RD20:バイオ燃料、バイオ水素で環境対応していくインド〜TERI
インドの国立研究開発センターであるTERI(The Energy and Resources Institute)は、技術開発とその実現、政策研究などの能力を活かし、独立して多岐に渡る研究機構である。エネルギーや環境、気候変動、持続可能分野に渡って研究し、持続可能な農業や先端バイオ燃料、ナノバイオテクノロジー分野を開発している。バイオの力で水素を作り出したり、肥料の研究を通して、農業をもっと環境に優しくしたりする研究を行ってきた。さらにソーラーや水素などのエネルギー問題にも取り組んでおり、バイオ燃料やバイオ水素などの環境に優しい将来エネルギーに関する研究にも力を入れている。TERI長官(Director General)のVibha Dhawan博士(図1)にRD20におけるTERIの活動について聞いた。
図1 インドTERI(The Energy and Resources Institute)のDirector GeneralであるVibha Dhawan博士
これまでのRD20(参考資料1、2、3)において、インドのTERIは、クリーンエネルギー技術の研究開発に従事してきたことを伝えてきた。技術の初期段階である実験室レベルでの実験や技術開発から、クリーンエネルギーのパイロット生産や大量生産への移行まで含めたバリューチェーン全体までカバーしている。クリーンエネルギー技術分野では、TERIの研究開発活動は、多岐に渡る。産業界や建造物、特にグリーンビルディングの設計でのエネルギー管理や保存をはじめ、ソーラーエネルギーや風力発電、蓄電池技術、送電網、さらにバイオ燃料についても力を入れてきた。
バイオ燃料に注力
バイオ燃料に関しては、実験室レベルの研究開発と大量生産技術について注力している。バイオ燃料とは、再生可能な生物由来の有機性資源(バイオマス)を原料として、発酵や搾油、熱分解などによって作られる燃料のことだ。ガス状あるいは液状の形で使う。ガソリン車では、バイオエタノールを混合し、ディーゼル車では軽油にバイオディーゼルを混合する。バイオ燃料として、サトウキビやトウモロコシなどを原料とする栽培作物系と、生ごみや下水汚泥、家畜糞尿などを原料とする廃棄物系がある。家庭でてんぷらなどの料理で使われた食用油のような廃油を精製する方法もある。
藻類を利用するバイオディーゼルやバイオエタノール、バイオ水素、バイオメタンなどを生産するための研究にも深く携わってきた。バイオ燃料は燃焼の際にCO2(二酸化炭素)を排出するものの、原料作物の成長過程においてCO2を吸収しているために、CO2の排出と吸収で差し引きゼロ、すなわちカーボンニュートラルが成り立つ、とされている。そこで、このバイオ燃料の生産は持続可能な社会へというニーズにもつながる。バイオ燃料を作るためのきれいな水も必要になる。
バイオ水素へと発展
水素の生産に関してTERIでは、原料作物や2次的な作物(微生物や微細藻類など)からバイオ水素を生成するプロセスを開発してきた。有機物は世の中にたくさんあるからバイオ水素の生産性を上げることができるようになると考えた。
バイオ水素は、多くの微生物や、いろいろな種類の穀物の残渣のバイオマスや、液体のバイオマスなどを原料とする。基本的にはどのような有機分子でも、ハイドロカーボン(CHO)から成り立っており、CHOからなるバイオマスからHを取り出すことができる。Dhawan博士のグループでは、極めて効率の高い種族を見つけており、バイオマスが水素を還元すると述べている。
またTERIでは水素の利用に関しても研究しており、例えば製鉄所では水素を還元剤として使うことで、製鉄所の脱炭素技術の可能性を検討している。ただし、経済的な問題があり、そう簡単ではない。
カギは国際協力
クリーンエネルギー問題を解決するために技術は多いが、各国間で技術的な開きもある。「しかし、同じ地球にいる。そして、同じ問題を抱えている。例えば、気候変動は同じ地球のどこにでも起きている。だからこそ、私たちは技術を共有する必要がある」とDhawan博士は提案する。
地球規模の国際協力では、課題は二つあると同博士は言う。一つはテクノロジーであるが、テクノロジーを使って共通問題に対処する。しかし、二つ目の問題として財政上の問題がある。裕福な国とそうではない国との違いだ。テクノロジーをみんなが知ることが重要で、それを発展途上国へ伝えるためにはどうすればよいだろうか。
