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高い熱伝導性をもつ新しい絶縁材料、エポキシ樹脂とフィラーの開発進む

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熱をよく逃がすが、電気は通さない、という放熱用の絶縁材料を、エポキシにフィラー粒子として混ぜることで熱伝導の優れた樹脂が使えるようになる日が近い。AlNのフィラーを開発しているトクヤマ、熱伝導率の高いエポキシ樹脂を研究している関西大学の原田研究室が、マイクロ・ナノファブリケーション研究会で顔を合わせた。

一般に、電気が流れやすい物質は熱も流しやすい。熱を素早く流す(逃がす)ものの電気は流れにくい、という物質があれば、放熱設計・回路設計が楽になる。SiCセラミックスやAlNセラミックスのような材料は電気を通さないが、熱は良く通す物質だ。パワー半導体、高輝度の照明用LEDといった熱を放出する半導体デバイスに向く。

MOSFETやIGBTトランジスタのドレインは一般にシリコン基板側に端子が出ており、nチャンネルなら電源電圧につなげる応用が比較的多い。このようなパワートランジスタのドレイン同士をつなぐという回路ならそのまま使えるが、基板(ドレイン端子)を放熱板に直接付けられない用途では、絶縁物を介すことが多い。この絶縁物としてかつてはマイカ、雲母といった高価な材料が使われていたが次第にコストの安い材料へと変わってきた。AlNはセラミックディスクとして使われているが、その使い方のバリエーションとして樹脂に混ぜるフィラーとしてAlN粒子をトクヤマは開発している。


図1 AlNは熱伝導率が高く、絶縁性も高い 出典:トクヤマ

図1 AlNは熱伝導率が高く、絶縁性も高い
出典:トクヤマ


トクヤマは10年以上も前からAlNを手掛けてきたが、その理由は電気伝導性が低く熱伝導性が高く、しかも安全に取り扱えるからである。他の材料と比べると(図1)、AlNは熱伝導率が180、230 W/mKと高い。さらに高いBeO(ベリリウム酸化物:通称ベリリア)は毒性がある。熱伝導率が270 W/mKと高いSiCは絶縁性が低くどちらかといえば半導体である。絶縁性と非毒性を備えた材料はAlNしかないともいえる。

AlNは、ホットプレスなどでディスク状に加工してセラミック製品にすることがあるが、その基本は粉末である。その粉末の粒径を制御することが求められるが、同社の持つ還元窒化法では0.1μm以下のものから10μm程度のものまで製造できる。しかし粒径のさらに大きな粉末は得意ではないようだ。現実にシリコーン樹脂などにフィラーとして使う場合には、粒径の異なるAlN粒を組み合わせて使うとフィラーの充填率は向上するという。


図2 樹脂に熱伝導性の優れた粉末をフィラーとして混ぜると樹脂を放熱板として使える 出典:トクヤマ

図2 樹脂に熱伝導性の優れた粉末をフィラーとして混ぜると樹脂を放熱板として使える
出典:トクヤマ


還元窒化法は、アルミナ(Al2O3)とカーボン(C)を混ぜたものを窒化しAlNとする訳だが、その後酸化して、AlN粒の表面を酸化膜で覆う。直接窒化法と比べ表面酸化膜の厚さは2倍の11Å(オングストローム)程度になる。最後の酸化処理によって、粒表面のイミド基(N-H)やアミド基(N-H2)を除去し、純粋なAlN粒ができることをXPS(X線光電子分光分析法)で確認している。

トクヤマは、パワーデバイスの放熱板としてAlNセラミックスをSHAPALという製品名で販売しているが、開発品では熱伝導率がこれまで最高の255 W/mKという値を得ている(図3)。これは、AlN粒界に存在する不純物を減らすことで達成したとしている。


