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車載半導体不足にTSMCやUMCは対応できるか

車載半導体不足が続いている。日米欧の政府が台湾のTSMCやUMCに増産を要請するという異常事態になってきた。日本経済新聞はこの問題を追い続けているが未だに全貌がよく見えない。ただ、取材と併せていくつかの事実を積み上げていけば、少しずつ様子がわかってきた。解決にはクルマメーカーの戦略転換が迫られるだろう。

日欧米の政府が台湾当局(注1)に台湾のファウンドリに車載用半導体の増産を要請したと伝えられており、台湾当局はTSMCやUMCと話し合いの場を持ったと海外メディアは伝えている。車載半導体の不足によってクルマメーカーには生産停止を余儀なくされている所がある。車載半導体は今、取り合いになっている状態だと言える。

上の事実において、各国政府を動かしたのは誰か、を考えると、クルマメーカーに間違いない。半導体メーカーの声で政府は動かないが、クルマメーカーが声を上げれば(陳情すれば)政府が動くということだ。もっとも日本の製造業はその頂点にクルマメーカーがあるため、クルマメーカーの影響力は極めて強い。

台湾当局の要請に対してTSMCはいち早く声明を出した。1月29日の日本経済新聞がその声明を紹介している。声明の中で「車産業に与える影響を軽減することが、当社の優先事項だ。車用のサプライチェーン(供給網)は非常に複雑であるため、顧客と協力し、要求を確認しながら生産を加速する」と述べており、検討することを述べてはいるが、あくまでも「できる限り対処する」という姿勢と見てよいだろう。28日の日経では「TSMCの対応は一見丁寧だが、関係者は当局の要求を事実上全てはねつけたと明かす。そんな態度を取れるのも、絶大な力があるからにほかならない」と述べている。

加えて、1月14日に開かれたTSMCの決算報告書からもその様子がうかがえる。2020年第4四半期における製品の売り上げ内訳をみると、5nmプロセスが20%、7nmが29%、16nmが13%となっており、5〜7nmプロセスが全売上額の49%も占めている。ウェーハ投入量は1割程度しかないのにもかかわらずだ。つまり他のプロセスは安いが、5〜7nmプロセスは高い価格で提供できている。ここにTSMCが営業利益率43.5%という絶好調な理由がある。これに対して車載半導体は旺盛な需要を受けて、第4四半期は前四半期と比べ27%増と急激に増産しているものの、全売上額の3%しかない(図1)。


図1 TSMCが2020年第4四半期に製造した製品分野 出典:TSMC決算報告pdf

図1 TSMCが2020年第4四半期に製造した製品分野 出典:TSMC決算報告pdf


しかも、車載半導体は低価格で高品質・高信頼性が要求されるため、スマートフォン向けの半導体を振り向ければよいという訳ではない。そもそも仕様が全く違う。品質と信頼性も全く違う。微細加工技術も違う。簡単には振り向けられるわけではない。TSMCと違って7nmという微細なプロセスを持たないUMCでさえ、「できるだけ協力するが、自動車向けの供給だけを優先するのは無理だ」(1月28日の日経)と述べている。

車載向け半導体には大きく分けて、インフォテイメントやADASなど情報系と、「走る、停まる、曲がる」というクルマの基本機能を受け持つ制御系がある。情報系にはSoCやそれを動かすパワーマネジメントICなどがある一方で、制御系ではアクチュエータのパワー半導体やそのドライバIC、センサ、アナログ系、マイコンなどの半導体がある。TSMCが微細化技術で作るのはSoCであり、それ以外の半導体は微細化プロセスを必要としない半導体メーカーが作る。

クルマ用半導体ICはディストリビュータの間で取り合いになっている。半導体ビジネスの世界では、供給不足になると、ディストリビュータは二重、三重に発注することが常態化している。2017〜18年のメモリバブルの時も同様なことが起きた。このため、現時点で半導体の供給を心配していない所は、ICの在庫があり、クルマメーカーに供給できるということになる。逆に不足して減産している所は、余分な発注をしていないといえる。

一方、半導体メーカーの中で、ルネサスはTSMCに委託していた製品を自社生産に切り替える、と29日の日経が伝えていたが、事実ではなさそうだ。筆者が確認したところによると、ルネサスはもともと40nm製品を自社生産しており、TSMCには28nmや16nmの車載向けSoCを生産依頼していた。40nm製品の自社生産もTSMCでの生産も従来通り続けるとしている。ただし、ディストリビュータには二重、三重の発注をやめてほしいと嘆願しているという。

前にも述べたが、クルマ用半導体の品不足が解消されるのは半年後が妥当だろう。クルマ向け半導体はクルマ用の機械部品とは違ってすぐには作れない。最低でも3ヵ月はかかる。その後のパッケージやテスト、品質保証などを含めると4カ月以上はかかる。特急ラインを作るとなるとプレミアム価格を上乗せしなくてはならないが、低価格で高品質を要求するクルマメーカーが価格を上乗せするとは想像できない。

そもそも、クルマメーカーはこれまでジャストインタイムで生産してきた。いわば在庫を持たない生産方式だ。そのためにティア1、2サプライヤーが在庫を持ってきた。このビジネスモデルを変えない限り、車載半導体不足に対応できない。すぐには作れないという半導体産業の特性を、クルマメーカーが認識する必要に迫られている。

注1: 国内メディアは台湾政府という言い方を認められていない。日本国が台湾を中華民国と認めていないためだ。日本には中華民国の大使館さえ存在しない(台湾貿易センターが通商関係の大使館的な役割を担っているが)。しかし日欧米とも経済的には台湾企業と取引は多い。ここでは政治的に配慮して、「台湾当局」を使う。

(2020/02/01)
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