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英国特集2010・プロセスに注力しコラボで実用化早めるウェールズ大

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英国ウェールズ州スワンシーのウェールズ大学構内には、WCPC(Welsh Centre for Printing and Coating)がある。このセンターの責任者(Centre Director)であり、化学科の教授でもあるTim Claypole氏は、「ウェールズ大学には20年以上培ってきたさまざまな印刷の製造プロセス技術がある。ここでは、製造プロセスの研究開発に注力している」という。

ウェールズ大WCPCセンターの責任者Tim Claypole氏

ウェールズ大WCPCセンターの責任者Tim Claypole氏


この地方には昔から印刷産業が盛んに行われており、同教授は伝統的な印刷技術に貢献してきたため、最近のプリンタブルエレクトロニクスにも抵抗なく取り組んでいる。プラスチックエレクトロニクスに使われる印刷技術と伝統的な印刷技術との差はほとんどないという。従来の印刷技術の改善にも力を注ぎ、例えば、プリンタの色と実際の色との違いを解消するための制御ソフトウエアを開発して印刷業界に提供してきた。加えてキロメートルという広い面積にわたって同じ色を確保するという量産技術にも貢献してきた。制御性と再現性が重要だという。Claypole教授は地元の印刷業の方たちとの付き合いを大切にする(ビデオ参照 / 49MB)。

Agインクを使って配線幅75μmのラインを描いたり、CNT(カーボンナノチューブ)やグラフィンなどを描くためのインクも開発している。それも量産を意識して、印刷スピードは実用上30m/分であり、最高250m/分のフレキソ印刷を使っている。この方法は水性インクを使え、環境にやさしい。これは柔らかい対称物(例えば段ボール)などに凸版印刷のように密着して印刷する方法で、欧州で最近活発になっている技術である。

その印刷技術を使った応用には、シリコンチップとフレキシブル基板を集積する技術があり、「TSB(技術戦略会議)が資金を提供し、日本の旭化成と共同で次世代のフレキシブルプリンティングについて共同研究している」とする。フレキシブル基板とシリコン、センサーを集積したプロジェクトもある。こういったフレキシブル印刷技術が使われるセンサーやスマートパッケージング、太陽電池、ディスプレイなどの応用がある。

ただし、ウェールズ大学では応用研究をするのではなく、製造プロセスを開発することを主な任務としており、インクジェット法からロール-ツー-ロールまで、少量多品種から大量生産技術まで揃えている。


ロール-ツー-ロール方式を説明するWCPCのEiffion Jewell講師(左)と筆者

ロール-ツー-ロール方式を説明するWCPCのEiffion Jewell講師(左)と筆者


例えば、バイオ材料として酵素をセンサーとして使うことも考えている。酵素を印刷技術で形成し、紫外線を照射すると色が変わることを利用した新機能材料を作り出す。またセラミック部品を印刷して付けることもできる。PZTやTi薄膜シートをリール-ツー-リールで供給することもできる。

ウェールズ大学では、プロセス技術を開発するとともに、少量生産向けの製造能力を持ち、さまざまな応用に対応できるようにしている。この製造プロセス技術をウェールズ洲の企業に移転することもある。例えば、プロセス技術を開発し、プロジェクトができたらその技術を移転する。バイオメディカル材料の製造プロセスについて移転した。また、大学内に外部企業とのコントラクトを受け持つ2名のスタッフがいる。技術移転に関しては、WCPCの装置を使い、大学を通じて商用化へ持っていくことができる。材料のテストをしたり、製造技術を評価したりする。

資金は英国政府からだけではない。EU(欧州連合)のEuropean Regional Development(ERD)からも資金をもらっている。昨年、同教授チームの印刷技術に対して、このERDから表彰された。表彰理由は、WCPCが産業界と118もの共同プロジェクトを行い、イノベーションや研究開発に対する169のアドバイスを行ったこと、このプロジェクトによる170名の雇用を守ったこと、である。

エレクトロニクス分野での新しい応用として有機太陽電池や大面積のデジタルサイネージ、スマートパッケージ向けのさまざまなセンサーなどを共同研究している。たくさんの導電性の配線や、バイオセンサーやシリコンなどを集積するようなテストツールをデモすることで、エンドユーザーが欲しいパッケージ技術やプロセスを指定することができる。

ここでいうスマートパッケージとは、製品のセキュリティやブランドのセキュリティを確保するための技術である。例えば香水のような高級な製品が本物であるかどうかは温度や湿度、ガス、超音波などのセンサーで測定できるような包装フィルムである。食品の場合も、温度や湿度、ガスなどをモニターしておき、腐りかけると放出するガスが変わってくることを利用する。いわゆる包装フィルムにセンサーやシリコンを集積し、その商品のセキュリティを守る、というわけだ。

有機の太陽電池に関しては欧州第2位の鉄鋼会社コーラスと共同で開発しており、同社とのスポンサー契約も継続する。10万平方メートルからスタートし有機太陽電池をラミネートするとしている。

まだ小型ながら大面積を目指すOLEDは欧州のフィリップス、OSRAM、アグファなどとコンソシアムを結成し、導電性のバリヤメタルを印刷で形成する。プリント基板上に2層のOLEDを設け、表面には透明電極ITOではなく、細いAg配線によって正孔の注入を促す構造を作る。作製面積は当初100mm2から始め、300mm2へと進み、最後に600mm2へと拡大を図る計画だ。ITOは印刷できないが、Agそれもナノ粒子という細かさのAgを有機インクに溶かし、プリンタブル透明導電パターンを形成する。

さらに特殊なウェアラブルコンピュータならぬ、ウェアラブルOLEDというプロジェクトもある。これは洋服のデザイナーを含めたコラボレーションが必要なため、サプライチェーンを含めコラボできる企業を求めている。


印刷によって絵を描き光らせるOLEDのデモ

印刷によって絵を描き光らせるOLEDのデモ


プラスチックエレクトロニクスに使うインクは極めて複雑であり、8200種類もの印刷プロセスパラメータを制御しなければならない。このため物理科学の理解とプリント産業とのコラボレーション、センサーやパッケージ、あるいはメディカル応用となるとがん細胞の検出測定、なども必要になってくる。このためにもコラボは欠かせない。

(2010/04/20)

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