図3 OやYの不純物を粒界から低減させることで熱伝導率を上げた 出典:トクヤマ

図3 OやYの不純物を粒界から低減させることで熱伝導率を上げた
出典:トクヤマ


エポキシ樹脂に規則構造を導入
一方、熱伝導性の良い樹脂ができれば、加工性が優れているため応用はさらに広がる。関西大学の化学生命工学部化学・物質工学科高分子応用材料研究室の原田美由紀准教授は、熱伝導性の高いエポキシ樹脂の開発に取り組んでいる。エポキシ樹脂はICチップの封止材として誰でも知っている材料だが、熱伝導率が低く発熱しやすいデバイスには使いづらい。原田准教授は、アモルファスのような樹脂に規則性を持たせる構造にすれば、熱伝導性が上がり、脆性も強くなるに違いないと考え、エポキシ樹脂に規則性を導入してみた。

物質の規則性を高めるアイデアの一つは結晶性を導入することである。そこで、高分子樹脂となじみの良い液晶材料を混ぜることにした。液晶相を示すメソゲン基モノマーをエポキシ樹脂に混ぜた。メソゲン基は共役構造を持ち、重なって自己組織化しやすいため、結晶構造を作るという性質がある。この液晶性エポキシ樹脂(モノマー)は、低温では結晶性、転移温度を超えるとネマチック液晶やスメクチック液晶などになり、さらに高温だとアモルファス状態の等方性を示す。例えば、C195S205N215Iという転移温度を持つ液晶性エポキシ樹脂は、195℃以下は結晶性、それ以上205℃まではスメクチック液晶的、それ以上の温度から215℃まではネマチック液晶的、215℃以上は等方的になることを意味している。


図4 液晶性を示すと多結晶的にドメインが固まる 出典:関西大学高分子応用材料研究室
図4 液晶性を示すと多結晶的にドメインが固まる
出典:関西大学高分子応用材料研究室


実験では、C178S205N227Iの液晶性エポキシ樹脂DGETP-Meを用い、キュア(硬化)を2段階行い、温度条件を変えた。170℃で1分+170℃で10分の場合(ネマチック)と、160℃1分+120℃10分の場合(スメクチック)に、偏光顕微鏡で液晶状態が観測された。ただ、これだけだと多結晶のようなポリドメイン状態であり、単結晶状態ではない。このため、1T(テスラ)の磁場をかけて液晶の向きを揃えてみた。X線回折の結果、結晶性のピークを観測すると同時に縦・横の強度パターン違いも観測した。


図5 熱伝導率は2〜3倍高まったがまだ不足 出典:関西大学高分子応用材料研究室

図5 熱伝導率は2〜3倍高まったがまだ不足
出典:関西大学高分子応用材料研究室


熱伝導率を測定すると、従来のエポキシ樹脂は0.17~0.21 W/mKだったのに対して、ネマチック液晶状態は0.55 W/mK、スメクチック液晶状態は0.68 W/mKという結果が得られた。とはいえ、この程度の熱伝導率では実用化はほど遠い。そこで、フィラーも混ぜてみることにした。用いた液晶性エポキシ樹脂はC169N212IのDGETAMでフィラーにはBNを用いた。BNもAlNと同様、熱伝導率の高い絶縁材料であるが熱伝導率はAlNの1/3に留まる。


図6 BNのフィラーで熱伝導率は2.5 W/mKまで上がった

図6 BNのフィラーで熱伝導率は2.5 W/mKまで上がった
出典:関西大学高分子応用材料研究室


BNのフィラーを導入すると、液晶性エポキシ樹脂の熱伝導率は0.38 W/mKから2.5 W/mKまで上がった。しかし、放熱板として使うためには、さらに改善が必要である。その方法の一つとして、フィラーにトクヤマのAlNを使うという手がある。今後の検討が楽しみだ。

参考資料
1. パワーデバイスの最新技術動向 (社)エレクトロニクス実装学会 配線板製造技術委員会マイクロ・ナノファブリケーション研究会第13回公開研究会 (2011/07/26)

(2011/08/17)

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