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SiTime、性能も機能も水晶振動子の上を行くMEMS発振器を製品化

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MEMS発振器は、性能も機能も水晶を完全に抜くようになった。米サイタイム(SiTime)社は、1Hzから32.768kHzまでの周波数を選択でき、しかも1.5mm×0.8mmと極めて小さな発振器を製品化した(図1)。プラスチックパッケージのCSPを使えるというメリットも大きい。水晶は高価なキャンかセラミックのパッケージしか使えない。

図1 サイタイムが製品化した小型のMEMS発振器 出典:SiTime

図1 サイタイムが製品化した小型のMEMS発振器 出典:SiTime


深いエッチングやデポジションなど半導体技術を使うMEMSの発振器や振動子は小型化できるというメリットは元々あったが、水晶も半導体加工技術を駆使することで、同様に小型にしてきた。このためMEMSデバイスはなかなか水晶の牙城を崩すことができなかった。しかし、MEMSデバイスは振動子だけではなくCMOS回路も同一のプラスチックパッケージに収めることで、発振器として小型化というメリットが大きい。クロック発生回路を集積している半導体ICチップに振動子からの信号を送る場合、水晶ではチップコンデンサ2個も追加する必要がある。このため、同じ振動子で比較してもMEMSでは85%(1/6〜1/7)小さな面積になる。1.5mm×0.8mmという大きさは水晶では実現できていない。

MEMSのタイミング基準チップを手掛けているサイタイムは、振動子、発振器、クロックジェネレータを合わせたタイミング市場(TAM: total available market)を50億ドルと見ている。それぞれ20億、20億、10億ドルという訳だ。小型化が強く要求されるスマホ市場を狙えるようになってきた。ここでは大量の数を見込める。これまでサイタイムはインフラ系の市場で水晶の置き換えを狙ってきた。温度安定性でようやく水晶に追いつくことができたからだ。

サイタイムのMEMS発振器は、MEMS振動子とCMOS ICの2チップを積層して1.5mm×0.8mmのCSP、並びに2.0mm×1.2mmのSMD(表面実装)パッケージというサイズを実現した。工業規格温度範囲での温度安定性は100ppmと、水晶の160ppmよりも小さいとしている。室温では20ppmと水晶並みのレベル(図2)。SMDパッケージは水晶とピン互換性を持つため、従来の水晶をそのまま置き換えることができる。すでにPCB設計済みの基板でさえ、これだけでもコンデンサ2個分のスペースは要らなくなる。


図2 サイタイムのMEMS振動子を水晶と比較 出典:SiTime

図2 サイタイムのMEMS振動子を水晶と比較 出典:SiTime


サイタイムはもともとロバートボッシュからスピンオフして設立された会社であるため、MEMS技術をボッシュから譲り受けている。MEMS用の深くまっすぐなエッチングにはボッシュプロセスを使っている。

MEMSデバイスをプラスチックパッケージに収容できるようにするため、サイタイムはEpiSealと呼ぶMEMS First技術を開発してきた。この技術を簡単に紹介する(図3)。まずSOI(silicon on insulator)ウェーハを用い、振動子部分となるシリコンを深くエッチングし、掘ったトレンチを酸化膜で満たす(図3の左上)。酸化膜上にポリシリコンを形成し、HF蒸気を導入するための穴をあけ(図3の右上)、HF蒸気を流し、酸化膜をエッチングする(図3の左下)。この後表面の酸化膜上にシリコンを1100℃という高温で堆積すると、HF蒸気用の穴はふさがれ封止される。電気的絶縁用の酸化膜、さらに電極を形成すると出来上がる(図3の右下)。完成ウェーハの厚さは100μm未満だという。


図3 サイタイムのMEMS Firstプロセス 手順は左上、右上、左下、右下という流れ 出典:SiTime

図3 サイタイムのMEMS Firstプロセス 手順は左上、右上、左下、右下という流れ
出典:SiTime(参考資料1


MEMSの可動部分は気密封止されているため、このままトランスファーモールディングしても樹脂が可動部分には入って行かない。トランスファモールド時の約100気圧(1500psi)という圧力にも十分耐える。加えて、ウェーハ完成前に1100℃という高温で気密封止しているため、振動子としての温度安定性は確保されているという。セラミックパッケージのように低温で封止すると、残留ガスや水分を残す恐れがあり、温度安定性に影響を及ぼしてしまう、と見ている。

プラスチックモールドが使えるMEMS回路は、低コスト、という意味で魅力的である。だからと言ってサイタイムはMEMS製品を安売りしない。周波数を可変でき、小型、省部品というメリットがあるため、水晶と同じ価格で販売しても価値が高い。

日本市場に注目するのは、日本では5000〜6000万台のスマホがすでに存在しており、今後の買い替えや新製品需要を狙えるからだ。サイタイム社は株式上場していないため、売上額を公開していないが、売り上げの30%は日本市場からの収入だと同社CEOのRajesh Vashist氏は語る。


参考資料
1. SiTime's MEMS First Process (2009/02/17)

(2013/03/29)

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