Dhawan博士は、水素のテクノロジーを移転するための方法を提案する。「すでに多くの国で水素エンジンバスが走っている。また工業的にも水素が使われ始めている。この水素をまだ設置されていない国へ持ってこようとすると、プラグ&プレイのように簡単には実現できない。そこで、外国の大企業から水素バスを導入し、そのまま使うというよりも、それを現地で現地の要望に合うように改良していく」。このようにして、使い方を教え、現地ではテクノロジーを吸収していく。
水素の問題を共有する
ただし、水素には問題が山積している。保存するための技術や輸送の問題、安全性も問題になる。こういった問題をリストアップし、常に一緒に共同で作業し、リスクや使用上の問題などを業界で一緒に見つける。もし故障したり、爆発させたり、大きな事故でも起こしたら、地球規模の損害になるので、安全性は重要な課題となる。
また、水素の生成に水の電気分解を使うとなれば、調和させるためのコストをどうするのか。どうやってコストを下げるのか、コスト削減の技術開発も重要となる。こういった問題の解決法を提供しみんなに知らせ共有することが重要になる。安全性に関してもみんなで議論する。そのための専門技術も必要となる。
今年のRD20ではどんな話題を提供するのか
「私は常に新しい技術(emerging technologies)に注目している。新しい技術は多くの可能性を秘めているからだ。そのための基準が必要となる。例えば水素生成技術では、いろいろな国の機関ともディスカッションし、AISTの近藤道雄氏(参考資料1)とも水素に関して一緒にディスカッションし、バイオ水素関係で共同研究していきたい」と意欲を見せる。
バイオ水素は生物学的法則に基づいて水素を生成する。その生成では、付加価値のあるLCA (ライフサイクル評価) 分析が一つの目安となる。なぜならLCA分析は、多くの新技術においてまだ使えないものを評価するには適しているからだという。
EV(電気自動車)に関しても、完成車はCO2を出さないが、EVを工場で生産する上で消費されるエネルギーがCO2を出している。また、EVを充電する場合でも火力のように化石燃料による電力を使うのならCO2を排出していることになる。だからEVにもLCS分析が必要になるのだ。
もちろん、バイオ燃料などに関してもLCA分析は必要となる。バイオ水素は第2世代、第3世代のバイオ燃料となるだろうが、バイオガスやバイオマス、バイオテクノロジーをどう扱うのかという評価も重要である。
農業の残渣を利用するエネルギー源
最近、よく話をすることだが、送電線のロスやコストなどを考えると、集中型のエネルギー生成(発電)ではなく、村単位での分散型発電で、ここにバイオマスをたくさん使うという考えである。農業の残渣を利用するバイオマスを使うことにより、ゴミや汚染の問題を減らすことができる。
農業の残渣をCNG (Compressed Natural Gas:日本では液化天然ガス)生成に利用するとなると、村単位でのエネルギーが有効だろう。モビリティ分野では、CNG は 乗用車にはすでに使われて浸透している。200-250バール(1バールは約1気圧)で圧縮すると気体の1%に圧縮できる。
CNGはエタノールをベースにしているが、人口密度の多いインドや日本では農業残渣がたくさんできる。バイオガスプラントを利用すると、バイオガスはもっと身近になる。広く普及させるには未だ問題は多いが、食物と同じ生成プロセスでできる。CNGはグリーンであり、オプションの一つになる。バイオ燃料は工業界、特に、鉄鋼業界や、製鉄業界と協力しながらゼロロードマップを描き進めていく。今年のRD20ではこれらの業界と共にバイオ燃料関係にフォーカスしてみたいと期待している。
参考資料
1. 「今年のRD20、『国際連携の具体的テーマを決めたい』」、セミコンポータル、 (2022/06/24)
2. 「RD20:会議から一歩進んでイニシアティブへ〜経済産業省」、セミコンポータル、(2022/08/24)
3. 「RD20:水素の影響を共通評価、国際協力へのカギとなる〜仏CEA-Liten」、セミコンポータル、(2022/08/30)