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オランダのDENS、結晶成長をリアルタイムで観察するツール

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オランダと言えば、国営大企業フィリップスがエレクトロニクスをけん引してきた国、というイメージが強い。しかし、そのフィリップスから完全独立して生まれたASMLの方が今や企業規模はフィリップスよりも大きい。このほどナノテク訪問団がやってきた。ナノテクに対する政府の資金は、対GDP比で0.04%と他の国よりも大きい。

図1 ナノテクでベンチャーを生み出したNanoNextNLプロジェクト 出典:NanoNextNL

図1 ナノテクでベンチャーを生み出したNanoNextNLプロジェクト 出典:NanoNextNL


オランダは、NanoNextNLプロジェクトを2011年に立ち上げ、今年終える(図1)。ナノテクを使う10のメインテーマに28プログラムがあり、114機関のパートナーシップを結んできた。エレクトロニクスでは、ムーアの法則の先、ナノ材料、バイオナノ、ナノ製造、センサ&アクチュエータ、リスク分析&技術評価などのテーマがあり、エレクトロニクス以外でも、エネルギーやナノ医療、クリーンな水、食料、というテーマがあった。水や食料はさすが食料王国オランダならではのテーマだ。

オランダにはTNO(応用科学研究機構)という組織が古くからあり、科学技術関係の大学と産業界の間をつなぐという役割を持つ。ナノテク材料製造技術の一つALD(Atomic Layer Deposition)装置やX線分析装置、リアルタイムTEM(透過型電子顕微鏡)、フレキシブルハイブリッドエレクトロニクス、バイオコーティング、ナノインプリント、フォトニクス、有機ELの3次元シミュレータ、単一量子センサ、ナノコーティング、ナノパーティクルコーティングなどを扱う企業やHolst Centre研究所などが今回来日した。

例として、イノベーティブな技術を持つ企業の一つDENS Solutionsを紹介しよう。この会社は、有名理系大学の一つDelft大学からスピンオフして2012年に設立されたベンチャー。リアルタイムで結晶成長や薄膜の成長を観察できるin-situ TEMを観測するための冶具を製造するメーカーだ。導入先の60%は大学、30%が研究所、残りの10%が企業という。TEMそのものは日本電子(JEOL)製を利用する。

DENS社の製品は、薄く削った試料を加熱して微視的に何がどう変わっていくかをリアルタイムで観察するためのツール一式である。金属や合金、セラミックスなどが温度と共に成長していく様を観察する。例えば、二つの材料が合成されていく過程や、微視的構造が温度と共に変化していく、あるいはフェーズが突然の変化を起こす、というような過程をリアルタイムで観察する。これによって温度と共に結晶が安定していく様子や、あるいはその逆に崩れていく様子を観察できる。バイアスをかけることもできる。

同社は4つの製品を開発してきた。加熱用冶具がwildfire、バイアスをかけながらの加熱冶具はlightning、ガスを流しながらの加熱冶具はClimate、液体の観測冶具はOceanというそれぞれの製品を提供する。


図2 加熱過程をリアルタイムで観察するための冶具wildfire

図2 加熱過程をリアルタイムで観察するための冶具wildfire


基本となるwildfireの冶具について紹介する。wildfireの基本構成(図2)は、(1)スタンド台に載せた試料ホルダー、(2)試料ホルダーに載せ試料を直接のせるナノチップ、(3)加熱制御ボックス、そして(4)温度や内部を観察するためのソフトDigiheaterをインストールしたパソコンからなる。試料ホルダーをTEMに入れ、その先に試料を載せ、電子ビームを照射しながらその透過像を見る。試料ホルダーの先端にMEMS技術で形成したナノチップ(図3)と呼ばれる薄い試料台を載せ、バイアスをかけられるような電極を持つ。


図3 小さな試料台ナノチップは数十種類ある

図3 小さな試料台ナノチップは数十種類ある


導入例として、英Cambridge大学がソーラーセル用のペロブスカイト構造の物質が劣化育様子を観察している。Wildwire S3冶具を使い、50℃から200℃に渡り、暗視野TEMで観察している。その結果、ペロブスカイト層が劣化し、小さなPdI2の粒子が形成されていく様子を見ることができた。

(2017/03/24)

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