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英国特集2010・大学からベンチャー設立、世界中へ有機インクを提供

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英国では大学を中心にプラスチックエレクトロニクスに関して5つの研究拠点(Centres of Excellence)を設置しているが、「全体として研究者の数は100名に上る」(ロンドンインペリアルカレッジのイアン・マックローチ教授)。同教授は大学に来る前は、ドイツの大手薬品・化学品メーカーのMerckにいた。大学内でもプラスチックエレクトロニクスのベンチャーを2007年に立ち上げている。

英国の重要なプラスチックエレクトロニクス研究拠点

英国の重要なプラスチックエレクトロニクス研究拠点


「英国には大学を中心に、分子設計、分子合成、基板製造、特性評価技術、印刷技術、分子モデリング、測定技術、さらに商用化への準備がすべてそろっている」とマックローチ教授は語る。そのための人材育成をロンドンインペリアルカレッジが担っている。この大学には毎年10名の博士を輩出させるための高度なトレーニングシステムDTC(Doctoral Training Centre)がある。ここに、分子設計、分子合成、印刷技術など全ての専門家がいる。同教授は化学科の教授であると同時にインペリアルカレッジのプラスチックエレクトロニクスセンターのデピュティディレクタでもある。


ロンドンインペリアルカレッジのイアン・マクローチ教授

ロンドンインペリアルカレッジのイアン・マクローチ教授


同教授は、大学で研究全体をみる立場にいる傍ら、自らもベンチャー企業の経営者でもある。従業員3万3000人、61カ国でグローバルに事業を展開するドイツのメルク(Merck)にいた経験を生かし、2007年にベンチャー企業のフレックスインク(Flex Ink)を設立した。このベンチャーは、有機半導体材料を提供するための企業であり、日本の企業をはじめ、台湾、韓国、米国、欧州に供給している。ただし、ほとんどの企業とは秘密保持契約を結んでいるため、どの企業かは明らかにしない。

しかし、CDT(Cambridge Display Technology;住友化学の傘下にある)、台湾のITRI(工業技術院)、米国ゼロックス社のPARC(パロアルトリサーチセンター)とは、秘密保持契約を結んでおらず、オープンなディスカッションをしているという。このディスカッションには英国最大の研究センターであるPETEC(プリンタブルエレクトロニクス技術センター)とも電子伝導メカニズムに関する議論を行っている。

プラスチックエレクトロニクスが、これまでのプリント基板製造や印刷技術を使った回路と決定的に違うのは、有機半導体トランジスタを動かすという点に尽きる。単なる電極配線を印刷で形成するプリント回路基板技術ではない。トランジスタを形成するということが最大の狙いである。連載の第1回で定義したように、プリンテッドエレクトロニクスでもプリンタブルエレクトロニクスでもどちらでもよい。それは単なる手段にすぎないからだ。目的はトランジスタ、すなわち能動デバイスを有機材料で作り込むことにある。

フレックスインクが提供する有機半導体は、電荷を運ぶ材料(charge transfer material)であり、ここにトランジスタを作る。トランジスタの性能は、性能指標の一つであるキャリヤ移動度が最大4cm2/Vsとアモーファスシリコン並みに高いとしている。

有機半導体を印刷で作れるようなフォーメーションにしてユーザーに提供している。特に日本の顧客は、高い生産性とスループットを低コストで作れるようなインクのフォーメーションを要求するという。フレックスインクは、こういった要求を理解し、カスタム対応としてテーラーメードのインクを作り供給する。「もし顧客がインクジェット方式の印刷で使うということなら、溶液の揮発性や、濃度、粘度などを測定・評価し、組成範囲を決めカスタマイズし、かつ実際に使えるフォーメーションにして供給する」と同社マネージングディレクタ(社長)のマックローチ氏は言う。

同社はp型有機半導体だけではなく、n型の材料開発も終え、低分子やポリマーなどの有機材料を揃えている。主な用途は、ディスプレイ(電子ペーパー)や、照明用OLED(有機エレクトロルミネッセンス)、フォトコンダクティブなゼログラフィ、太陽電池などだという。まずはパッシブディスプレイから応用され、固体照明などへ進み、太陽電池はまだ研究段階から抜け出せないとしている。有機半導体による太陽電池はまだ疑問が多く、実用化は遠いとみている。

OLED用材料では、電荷輸送層向けの材料しか提供していない。フルカラー用のディスプレイ向けにはまだやはりRGBのうち青(Blue)は難しいという。ただし、照明用には青色発光層材料は必須だとしている。

プラスチックエレクトロニクス自体まだ、研究フェーズから小規模生産レベルにとどまっているが、今年、英プラスチックロジック(Plastic Logic)社がアマゾンのキンドルに似た電子ブック「QUE」を発表したことから、「この市場に期待している」とマックローチ氏は言う。

また、この分野は幅広い範囲の開発が必要になるため、さまざまな企業や大学とのコラボレーションは欠かせない。コラボを促進するため、KTN(Knowledge Transfer Network)主催のセミナーに積極的に参加し、人脈形成を図ることにも努力している。

(2010/04/09)

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