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Arm、強相関電子メモリ専門のIPベンダーをスピンオフ

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ArmのメモリIP部門が独立、スピンオフしてCerfe Labsを設立した(参考資料1)。Ce(Correlated Electron)RAMと呼ぶ、強相関電子系の材料を使った不揮発性RAMのメモリIPを提供する。これまでのArmと同様、IPベンダーとしてのビジネスを行う。強相関電子系とは、電子が単独で動作するのではなく、電子同士が相関を保ちながら挙動する材料。

図1 強相関電子材料を使ったメモリダイオードとアクセストランジスタ 出典:Cerfe Labs

図1 強相関電子材料を使ったメモリダイオードとアクセストランジスタ 出典:Cerfe Labs


強相関電子系は、電子軌道の相互作用を利用するという、古くから固体物理学で体系づけられた分野である。クーパー対を利用する高温超電導の材料や、強磁性体、反強磁性体などの多元系材料で見られる。特に遷移金属酸化物や有機分子固体などの材料が研究対象となっている。Armは5年間、このCeRAMについて研究を重ねてきており、このほどCerfe Labsを独立して新たに起業させた。

Cerfe Labsは、米テキサス州オースチンに本社を置き、経営陣も決まっている。共同経営者は4名おり、CEOのEric Hennenhoefer氏、CTOのGeg Yeric氏、OperationsのVPとなるKim Asal氏、研究部門のVPのLucian Shifrer氏の4名がチームを率いる。10月1日現在で、これまでの研究から150件以上の米国特許を取得している。

CeRAMの特長は、低コスト、高速スイッチ、低電圧、低電流、CMOSプロセスでの集積性、ディスターブ耐性に強い、などがある(参考資料2)。低コストとは、CMOSプロセスが終了後、多層配線プロセスの途中に形成できるため。加えて、CMOSは3nmプロセスまで縮小でき、多値化が可能で、極性を持たないためメモリセルを積み重ねる3次元化も可能であるという。

高速スイッチングが可能であるとしても、今の材料で実証実験した限り、読み出し・書き込みとも4ns程度だった。理論的には多くの材料で100fs以下のスイッチング動作ができるという。また原理的には、この電子軌道スイッチは断熱的であるため、温度範囲は広く極低温まで動作できる。高温動作はまだ検討していない。まだ試していないものの原理的には極低温を利用する量子コンピューティングから高温動作の自動車や宇宙航空、パワーエレクトロニクスまで可能性を秘めているとする。

加えて、形状変化やフィラメントなどを利用しないため、0.6Vという低電圧動作が可能で低消費電力が期待できる。

スイッチング特性は、抵抗の変化を利用し、抵抗のチューニングができるというメリットもある。同社によれば、最適な速度とエネルギーで動作させるために、抵抗利用エレメントの高抵抗と低抵抗の状態は、アクセストランジスタに揃える必要はあるが、CeRAMの抵抗値は、CMOSプロセスノードと共にフレキシブルに調整できるという。

逆に抵抗変化型であるゆえに、メモリというデジタル動作だけではなく、ニューラルネットワークのアナログ重みの変化や、RF回路、センサなどにも応用できそうだ。

スイッチングの挙動については次のように説明している(参考資料3)。強相関電子系エレクトロニクスでは、電子は全てスクリーニングされているか、局在化しているか、のいずれかの状態をとる。全ての電子が相関していることは、すなわち同じ挙動をとることである。金属イオンの強いスクリーニングがあれば、電子同士の相互作用は減りバンドギャップがゼロになることからメタルのような挙動をとる。逆に電子が局在化していればクーロン相互作用が強まり、系はポテンシャルUの分だけバンドが開き、絶縁体のような挙動を示す。そこで、スイッチングさせるためには、局在化している状態で電子を注入すると電子はスクリーニング状態になりメタル的になる。スクリーニング状態で正孔を注入すると電子は追い出され、局在化し、絶縁体的になる。

強相関電子系エレクトロニクスは固体物理学を復習して理解を深めることで、さまざまな応用が開けてくる。Armは単なる商用ビジネスだけではなく、研究開発のパートナーも必要だとして、米コロラド大学のCarlos Paz de Araujo教授が先導するSymetrix社とパートナーシップを組んでいる。同教授は長年、強誘電性メモリを手掛けている。


参考資料
1. Cerfe Labs 会社概要
2. Cerfe Labsのテクノロジー
3. A Synaptic Switch for Neuromorphic Compute、DARPAのERIサミットでの発表資料

(2020/10/06)

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