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効率29%でフレキシブルな太陽電池を米ベンチャーがサンプル出荷、来年量産へ

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プラスチック基板上に作った太陽電池は、フレキシブルで折り曲げ自由なため、電柱の柱に沿って設置したり、自動車の屋根やボンネットの上に設置したりすることができる。反面、光電変換効率が悪く、せいぜい8%程度しか得られなかったため、広い面積に渡って設置しなければ使い物にならなかった。今回、フレキシブルながら効率28.8%という優れモノが登場した。

図1 タブレットサイズのソーラーパネルを持つAlta Devices社CEOのChris Norris氏

図1 タブレットサイズのソーラーパネルを持つAlta Devices社CEOのChris Norris氏


米国西海岸のシリコンバレーにあるアルタデバイス(Alta Devices)社が、プラスチック上にGaAs単結晶膜を形成することで常識を超える効率を実現した。28.8%という効率は、第3者機関である国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が測定・評価した。フレキシブルな試作ソーラーパネルは、タブレットサイズの大きさで10Wの電力を発生する。GaAsのソーラーセルは、セル1個当たりの発生電圧が1.1Vと高いため、取り出せる電力も大きい。極めて実用的なパネルである。

同社はこのソーラーパネルの用途として、モバイル(移動体)市場を想定している。タブレットPCや飛行機、自動車、遠隔地使用などに向けた用途である。タブレットPCにこのソーラーパネルを使えば常に満充電で操作できるようになる。産業用に飛行機の翼に張り付けた無人のソーラープレーンの用途も狙っている。これは偵察飛行機や、長距離に渡るパイプラインや鉄道線路のチェックに使われる飛行機で、米軍は2万機を所有しているという。現在は電池で飛行しているが50分しか持たない。しかし、従来機の翼にこのパネルを張り付けるだけで4時間飛行できるとしている。

自動車の屋根に使えば、エンジンから発電する電気エネルギーを使わなくて済むため、燃費が改善する。250W/m2という発電能力はこれまでとは全く違う用途が開拓できる。クルマ以外の用途では、電力の来ない村や遠隔地では言うまでもなく、電力線を引けない野外でのレクリエーションなどの場面では、テントの面に沿っていつでもどこでも設置できる。


図2 太陽電池セルの配線前から配線後まで ムラのように見えるのはプラスチックが歪んでいるからで、問題はない

図2 太陽電池セルの配線前から配線後まで ムラのように見えるのはプラスチックが歪んでいるからで、問題はない


単結晶GaAsは価格が高くなることがこれまでの常識だった。この低価格化に対しても、これまでの常識を破るGaAs結晶基板を何度も再利用して使える方法を開発することで実現した。Silicon-on-Insulator(SOI)技術で圧倒的に市場をリードするSOITEC社のスマートカット技術と似ている。今回、配線前と配線途中、配線完了の3段階のサンプルを展示した(図2)。

単結晶のGaAsは、次のようにして形成する。MOCVD(有機金属化学的気相成長)法を使って、GaAs結晶ウェーハ基板上に薄いGaAsバッファ層、さらにAlAs層、最後にGaAsフォトダイオード(太陽電池)層をエピタキシャル成長させる。この後、pn接合の太陽電池層となる表面のGaAs層(厚さ1μm)をはがして、厚さ50μmのプラスチックフィルムの上に張り付ける。厚さ1μmのGaAs層をはがすために2番目のAlAs層をエッチングによって除去する。要は、AlAs層を犠牲層として使っている。電極形成してGaAs表面を透明なプラスチックフィルムで包むと完成となる。基板として使ったGaAsウェーハは、再利用できる。

GaAs太陽電池の効率が高いのは、バンドギャップが高く、しかも光の吸収波長が400nm~700nmと可視光をほぼカバーできるためだ。加えて、社長兼CEOのChris Norris氏は、「電子-正孔の再結合も利用するからだ」という。太陽光がpn接合のGaAs層に当たると、電子と正孔が発生し、それぞれを分離して外部へ取り出す。しかし、全ての電子と正孔を取り出せるわけではない。GaAs半導体結晶内部に残った電子と正孔は再び再結合すると、発光してフォトンを出す。このフォトンによって別の電子-正孔が発生するため、それらを分離し外部へ取り出す。再結合過程を経ることによって、残った電子-正孔対を外部へ取り出すことができるという訳だ。

同社は、シリコンバレー内のサンタクララに研究開発設備を持ち、サニーベールにパイロットラインを持つ。2013年の第2四半期までにパイロットラインをフル稼働状態に持っていき、2015年末までに生産能力を2MWに上げていく計画だ。その後、追加の資金調達が実現できると40MWラインへと拡張していきたいとNorris氏はいう。研究開発では、現在のシングル接合をダブル接合にすることで赤外領域の光も取り込めるようにし、効率33%の試作を今年中に達成したいという。その先にトリプル接合で37%まで効率を上げていくとしている。

狙う用途として、軍用は今すぐにでも使える可能性が高く、自動車用は3〜5年後になる、とNorris氏は見る。電力線がないような砂漠やへき地にキャンプを設ける、という軍用に従来の太陽電池が多数使われているため、軍用は実用化が最も早いといえそうだ。

(2012/10/18)

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