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半導体デバイス・回路国際会議に見る日本の劣勢、半導体研究者の奮起を期待

IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits (通称:VLSIシンポジウム)は、日本と米国の学会関係者の尽力で1981 年に始まった国際会議で、いまや、半導体デバイス技術中心のIEDM(International Electron Device Meeting)、半導体回路中心のISSCC(International Solid-State Circuits Conference)と並ぶ世界3大半導体国際会議の一つに成長してきている。IEDMとISSCCは、米国勢が中心になって米国内だけで開催されているのに対して、VLSIシンポジウムは日本(京都)と米国(ハワイ)で毎年交互に開催されている。

この点で、 VLSIシンポジウム委員会委員長の黒田忠広氏(東京大学)は、VLSI Symposiumの「日本主導の最高峰国際会議としての価値」を強調している。1981年当時、「アメリカと日本がVLSI技術開発の2大拠点」(第1回VLSIシンポジウム開催趣意書)だった。いまは、どうだろうか。今回のシンポジウムの地域・国別投稿件数や採択件数については、既に報告されているが(参考資料12)、ここでは見やすい円グラフでご覧いただこう(図1参照)。筆者が計算した各地域・国別の採択率を表1に示す。


VLSI Symposium 2024の地域・国別投稿件数と採択件数 / VLSI Symposium委員会

図1 VLSI Symposium 2024の地域・国別投稿件数と採択件数 出典:VLSI Symposium委員会


地域・国別の投稿件数、採択件数、採択率は、以下のようであった。


表1:VLSI Symposium 2024の地域・国別投稿件数・採択件数・採択率 / VLSI Symposium委員会の資料を基に筆者作成

表1:VLSI Symposium 2024の地域・国別投稿件数・採択件数・採択率(投稿件数順、応募件数9件以下省略) 出典:VLSI Symposium委員会の資料を基に筆者作成


日本勢の採択率はトップだが…

中国、韓国、米州、欧州、台湾の投稿件数が軒並み3桁であるのに対して日本は42件でシンガポール並みであった。日本は、かつてトップ争いしていた米国はもとより、欧州、韓国、台湾、そして急成長してきている中国に差をつけられている。

発表機関別採択件数では、韓Samsungが1位(23件)、韓国の国立理工系大学院大学Korea Advanced Institute of Science and Technology(KAIST)が2位(18件)と韓国は企業も大学も頑張っている。

日本からの発表は、ほんの数大学、民間企業数社に限られてしまっており、投稿件数・採択件数とも前回より減少して「落日の日本」状態である。他国は、折からの半導体ブームに乗って増加傾向にあるというのに。

いつものことではあるが、「日本は採択率ではトップである」ことを日本のプログラム委員会は強調しているが、数も力なりとばかりに、大量に投稿し採択件数が毎年増加し、質がめきめき向上している中国勢を前にして喜んでばかりはいられまい。


ISSCCでも中国・韓国勢が大躍進

今年2月にサンフランシスコで開催されたISSCCでも、VLSIシンポジウムと同様の傾向が見られ、中国や韓国の採択論文数が増加傾向にあるのに、日本勢は長期凋落傾向だ。(図2参照)


2015年から2024年の国別採択論文数の推移 / IEEE ISSCC

図2 ISSCCの地域・国別採択論文数の推移 出典:IEEE ISSCC


日本半導体を復権させるためには…

日本では、TSMCの熊本誘致や新興ラピダスへの政府支援ばかりに目が行きがちであるが、いずれも顧客から製造を引き受ける製造受託業(ファウンドリ)であって、基本的に、新たな回路やデバイスや応用製品を創出する企業ではない。しかし、これらの在日ファウンドリに製造を委託するためのデバイスや回路やシステムのアイデアを日本からどんどん創出するチャンス到来ととらえることもできよう。半導体研究者の奮起を期待したい。

製造はファウンドリに任せるのなら、むしろ国を挙げた半導体企画・設計力および最終製品開発力強化策やそのための専門人材育成・教育に注力する必要があろう。為政者は、今まで冷遇してきた半導体回路・システムやその応用研究に対する研究助成について抜本的に改善すべきだろう。

参考資料
1. 津田 建二、「VLSI Sympo、投稿数・採択数とも最多級、Technologyの採択論文は韓国トップ」、セミコンポータル、(2024/04/26)
2. 服部毅、「VLSIシンポジウムプレビュー」、マイナビニュースTECH+、(2024/05/07)

国際技術ジャーナリスト 服部毅
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