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今年のRD20、「国際連携の具体的テーマを決めたい」

2019年から始まったRD20(Research and Development 20 for clean energy technologies)は、カーボンニュートラルを達成するための研究開発の国際的な枠組みである。これまでの3回の会議ではまだ参加者が多くなく、もっと世界からの参加を望んでいる。主催する産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センターの近藤道雄氏(図1)にRD20 2022の狙いを聞いた。

産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センターの近藤道雄氏

図1 産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センターの近藤道雄氏


クリーンエネルギーをテーマにする国際会議としてはICEF(Innovation for Cool Earth Forum)などがRD20より以前から開かれていた。しかしICEFは政府レベルの国際会議であり、技術開発に特化しているものではなく、全般的なクリーンエネルギーを議論する場であった。RD20は技術開発をもっと鮮明に打ち出す会議である(図2)。


RD20のこれまでの会議風景 出典:RD20事務局

図2 RD20のこれまでの会議風景 出典:RD20事務局


2019年の第1回RD20にはG20各国の研究機関のリーダーが集まり、クリーンエネルギー開発の方向性を打ち出そうとした。まず、エネルギー・環境分野におけるイノベーションの重要さが認識され、再生可能エネルギーの大量導入に向けた研究開発と、貯蔵を含む柔軟なエネルギーマネジメントシステムの構築の重要性が認識された。各国の状況を「Now and Future」という冊子(図3)にまとめた。


RD20 2021の予稿集「Now & Future 2021」

図3 RD20 2021の予稿集「Now & Future 2021」


RD20のきっかけは、2019年1月に開かれたG20の通称「ダボス会議」で、気候変動を抑えるためのクリーンエネルギーの開発に関する国際会議を行うことを当時の安倍首相が呼びかけたことに発する。国主導の国際会議ではあるが、研究開発を主導する立場の産業技術総合研究所が主催することが決まった。同時期に経済産業省から「革新的環境イノベーション戦略」が発表された。その流れで産総研に「ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)」が設立され、そのセンター長にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が就任した。RD20を主体的に運営するのがこのGZRである。

「具体的な共通テーマを決めたい」

今年のRD20は第4回目となり、「今年はこれまでよりも一歩踏み込んで具体的な方向を定めていきたい」とGZRの近藤道雄氏は述べる。第3回目までのRD20の「Now and Future」では、各国の状況を伝えることに終始してきた。実は技術の方向性を具体的にみんなで決めようというところまでまだ来ていないという。

再生可能エネルギーにはソーラーや風力などに加え、最近注目されているものに水素がある。水素はCO2を出さない。しかし水素を創り出すのに必要なエネルギーの種類やそのコスト、水素ステーションというインフラコストなど問題は山積している。これらの問題を国際的に解決していく必要はある。今年のRD20でのテーマとして水素が決まった訳ではないが、今のところ各国での関心は高い。連携し合えるテーマではあり、昨年共同研究のタスクフォースが昨年から始まった。

国際的に決めるための研究テーマとしては、計測の標準化がある。例えば、ソーラーセルの性能を測定する方法としてすでに標準的な測定法はあるが、各社各国で少しずつ違う。この違いを吸収するような整合性がとれる合意形成が必要になる。加えて、従来のシリコンソーラーセルよりも新しいソーラーセルについての計測の標準化が必要となる。

水素エネルギーに関してもその純度に関する規定はないという。それも応用ごとに決める必要がある。例えば燃料電池車用の純度、電力生成用の水素の純度など応用ごとに規定しなければならない。さらにシステムのライフサイクル評価(Life Cycle Assessment)に関してもどの程度CO2を排出するのかという計算式についても国ごとに異なる部分の整合性を取らなければならない。

産業界からの参加を望む

加えて、会議全体としての共通目標は人材育成だろう。発展途上国の人材や、研究者、ポスドクの方たちのキャリア形成の道筋をつける、日本とアジアの架け橋になれるような人材育成など、国際的な関係にも良い影響を及ぼすような人材育成は重要なテーマとなる。

この会議のもう一つの問題はまだ参加者が少ないこと。それも海外からの研究者が少ないことだ。クリーンエネルギーを実現する会議には海外からの研究者にもたくさん来てほしい、と近藤氏は語る。これまではまだ2割にも満たない。ただし、制約もある。参加機関はG20の20ヵ国から国立研究機関を一つと限定している。例えばドイツならフラウンホッファ国立研究所(Fraunhofer Gesellschaft)だけとしてあり、ドイツにはそれ以外の研究所や大学も多いが、ドイツだけ大勢来るというようになることもまずいという。また米国にはDoE(Department of Energy:エネルギー省)傘下にアルゴンヌやサンディア、オークリッジなどの国立研究所や国立再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory)などがある。

近藤氏は、G20以外のできるだけ多くの研究所や、さまざまな企業からも参加してほしい、と呼び掛けている。企業では、例えば再生可能エネルギー関係の機器やバッテリー、パワーコンディショナー、材料、計測器、化学薬品、部材、電力やエネルギー、石油などさまざまな業界からの参加を望んでいる。さらにエネルギーのデジタル化を見据えてIT企業からの参加も歓迎している。

今後、「カーボンニュートラルを目指すうえで大きな課題として、社会のインフラが変わらなければ目標を達成できないだろう」と近藤氏は見ており、「テクノロジーだけではなく、政策とテクノロジーがうまくかみ合うような仕組みを作ることが重要だろう。それも一国だけではなく、世界中で取り組まなければ実現できない。そのためには政治的なイニシアティブが必要になる」と期待する。

(2022/06/24)
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