで保管します。顧客から要求があると、このダイバンクからチップをアセンブリ、テストして出荷します。ウェーハから作るとなるとリードタイムは何カ月にも及びますが、シリコンチップを組み立ててテストするだけですので、4~6週間で納入できるというわけです。さらに、その組み立ても80%はマレーシア工場で行い、その他の20%をいくつかのサブアセンブリで行います。サブアセンブリはリニアがあらかじめ認定した工場です。このようにして、アセンブリも冗長性を持つのでリスクを回避できます。
 テストはシンガポール工場で行い、そこから出荷しますが、カリフォルニアの工場でもテストを行い、出荷します。ここでもテストとロジスティックスのリダンダンシーを行っているわけです。

Q:今後の市況をどう見ていますか?
A:これから先をよく見ると、WSTS(世界半導体市場統計))の予測ではアナログは現在の360億ドル〜370億ドルから2010年には450億ドルへとの成長が予測されています。アナログ市場は民生や携帯電話市場よりも高い伸びです。自動車用は2010年までに50%以上成長するとみられています。
 リニアテクノロジーの自動車向け製品は数年前まで3~4%しかありませんでしたが、2007年には8%に押しあがり、2007年の9月には10%に達しました。自動車のエレクトロニクス化はこれからもますます進み、ハイブリッドカーや燃料電池車など、将来方向もエレクトロニクスから切り離せません。この中でアナログ技術の採用は始まったばかりです。バッテリマネジメントやコンプレッサ制御、パワーステアリング制御など、アナログが必要とされる分野はいろいろあります。
 市場として伸びている分野はデータコンバータです。高速のAD/DAコンバータは2006年から2010年までの伸びは50%と予測されています。医用機器、産業、通信基地局などへの応用です。これまでは大きな体積の装置が多かったのですが、最近では小型軽量のポータブルになってきています。このために低消費電力、高性能のAD/DAコンバータが必要です。

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