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フェアチャイルドがSiCバイポーラTrを来年前半発売、IGBT可能性も浮上

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半導体産業の老舗、フェアチャイルドセミコンダクター(Fairchild Semiconductor)がSiCのバイポーラトランジスタを来年前半に製品化する。日本メーカーのMOSFET、ドイツインフィニオンのJFETに替わるSiC第3のトランジスタとしてのバイポーラも登場という位置付けになる。

図1  SiCバイポーラトランジスタ 出典:Fairchild Semiconductor

図1  SiCバイポーラトランジスタ
出典:Fairchild Semiconductor


パワーデバイスにフォーカスしているフェアチャイルドは、2011年4月にスウェーデンにあったSiCトランジスタメーカーTranSic社を買収した。今回のSiCバイポーラトランジスタは、TranSic社の技術をベースに製品化へこぎつけようとしてきたもの。

SiCは、エネルギーバンドギャップがSiの1.1eVと比べ3.2eVと広いため、高温動作に向く。加えて、半導体材料としての絶縁耐圧が高いため、不純物濃度を下げなくても所望の耐圧を得ることができる。熱伝導度も4W/cm・K、とSiより3倍高く、放熱しやすい、という特長もある。

これまで日本では、ロームや三菱電機、サンケン電気、デンソーなどがSiCのMOSFETを開発してきた。しかし、MOSFETは半導体-酸化膜界面を電流が流れるため表面欠陥の影響を受けやすい。このため十分な電流を確保しにくいという欠点がある。そこで、電圧を上げ電流を流すという手法を採るため消費電力が増える傾向がある。

インフィニオンが進めるJFETや、やはりワイドギャップ半導体であるGaNを使ったHEMTは、電流を十分にとるためにはノーマリオン型になってしまう。ゲートにマイナスの電圧をかけなければ電流をオフできない。一つのトランジスタに2電源も必要になる。このためインフィニオンは、入力のゲートをカスコード接続することで、ノーマリオフ特性を持たせることに成功した。

バイポーラ型は、電流を運ぶキャリヤとして電子と正孔の二つを利用するため電流容量がとれオン抵抗を下げることができる。反面、電流をオフする時にベース領域に残っている電子(少数キャリヤ)がなかなか消えないというストレージ時間が生じてしまう。このため高速スイッチングができないはずだった。Siではこの通りだった。この結果、金や重金属をわざとドープして少数キャリヤのライフタイムを短縮することで高速バイポーラトランジスタを設計製造してきた。ところが、SiCでは少数キャリヤの蓄積時間が短いというのである。おそらく、SiCでは結晶欠陥がまだ多いため、生まれながらにライフタイムキラーとして働いているのであろう。フェアチャイルドは、少数キャリヤの注入がSiと比べて本質的に少ないためだと答えている。

同社によると、SiCのバイポーラは単位面積当たりのオン抵抗がJFETやMOSFETよりも低いため、同じ電流容量をとろうとすると、チップ面積は少なくて済む。この結果、寄生容量が低いためスイッチングスピードは速くなる。一方で、ベース抵抗がSiよりも小さいため、充放電に要する時定数が短くなり高速スイッチングが可能になる。

ただし、バイポーラトランジスタは、電圧駆動のJFETやMOSFETとは違い、電流駆動型であるため、電流を流すための入力回路が必要となる。ここで電力を消費する恐れがある。同社は入力ドライバ回路を小さなボードで提供するが、来年下期にはドライバICを、その1年後には第2世代のドライバICを企画している。


図2 バイポーラ(左)、JFET(中)、MOSFET(右)の消費電力比較 出典:Fairchild Semiconductor

図2 バイポーラ(左)、JFET(中)、MOSFET(右)の消費電力比較
出典:Fairchild Semiconductor


同社が5kWの昇圧回路で、JFET、MOSFETと比較したところ(図2)、ターンオン、ターンオフ時間ともバイポーラが有利だったが、入力の駆動電流回路の分が増えている。しかし、その程度はわずかだ。総合的にはバイポーラが有利だというデータである。


図3 予定しているSiC製品 50A品のオン抵抗が17mΩと小さい 出典:Fairchild Semiconductor

図3 予定しているSiC製品 50A品のオン抵抗が17mΩと小さい
出典:Fairchild Semiconductor


同社は、SiCのチップを2種類設計した。1200V/15Aでオン抵抗57mΩの製品と、1200V/50Aでオン抵抗17mΩの製品である。

SiCでバイポーラ動作が可能となり、しかもライフタイムキラーなしでも高速スイッチングができることがわかった。となると、MOSFET技術が確立する時代には、SiCのIGBTができるという可能性は高まってくる。SiCパワーデバイスはこれからが面白くなりそうだ。

(2012/12/12)

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