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リチウムイオン電池を10倍長持ちさせられる負極材料を英ベンチャーが量産へ

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シリコンという材料を、リチウムイオン電池の負極に採用することで、電流容量を数倍から10倍に上げようという試みが始まっているが、充放電の繰り返しによる電極劣化が著しい。この劣化を克服できる技術を英国nexeon社が開発した。まだ試作レベルながら、サイクル寿命は従来並みを確保、電流容量は業界トップクラスの3.1Ahを軽くクリヤーし、4.1Ahを得ている。

図1 英nexeon社CEOのScott Brown氏

図1 英nexeon社CEOのScott Brown氏


リチウムイオン電池の開発は、半導体の性能開発と比べると遅々として進んでいないように見える。電池の原理となる電気化学反応を利用するため、反応による劣化という問題が付きまとうからだ。リチウムイオン電池は、負極(アノード)のLiイオンが陽極(カソード)側に移動することで電子を放出、電流を外部へ提供するという原理である。電流容量を上げるために負極材料を従来のグラファイト(LiC6)構造から、シリコンアロイに置き換えることで電流容量は格段に上がる。グラファイトは構造を改良することはできない。シリコンだとLiとアロイを作り、その構成比を変えることができる。図2によると、LiイオンリッチのLi15Si4構造にすると、電流容量はLiC6の372mAh/gから3600mAh/gと10倍近く上がる。すなわち電池は10倍長持ちする訳だ。シリコン負極の開発競争は激しく多くのパテントが出願されていると、同社CEOのScott Brown氏はいう。


図2 シリコンを負極に利用すると電流容量は格段に上がる

図2 シリコンを負極に利用すると電流容量は格段に上がる


しかし、電極がすぐ劣化するようでは商用化できない。Liイオンが負極から放出されると(放電)、負極が収縮し構造的に弱くなる。充電する場合にLiイオンがきちんと元通りの位置に収まれば何の問題もないが、実際には結晶原子サイトに最初の通りに入れることは難しい。このため充放電を繰り返すと、電極が劣化してしまう。劣化によってシリコンが電極から離れてしまい電池容量の劣化が起きる。

今回、英国のベンチャー企業のnexeon社は、シリコン材料を使い電流容量を格段に上げながら、負極の劣化を抑えた。負極の電極をあまり傷つけずに負極サイトに収まるように「ハリネズミ」構造にしたのである。シリコンの針状構造の中からLiイオンが出て、針状構造の中に収まることで電極の劣化を抑えているとBrown氏はいう。負極は銅基板の上(両面)に厚さ10μmのLiSiアロイを堆積する。針状構造を作るのはエッチング技術を利用するというが、秘中の秘であるため、詳細は語らない。

放電する場合には、負極のシリコンのハリネズミ構造からLiイオンが出てカソード側に行く。充電する場合にLiイオンはカソード側からアノード側に戻ってくる。このハリネズミのファイン構造がLiイオンを出し入れしても構造が損なわれずに生き残るのだとBrown氏は言う。


図3 負極のシリコン材料をハリネズミ構造にする

図3 負極のシリコン材料をハリネズミ構造にする


電池の充放電試験では、C/2の条件、すなわち2時間100%充電し2時間100%放電するという条件で試験した。円筒の18650タイプの電池では300サイクルまで50%の容量、スタックタイプの電池では300サイクルで60%、コインタイプでは同じサイクルで80%の容量をそれぞれ確保している。充放電試験の条件をもっと緩めれば寿命はさらに長くなる。ピラーの長さや充放電レート、容量性能など、電池の構造や試験条件をいろいろ変えながら実験を行っている。

同社は、ロンドンインペリアルカレッジをスピンオフして2007年に設立した企業だが、年間250トンの生産能力のある工場を建設した。このために6500万ドルの資金を調達した。この工場を稼働し、大手顧客が大規模生産するための支援を行う。さらに1000トンクラスや大規模生産では電池メーカーとのさまざまなオプションやカスタマイズを進め、将来について話し合いを進めていく予定だとしている。

同社のビジネスモデルは、あくまでも材料供給メーカーだという。この技術をライセンスして売るつもりは今のところない。電池メーカーやEVを開発している自動車メーカーなどにリチウムイオン電池の負極材料を販売する。日本の全バッテリメーカーと話をしているところだとしている。

(2012/02/10)

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